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07 大阪の異能力者④

「初の任務で三人の異能力者に完封勝利! これはかなりの実力がなきゃ出来ないよ。ゲンジものんびりしていたら、追い抜かされちゃうよ~?」


 ビルの外で集まった三人。ミチカの成果に花人は余程嬉しいのか、花人の奢りで焼き肉屋でお祝いすることが決定した。腹を空かせる成長期達にとっては、かなり嬉しいプレゼントだ。


「マジか。やったな」

「えっと、はい。ありがとうございます?」

「何で敬語で疑問形?」


 ゲンジは花人の挑発に一切返さず、素直にミチカに称賛の言葉を贈る。戸惑いながらも受け取ったミチカ、しかし自分の頭の中にある、『The・無愛想』といったゲンジが崩れてしまい、返事もおかしなものとなってしまう。


「えーと。変なものを食べたせいで」

「いや、食うなよ」

「ゲンジが人を褒めるなんて似合わないから」

「失礼な。俺だって褒めますよ」


 ゲンジの言葉に「見えない見えない」と花人は軽く返し、話は拘束状態の三人へと移る。彼女たちはミチカの”イルカ”の攻撃で気絶し、まだ目覚めないでいた。


「事情、聞こうにも起きないね」

「こういう場合、どうするんですか?」

「取り合えず撤収だ。ミチカの超音波は回りに響く。野次馬が集まる前にこいつらを東異能学校(ウチ)と繋がりのある病院へ運ぶ。事情を聞くのはそこからだ」

「あー、そこはマイナスポイントだったね」

「すいません……」


 ゲンジの説明に頭を下げるミチカ。戦いのときはこれ以上ないくらいベストな選択だと思っていたが、思い返せばかなりの爆音を響かせてしまっていた。自分なら文句を言いに行くだろう。


「さっき車呼んだから、もうちょっとで来るはずだよ。ミチカ、この子たちの学生手帳、探してみて。この子たちの身元を知りたい」

「判りました」


 ミチカは言われたとおり拘束した三人――リーダーと呼ばれていたイネのポケットを探る。定期入れぐらいのサイズだろうなと当たりを付けて物色するのだが、それとは別におかしな物体の感触がした。


 ライターよりも二回り大きく、水筒にしては小さすぎるサイズ。そう言えば、三発目の超音波を出す際に、イネと呼ばれた少女が何かを取り出そうというしていた気がする。


 後から縫い付けられたような内ポケットから出したそれは、布で包まれていた。


「何だ、それ?」

「いや、判らないです」


 ゲンジの質問を淡白に返し、ミチカは布を剥ぎ取る。現れたのは小さな銀色の筒の上に透明なプラスチックの蓋した()()()だった。蓋の中には赤いプニプニとしたものが入っている。


 ミチカはプニプニの正体を確かめようとプラスチックの蓋を外す。プニプニは自身の”イルカ”のような強い弾力性はないものの、どうやら表面と内側の二段構造になっているらしく、少し力を入れると固い感触がする。


