11.欲深きパーティ
馬車から降りると、公爵家の使用人に案内されるがまま、私とハロは屋敷の庭へと向かう。
広い綺麗な緑の庭には、テーブルが置かれ、花が飾られていた。様々な人が談笑をやめて私達に注目をする。
その中でクリーム色のドレスを着た少女が、キラキラとブロンドの髪の毛を太陽に反射させながら、こちらに向かってきた。私達の前に立つと、ドレスのスカートをちょこんと持ち上げて、可愛らしく微笑む。
「殿下、エメラルド姫様、ようこそいらっしゃいました」
ハロは眩しそうに笑い、私も思わず見惚れてしまっていた。いや、だめだろ私! くっそ、ソフィアめ、今回こそはっ!!
ハロはすぐに、紳士的な礼を取る。
「ソフィア嬢、本日はお招きありがとう。素敵なティーパーティーですね」
「ありがとうございます。ゆっくり楽しんで行ってくださいませ」
ちなみに、このパーティーへ出席したいと、私が我儘を言ったのはソフィアも知っている。そして、私宛の招待状が無かったのは、城下町の一件で、私が足の怪我を無理していた事がソフィアにもバレていたからだった。
また無理をしてしまうのではないかとの配慮らしいが。
まぁそんな事いくらでも後から理由はつけられる。私は騙されない。
それよりもハロめ、お前はソフィアに見惚れているのがバレバレだ。
私はハロの服の裾を引っ張りながら「私も早く挨拶したい」そう言って無理矢理ハロの視線を剥がした。
「あぁ、エメごめん。はい、どうぞ」
ハロは下がり私に場所を譲る。
「ソフィア嬢、本日は私も、お招きありがとうございます」
「エメラルド姫様、こちらこそ、お越し頂きありがとうございます。姫様、今日は沢山甘い物をご用意しました。姫様が来られる事が嬉しくて、私の我儘で城下町のシェフの方にも来て頂いたのです。是非楽しんで行って下さいね」
おお! それはナイスって、違う違う! 幼女が甘いもので、すぐにつれると思ったら大間違いだ。私はそんな簡単では無い。だが、城下町のシェフ……。食べてやらんでもないが、それはそれ、ソフィアよ、ハロには近づけさせないからな。
そう心の中とは裏腹に私はソフィアに向けて、とびきりの笑顔を見せつけてやった。
「わぁ、甘いの大好き! 今日、とっても楽しみにしてたの。ソフィア嬢、いっぱいお話しをしましょうね」
「ええ、姫様喜んで」
ソフィアは優しく私に微笑んだ。
さて、問題はここからだ。他の人への挨拶に向かったソフィアを見届けると、私はすぐに手当たり次第に甘いものを皿に乗せ、周囲を見渡した。予想通り、このパーティーの参加者は女性が多い。ハロと同年代の少女もチラホラと見える。ソフィアだけをガードしていたら、新しい出会いと共にハロがその女の餌食になる展開もあるだろう。
ハロにチラチラと視線を送る女共。まるで獲物を狙う肉食獣のようだ。やはり、こんな危険な場所は一刻も早く去るべきだと思う。しかし、どう自然にお開きにするかが問題だ。
何かトラブルでも起こそうか。いや、ダメだ。あまり大きすぎるトラブルの場合、ハロとの行動を今後制限される可能性がある。我儘も聞いてもらえなくなる。そのリスクは高い。かと言って小さなトラブルなら、パーティーはお開きにはならない。
うーん。困ったものだ。ここは暫く様子見するしかないか。
しかし、このケーキは美味しい。やはり、味は下町の物の方が好みかもしれない。
とりあえず今のところ、ハロに近づくのは貴族のじじいばっかりだし。息女を紹介している者もいたが、形式的な挨拶のみだ。
まぁそれでも女のチェックは疎かにできない。隙を見てイベントチャンスを狙っている者もいるだろう。全く、どこのどいつだ。
あ、この甘味も美味しいな。
「姫様、食べながらキョロキョロと落ち着きがないのはお行儀が悪いです」
近くに控えていたローレルが、小声で私を嗜めたが、私は気にすることなく周囲を見渡した。
おっと、あの女、視線が怪しいぞ……。赤毛の活発そうな女。年はハロより少し上に見えるが、いわゆる気さくなお姉さんキャラか? あの手のタイプは他の女よりも積極的に来る可能性が高そうだ。ソフィアの次に気をつけなければならないのはあの女かもしれない。
うん、よーちぇっくや!
チラリと見たソフィアは、まだ挨拶回りで忙しそうだった。このままハロに近づかなければ良いが、そうも行かないだろう。挨拶が終わり接近し始めたら、私がお友達作戦で割り込み、ハロから一度離す。
その前に、あの赤毛女がどう来るかだな。
くそー、私がもう少し大人だったら、飲み物に利尿剤でも入れてやったのに。レディー達がお手洗い行っている間に私がパーティをお開きにしてやれたのに。
だが、所詮は幼女の私に、今出来ることなどほとんどない。私が犯人だとバレないように問題を起こすのは難しいだろう。それに、監視役のローレルが私をめっちゃ睨んでいるし。
「殿下、今、お話よろしいですか?」
暫く、パーティーを潰す妄想を楽しんでいる間に、知らない女の声が突然聞こえた。振り向くとあの赤毛の女がドレスをちょこんと持ちながら微笑んでいる。
ハロはニッコリと笑って頷いた。
「お初にお目にかかります。キャロル・コート・クリシスと申します。キャロルとお呼びくださいませ」
チッ、この赤毛の女、思ったよりも早かったな! だが、こんなのは想定内だ。覚悟するがいい。お前がどんな悪女に成り下がるのか、そんなのは私が、触ればすぐに分かる!
首を洗って待っているがいい。
ふははははははははは!!




