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14.傷跡


 身体中…いや、主に顔面に大きな傷を負った私は、それから一週間、王宮の医師団に付きっ切りで治療をしてもらい、ようやくまともなご飯を食べられるまでには回復した。


 まぁ負傷はしたが、この国の滅亡を防いだのだ。私は最善の選択をしたと思っている。

 後悔はない。


「姫様、お体の方は大丈夫ですか?」


 私はローレルに向かってニッコリと笑う。

 そうそう、いいこともあった。このくそ意地悪な侍女のローレルがめちゃめちゃ優しいのだ。嫌味も悪態も一切なし。いやぁ快適だ。快適すぎる。体の痛みはあるけど。


「うん、大丈夫。最近、痛みはあまりないの。ねぇローレル、私の髪をとかしてくれない?」

「畏まりました、姫様」

「それと私ね、鏡を見たいの。持ってきて」

「姫様、それは……」

「見たいの」

「ですが…まだ……」

「いいから、鏡」

「はい……畏まりました」


 ローレルは渋々といった様子で、私に手鏡を渡してくれた。受け取った私はそっと鏡を覗き込む。


 自分の顔の傷がどうなっているか少し怖かった。

 うん、でも、そうでもないじゃん。思いの外大したことはなさそう。だって目も飛び出ていないし、頬っぺたも大きく膨らんだりしていない。人の顔をちゃんとしている。とりあえず、おでこが包帯グルグル巻きなだけだ。安心した。まぁあとはこの包帯の中なんだけども……。


「ねぇ、ローレルついでに包帯とっていい?」

「ダメですよ。お医者様に姫様は安静にするようにと言われております」

「安静にしてるよ? だって私、全然動いていないもん。だから少しだけ包帯をとって? そしてもう一度巻き直して欲しいの。せっかくローレルが髪を綺麗にしてくれてるから、包帯も一緒に綺麗にして?」

「姫様、大丈夫ですよ。包帯は綺麗に整ってます」

「整ってない! ほら、こことか、こことかグシャッてなってる! あとそれにかゆいの。包帯取りたい、取りたい、取りたい!」

「あぁーっ、もうっ、分かりました! 分かりましたから! 姫様そんなに暴れないでください。お願いですから安静になさって下さい。包帯は少しだけ、ほんの少しですよ?」


 むふふふ、ちょろいなローレル。


 許可が出た途端、ローレルの手を待ちきれない私は、すぐにグルグル巻きになっていた包帯を自分で解き始めた。小さなため息が一つ頭上から落ちてくると、ローレルも優しい手つきで手伝い始める。私の体の周辺には、ぱらぱらと包帯が落ちていった。


 包帯が全て解けた私は再度手鏡を覗く。


「……」

「姫様、まだ傷は完治していないのです、ですから」


 うん。分かってるよ。目は飛び出ていないし、頬も腫れていない。人の顔をちゃんとしている。

 けど……鏡の中に映る私は、おでこから目の上にかけて痛々しい傷があった。もう皮膚が無いんじゃないかってくらい、傷でただれてる。


 あぁ、これは間違いなく一生残る傷だわ。そりゃぁ、通りでこんなに頭が痛いわけだ。こんな傷、子供の頃の私なら、めちゃくちゃ泣気喚いていたろうに……。


 って、今も子供か。


「あー、ローレル。とりあえず、この傷は見なかったことにしよう。うん、やっぱりあまり見るもんじゃなかった。すぐに包帯巻きなおして。そして、お菓子でも食べよう。とびきり美味しいのでお願い!」


 私の言葉に、ローレルは「それが良いですね」と頷くと、丁寧に包帯を巻きなおしてくれた。


 それから二週間が過ぎた頃、ようやく私に巻かれていた包帯が取れた。絶対安静と言われていた私も、監視の目をくぐり抜け、城内をうろちょろ出来るようになっていたし、何よりも元気だった。


 ただ、傷が塞がっても、予想通り傷跡はガッツリ残ってしまった。割れたグラスの傷だけだったなら、傷の跡はもっと薄かったかもしれないが、グラスの中に入っていたキーラというお酒が良くなかったらしい。キーラは強いお酒で、それを傷と同時に、大量に浴びた私は、傷口がただれてしまい、治癒が遅れたそうだ。数人の医者に見てもらったが、この傷跡を治すことは出来ないそうだ。

 まぁ、私の成長と共に多少は薄くなるかもしれないが、あの感じだと期待はしない方が良さそうだった。


 けど、死ぬよりはマシだ。この国が滅亡するよりかは断然マシ。

 

 そう思うと、この傷が勲章のように誇らしく思えてくる。まるで腫れ物にでも触るように私に接する侍女達や、私を見舞いに来ても顔を見ないようにする貴族達は多いけれど、私はこの傷を隠す気もなければ、恥ずかしいとも全く思わなかった。

 だってループしている過去の記憶や知識の中で、私がこの傷の負っているモノは無かった。ということは、滅亡の未来から少しは遠のいているんじゃないかと思う。


 うん。行けるぞ、私とハロの未来は明るい。

 私は上機嫌に1人頷いた。


「いったい、何がそんなに楽しいんですか?」

「え? だって、未来が明るくなってきたからね」

「……姫様、そんなご冗談を」

「冗談じゃないよ? 明るいもん」

「姫様、ご自分のお顔をよく見ましたか? そんな傷を残して、未来が明るいなど……私なら人生終わったと嘆いています」


 おいおいおい、この女、私の傷口に塩を塗りたくっている事に気付いているのか? 最近毒舌が落ち着いたと思っていたのに。私は傷ついた幼女だぞ? 全力で労われ、そして優しさを勉強して出直してこいローレル。


「ねぇローレル。人は顔だけじゃないでしょ?   私にだってこれから楽しいことが、きっとたくさんあるもん」

「……姫様。確かに姫様の言う事は一理あるかもしれません。ですが……私も言いたくはありませんけれど、姫様はこの国にとっての国益になるお方です。それが姫様の役目であり仕事でもあるのです。その姫様のお顔が、傷物の姫様が国益としてなり得ますか? 今すでに諸外国の方々には不吉だ何だと変な噂が流れているかも知れません。それはこの国にとって不利です。ですから、できる限りその傷を隠し、ひっそりとお過ごし頂きたい」

「ローレル、何を言ってるの、私は国益を……」


 ああ、でもローレルに何を言ってもしょうがないか。周囲の反応を見れば分かる。いくら私がこの傷を良しとしても周りが許さないだろう。要するに、この顔で堂々と歩くの良くないと言う事だ。でも明らかに顔を隠すのも変じゃない? 仮面被ったり? 仮面姫? いやダサいでしょ。何か布でもまいて隠す? ターバンみたいなのはどうかな? ターバン姫! うーん。名前はダサいけど、でもターバンにキラキラの飾りやリボンを飾れば、きっと可愛くて綺麗になる。何だったら流行ったりするかもしれない。私、輝いちゃうかも! うん素適。


「確かにそうかもしれない。分かった。隠しましょう。綺麗な布をまいて可愛くするの。素敵じゃない?」

「姫様はお子様ですね。そんなことしても噂は流れますよ」


 いやいやいや、私はお子様なんだよ! 何が言いたいんだこの女は?


「ねぇローレル、いったい私にどうしろと?」


 いつになく真剣な表情のローレルは、そこで力強く頷いた。


「ええ、ですから私ずっと考えていたのです。姫様、今こそディアス教に入信を!」



ーーーーーーは? ディアス教に入信?


 いや何故?


 何でそこに繋がるのか全く理由が分からない私は、キョトンとした顔でローレルを見つめていた。

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