「ちょっと。それ、なんかのスイッチじゃないの。触っちゃダメだよ」

「え、スイッチですか?」

「天然か」


 ゲンジの呆れた言葉にもミチカは理解出来ないでいる。


「なんか爆発するかもしれないだろう。危ないから、渡せ」

「ゲンジ、漫画の見過ぎじゃない~♪ 中学生の女の子が爆弾持っているわけないでしょう」

「じゃあ、これは何ですか?」

「押せば分かるでしょ」

「だったら押してくださいよ」

「やだ♪」

「この人は……」

「取り合えず、これは回収して――そっちの三人娘も保護しておこう。やったね、ミチカ。君にも後輩が出来る。それも、三人もだ」

「おお♪」


 少し嬉しいミチカ。


「異能業界は、人少ないから仲良くしてやってね」

「判りました」


 それじゃあ撤収――そうしてミチカ達はその場を後にした。



 ◇ ◇ ◇



 緑のジャージに金髪の髪の少女。親子丼専門店『鳥力』にて大盛5杯食べ切った少女はテクテクと歩いていく。


 行先は先月引っ越したばかりのマンションの一室だ。


「髪、金髪に染めたんですね」

「うん」


 音もせず現れた白い着物の少女に、緑ジャージの少女は平然とした様子で返事する。


「黒髪だと、気づく人いるから」

「印象がガラリと変わりましたね。以前はもっとお淑やかでしたのに」

「……今は?」

「腐っていますよ。ゲームの廃人さんを見ているようで、ちょっとおかしいです」

「……まあ、()()()()()()()()はそうだったから、いいけど」


 緑ジャージの少女はそう言って白い着物の少女をマンションの一室で缶ビールを飲まないかと誘うが、すげなく断られる。


「私はワイン一筋。浮気はしません」

「着物くせに、ワインて」

「この()()()()が目に入りませんか?」

「……髪で隠れているから」

「あら、そうでした」


 クスクスと可笑しそうに笑う白い着物の少女に、お喋りを十分楽しんだ緑ジャージの少女は本題をようやく本題を促す。


「ふむふむ。大阪は20人中12人は死亡。5人は腐った蜜柑に。3人は東京異能かー」

「予想はしていましたが、やはり西と東では情報交換はされていないようですね」

「それは当然でしょ。あいつら、クズだし。東西だけではなく、本家と分家でも騙し合いだもの。救いようがないよね、ホント」

「苦い顔をしないでくださいよ。そのための計画なんですから」


 白い着物の少女の言葉に緑ジャージの少女は苦いため息をつく。


「来月からのペースは予定通りに」


 別れる前、白い着物の少女は予定の確認を行う。


「うん。倍々で異能力者を作る感じで。後、魔力濃度が良い感じに濃くなってきたら、クリーチャーを出現させる感じで――――



 ◇ ◇ ◇



「クリーチャー?」

「ああ。魔力で生命維持する化物だと聞いている。ほら、ゲームとかに出て来る」

「ああ。ゴブリンね♪」


 異能学校――というよりも竹奈花の伝手のある病院。そこで、ミチカ達は保護した三人娘――そのリーダーである赤張稲から話を聞いていた。


 赤張稲曰く、異能力は白い着物の少女から貰ったという。


「あんたちは異能力って言っているやつ――着物の人は〈スキル〉だと言っていた」

「〈スキル〉ねー。まるで、ゲームみたいだ。それで、どうやってその〈スキル〉を貰ったんだい」

「スキルを作る〈スキル〉と、スキルを与える〈スキル〉――そう言われた。着物の少女の血を何日間に分けて1リットル飲んで、手に入れた」

「きもっ。飲みすぎでしょ」


 花人の言葉に傷ついたような顔をする赤張稲。彼女自身も不潔じゃないかと思っていたが、人に言われると心に来るものがある。


「そこまで異能力を手にした理由はなんだ?」


 笑う花人の横で、ゲンジは質問した。


「延命するためだ」

「……何だと?」


 その発言は、ゲンジの琴線に触った。花人でさえも、表情を硬くする。


「どうして人の寿命が短くなったのか。それは〈スキル〉が人の命を吸っているからだ――着物の少女に、そう説明されたんだ」

「そいつは可笑しいだろう。寿命が短くなっているのは異能力者だけじゃない。人類全部だ。その着物のやつの言葉があっているなら、人類全部が異能力者じゃないと説明がつかない」

「――いや、待て。成程、そういうことか」


 詰め寄るゲンジに花人はストップをかけ――赤張に質問をする。


「人の命を吸うって言っていたけど、それって魔力の代わりにって意味?」

「ああ。そうだ」

「成程。だから、異能力者をどんどん増やして、魔力濃度を濃くしようと」

「ああ。〈スキル〉を発動した際に少量の魔力が空気中に流れる。それが魔力濃度に繋がると言っていた」

「ちょっとまとめてみよう」

 

 花人は持っていた手帳にサラサラーと書いていく。


 『①異能力者を作る


 →②異能力者を増やす


 →③クリーチャーを増やす


 →④   ?   』


「この(ハテナ)は何ですか?」

「次に出て来る新キャラ」


 花人は答えになっていない答えをミチカに返し、書いた手帳のページを赤張に見せる。


「魔力濃度の濃さによって出て来る順番を書いてみました。ちなみに、①が魔力濃度がゼロのときね。クリーチャーが③なんだけど、次の④番目」


 そう言ってペンで『④  ?  』を二重丸にして強調させる。


「クリーチャーっていうのは異界の化物だよね。そいつから漏れていく魔力によって魔力濃度が更に濃くなるわけだけど――その次に出て来るのって何か分かる?」


 声色が代わり、花人の目も鋭くなる。


「…………知らない」

「嘘だ」


 花人は断言する。


「いくら魔力濃度が濃くなって〈スキル〉が命を吸わなくなったとしても、〈スキル〉が奪った命は戻ってこない。治療する必要がある――そうだろ?」


 花人の言葉に――赤張は沈黙するだけだった。



 ◇ ◇ ◇



 これ以上聞いても答えてくれないだろうと判断した花人は取り調べを終了する。何やら悩む様子の赤張稲の姿にミチカの庇護欲が刺激する。


 だが、声をかける前にゲンジに止められる。


「放っておけ」

「――でも」

「今は、一人にさせた方が良い。見る限り精神がかなり疲れている。早く、横にさせたほうがあいつのためだ」

「……分かった」


 そんなミチカとゲンジのやり取りを横で、花人は口元を抑えていた。


(おいおいおい、何だよ。なんだか判らないけど、面白くなってきたじゃないか)


 ――何故か込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。


 そして、その理由はすぐに分かった。


(――そうか。私は全力でぶっ潰したい相手に会えることに喜んでいるのか。ったく、待たせやがって。ようやくご登場か)



 ◇ ◇ ◇



 白い着物の少女の言葉に、緑ジャージの少女は「うん」と答える。


「クリスマスだ。奇跡の日に私が出られるように魔力濃度の調整をお願いね」

「了解しました――姫路ナキ様」


 最後の確認を終え、白い着物の少女は風とともに消えた。


 マンションの階段を上り、自室に入り――買ったばかりの缶ビールの蓋を開ける。


 ゴクリ――これから来る未来に喉を景気よく鳴らす。


「――ああ、楽しみ。そうでしょ、ソーダ」


 ブルーレイディスク、その上に置かれた銀色の腕輪――ソーダから抽出した外付け〈スキル〉を見て、感慨深げに呟いた。




 〈現実(リアル)〉世界のプロローグは終わり――混沌イーヴァンプールへと向かう。

ようやく姫路ナキを登場させることが出来ました。


『この人、誰? よく判んない』と思う方は、

『引きこもりが異世界に召喚されたら。』を読めば分かります!


姫路ナキの前日譚のようなものなので、読まなくても「回帰覚醒」を読む上では支障が出ません(出ないように頑張ります!)


この話で「回帰覚醒」の序章は終わりです。

次から物語をドンドン加速させていきます!

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