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13.守るべきもの

 私は、ソフィアを見ながら、ソフィアに抱く違和感を考えていたが、その答えは出ない。

「そうでした。もうすぐグラスタワーの時間です」


 キラキラとした笑顔のソフィアは、楽しそうにそう言った。

 ハロはその言葉に首を傾げる。


「グラスタワーって?」

「グラスを積み上げて、上からキーラを注ぐのですが、キーラの水色が綺麗に流れながらグラスに注がれていくんですよ」

「え? でもキーラってお酒だよね」

「ええ、ですから振る舞われるのは成人されている方だけみたいですけど、見るのは自由ですから。よろしければ、こちらへ」


 私が一人考えを巡らせている間にソフィアはハロを案内し始める。ちょっ、待って!危ない危ない! はぐれたら大変だ。私は慌てて後を追い、二人が立ち止まった所で止まった。

目の前には綺麗なグラスが山のように並べられ輝いている。


「これは、凄いね。ソフィア嬢、凄く綺麗だ」

「ありがとうございます。でも、殿下、キーラをその上から流すと、もっと綺麗なんですよ」

「それは楽しみだ」

「では、すぐにキーラをご用意致しますね」

「いいのかい?」

「ええ、お酒は楽しめませんが、その美しさは一緒に楽しめますもの」


 ソフィアはすぐに、近くにいた使用人に声を掛け、それに頷いた使用人は準備をし始める。

グラスタワーの置かれたテーブルの横に足場の台を置いて乗ると、タワーのてっぺんからキーラをグラスに注ぎ始めた。


「うわぁ、凄い」


 ハロは目を輝かせそのグラスのタワーを見つめている。水色のキーラが次第に下へ下へとグラスを伝って落ちていった。


「すごい、凄く綺麗だね。それに、なんか楽しい」

「ええ、本当に綺麗」


 いや、これってシャンパンタワーじゃない? まぁ確かに綺麗だけど。


 ハロはうっとりとした様子でキーラが注がれているのを見つめながら「ねぇ、あれって僕も出来るかなぁ? やってみたいなぁ」そう呟いた。


「え?」

「できれば、もっと近くで見たいんだ。ダメかな?」

キラキラとした目でハロが言いう。一瞬、驚いた表情のソフィアはそれでも、クスリと笑いながら小さく頷いた。


「ええ、構いませんよ」


 ソフィアが、キーラを注いでいる使用人に合図をおくると、使用人はすぐに台から降りた。

代わりにハロがキーラが入っている小型のタルを受け取ると、嬉しそうに台へと上がる。


 私はハロのその姿を見ながら、何故か嫌な予感を感じていた。隣にいるソフィアは、嬉しそうにただ、笑っているだけだ。

 

 やっぱり、その顔に違和感を覚えてしまう。


 何だ、何かがおかしい。何かを忘れている。

 なんで私の記憶のソフィアは別人のような顔に見えた?


 何故?


ーーーーーーガタン!


 響いた音の方を見ると、ハロが不慣れな手つきでグラスにキーラを注ぎ始めたところだった。しかもバランスが崩れてしまったようで、グラスは、ぐらぐらと揺れている。


 私はその瞬間、ハッと気が付き、思わず振り返りながらソフィアを見た。


 そうだ! そうだよ!! 私が見た未来のソフィアの顔には傷があったんだ。その傷を隠す為に厚化粧をしてた……。だから顔が違って見えたんだ!!


 待って、確かその傷って、ハロが事故ってソフィアに傷を負わたんじゃなかったっけ?

 一瞬のうちに、パズルのピースがはまっていくように記憶が定まっていく。

 そうだ、そうだった。ソフィアの結婚への道のりは、あれだ! 責任フラグ回収ルート!

 ハロのせいで、ソフィアは顔に傷を追ってしまった。それは、公爵令嬢にとって、致命的な傷。お嫁に行く事を考えれば相当なリスクだ。確かハロは言ったんだ。『僕が責任を取るよ。君をお嫁に迎えたいんだ』と。


 そうだ、責任で婚約を結び、周囲に反対されながらも、ハロはそのまま結婚した。でもソフィアはそれに対して悔恨の念を抱くようになった。愛のない責任が故の結婚。ソフィアは段々荒んでいく。結果、彼女は無理心中を測ったのだ。その無理心中を唆したのが、他国の使者。結局は無理心中と同時に攻め入られた。


 いや、ちょっと待って。なら、原因の怪我がない今のソフィアって、ただの良い子ってことか!?


ーーーーーーガタ! ガタ! ガタンッ!


 気づけばタワーの揺れは大きく、ハロを見上げた時にはすでに手遅れだった。スローモーションのように見えたのは、グラスがなだれのように倒れていく瞬間と、体制を崩して倒れるハロに駆け寄るソフィアの姿。


 そんなっ! こんな危ない瞬間にハロに駆け寄っていくなんて、普通にめっちゃ良い娘じゃないか!!


 ハロは台から滑り落ちる。倒れるグラスはハロの方向へと落ちずに、駆け寄っていたソフィアの頭上へと向かって傾いた。


 あぁ、だめだ! この娘を傷物にしては絶対にダメ! この娘を傷物にしたら皆死ぬ。


 私は、勢いよくソフィアに向かって飛びかかった。反動で倒れこんだが、そんな事はどうでも良い。私は全身を使ってソフィアの顔と胸を覆い隠すように、しがみ付いた。

 次の瞬間、大量のグラスが私の頭上に降り注ぎ、ガッシャーンと音が響いたと同時に衝撃と痛みが走った。


「「「きゃあぁぁぁぁーーーーーっ!!」」」


 周囲に悲鳴が響く。


 幼女の体にはあまりに衝撃が強かったらしく、私は身動きを取ることが出来なかったが、それよりもソフィアに傷がないか、それだけが気になっていた。


「ソフィア……怪我、怪我は無い!? 痛いところは? 大丈夫!? ソフィア!」


 私は、痛みを堪えながらソフィアに向かって叫んだ。ソフィアは何が起きているのかまだ理解出来ない様子で、ただ呆然と私を見ている。


「ソフィア!!」


 私のその声でようやくハッとしたソフィアは慌てて「姫様!」と叫びながら起き上がった。


「とりあえず、私のことはいい! ソフィアは? 痛いところは無い? 怪我してない?」

「わた…私は、大丈夫です。でも姫様、姫様が」


 あぁ、良かった。見たところ、顔に傷もなさそうだ。これならきっと大丈夫。


「良かった。でも、もう危ないことはしないで」


 ホッと息を吐いた瞬間、体がふわっとした浮遊間に襲われた。


「そんな、でも、だって姫様の…姫様のお顔が」


 ソフィアが震えた指で自分の口元を押さえる。


 確かに顔痛い。まぁでもそんな事はどうでも良い。


「いいの。私の顔なんて、ソフィアの貴女の顔のほうがよっぽど綺麗。守れて良かった…だからもう……」


 その瞬間、私の視界は真っ暗になった。


「姫様! いやぁぁぁぁぁ!!」


 遠くで、ソフィアの悲鳴が聞こえた気がした。


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