06 大阪の異能力者③
(殺すつもり?)
金髪の少女――赤張稲は異能学園の学生と思っていた少女の言葉に動揺した。情報が確かなら、異能力を持つ自分は保護される対象だ。それも未登録でもない、登録外となる異能力者は学園にとって確保しなければならない対象。
(そう聞いていたんだけどな……)
だが、目の前の学生は積極的に攻撃をしにきた。
不意の先制攻撃を防いだ少女は肉弾戦へと攻撃しに来た。迎え撃つ形で黄色の花弁を放ったが、全てスライムのような異能力によって防がれた。
走る勢いのまま、射程距離に入られてイネは懐に重い一撃を入れられ、地に膝を付いてしまっている。
(見た目ゼリーみたいな感じなのに、固いわ。弾力性が高いのかな?)
胃から上がってくる気持ち悪いものを必死に抑え込みながら考えるイネに、学生は声をかける。
「貴方、自分のこと、強いって言ったよね? この程度?」
「アハハ、まさか?」
そう返すものの、イネは内心焦りを隠せていないことを判っていた。
(あんたが、強いのよ)
心の中で不満を溢していると、学生が口を開く。
「例え、自分の身を守れるほどの力があったとしても、貴方は自分の力を持て余してしまう。使いどころを知らないまま力を所持し続け、いつか間違った使い道をする」
「なに? 占い師のつもり?」
「宝くじで一億円当たったけど、使い道が判らなくてバカになった話、聞いたことがない? 今の貴方はそれを同じなのよ」
「急にリアリティー感が強くなったわね。判りやすい説明、ありがとう」
埒が明かないと感じたイネは足を蹴る。その一回だけで、ミチカから4メートルほどの距離を作った。
「で? 誰の受け売りなわけ」
「……先生が私にそう教えてくれた」
「異能学園の? へえ~」
「どうして判ったの?」
「全然、説得力なかったから。言葉が軽すぎるのよ」
「成程。それは、ごめんなさい」
「なんで謝るのよ」
「人のことなのに、私は好き勝手言っているから」
ミチカの言葉に苛立たしいものを感じたイネは、睨みつける。
「でも、先生の言葉は間違っていない」
「……ハッ。どうだか。私はその先生からお言葉を頂いたわけじゃないからね。でも、たぶん間違っているよ。その先生」
「なんで?」
「……あんたら、待ち伏せされていること、気が付かなかったじゃないでしょ」
イネの指パッチンに答えるようにミチカの足場が崩れた。突然のことに身動き取れないミチカは”イルカ”で全身を覆うも、落下時のダメージを完全に防ぐことは出来なかった。
スライムが触手を伸ばすように、ミチカは”イルカ”を器用に操作し、直ぐに立ち上がる。ワンフロア下に落とされ、イネの追撃を警戒するが、上から来るものだと思われた攻撃が足元から来た。
三メートルサイズのモンスター。頭に花の咲いた寸胴体形の生物が二匹、ミチカ足を拘束していた。
(もさもさの天狗!?)
キノコのような鼻をしたモンスターをすぐにひっぺがそうとするが、それより先に炎がミチカを襲う。
BOBOBOBOBO!!――と連続する噴射音がミチカの知っている自然の炎とは乖離していた。
炎の切れ目から、チューリップハットと被ったセーラー服の少女が見えた。
「……やりましたか?」
「いや、まだだろう」
ミチカが天狗と呼んだモンスターを抱えるオドオドとした少女の言葉を、右手から炎を噴出続ける少女は否定する。
「そのまま続けて」
「リーダー」
黄色いと攻撃後と破壊音とともに降りてきたイネは、二人の仲間に指示を出す。
「大抵の攻撃じゃダメ。ダメージにならない。柳原の炎で炙ったほうがいい」
「OK」
返事した柳原は火力を上げ、炎を巨大にさせる――が、それも長くは続かなかった。
PAM――何かが弾けるような音ともに炎が吹き飛ばされる。その衝撃音と弾かれた火の粉――何よりさっきまでとは三倍のサイズまで膨張した”イルカ”に三人は驚きの顔をする。
「――捕縛する」
”イルカ”の中、妙な構えで宣告するミチカに三人は恐怖を抱く。
先に気が付いたのはイネだった。
(さっきのはジャブ、次のブローが来る!)
ボクシングでいう『ワン・ツー』を想起する。イネはボクシングを知らないが、一発目のジャブより二発目の方が威力が強いだろうことはなんとなく判っていた。
その直感は半分辺りで――半分外れだった。
ミチカの膨張した”イルカ”は震え、PAN――再度、音を震わせた。それにより生まれたショックウエーブは三人を怯ませ、僅かな硬直状態を生む。
ショックウエーブの効果はそれだけではない。弾けたような音を震わす衝撃は、”イルカ”の一部を切り離す役目を果たしていた。
それは結果的に――生み出した衝撃で千切れてしまった”イルカ”とも言うべき複数の一部は、最初の一発目で野球ボールサイズでまだ空中に残っていた。
そして、二発目のショックウエーブ。空中に漂う”イルカ”の一部にも例外なく振動が伝播し、衝撃に沿いイネ達三人へと向かう。
一部にヒットしたのはオドオドと天狗を抱えていた少女だった。特徴的な呻き声とともに気絶する少女――それに呼応するように抱えていた天狗と、ミチカが”イルカ”内で羽交い絞めにしていた天狗二匹も消失した。
それは異能力である召喚者と使役されるモンスターとのリンクが切れたことを意味していた。召喚と使役、その二つ合わせての異能力。
「ちっ」
チューリップハットの少女――ヤナギハラはその状況に舌打ちをし、炎で反撃に出ようとする。だが、先に手を打っていたのはミチカだった。
気絶させた”イルカ”の一部、それが二発目のショックウエーブで更に散開していた。
そして、三度目のショックウエーブ。本命の攻撃は、さながら弾幕のように残り二人に直撃し――再起不能にした。
「っうし!」
沈黙から10秒後――戦闘の興奮から覚めたミチカは、勝利を噛み締めた。