05 大阪の異能力者②
「大阪で現れた異能力者。金色と緑色が混ざったオーラみたいなものを纏っているみたいで、どうもミチカの“イルカ”と似た感じらしい」
大阪行きの新幹線内で弁当を食べながら花の説明を聞く。
「みたいとうのは?」
「ああ。現地の職員の情報から」
「その人に異能力者の捕縛をして貰えればいいじゃないですか。というか、俺たちが態々来なくても西の奴らに任せればいいでしょ」
「私、粉ものが好きなのよ」
はあ?――ゲンジとミチカは口を開ける。
「ウソウソ、そんな怖い顔しないで。見つけたのが、私の後輩だったのよ。でも、そいつは他のことで手一杯で、だから私たちが代理で赴くってわけ」
「その代理を西に任せればいいじゃないですか?」
「馬鹿だね、ゲンジ。西に任せたら西の学生になるでしょう。せっかくこっちが見つけたんだから、こっちに取り込みたいじゃない」
「……?」
「要は自分の生徒にしたいんだよ、この人」
「そゆことね」
ポンと、納得の顔をするミチカ。その反応に嬉しいのか、カラカラと笑いながら花人は説明する。
「前にも言ったけど、異能力者自体少ないんだ。それも決まった血縁関係――家柄で固定されている。だから、異能力発動の条件には特定の血が必要とさえ言われているんだ」
「特定の血ですか?」
「うん。異能力はその家の血統で決まると言われるほどだ。ゲンジもその内の一人だよ」
異能力者には登録と未登録の二種類が存在し、発動させた人が登録。発動させていないが、条件をクリアしている人が未登録と分類される。この判別方法には、その特定の血――血縁関係に入っているかどうかである。
「良いところの出だったということですか」
「単に血が繋がっていただけだ。遠い親戚だと知ったのも力に目覚めてからだしな」
異能力の才能――適応するための感性と肉体がなければ、例え当主の息子・娘だったとしても異能力に目覚めないこともある。
本家との血縁が薄かったゲンジが異能力に目覚めたのは、その二つの要因が血をカバーできるほど優れていたことが大きい。
「それって凄いことなんですか?」
「凄いことだよ。でも、ミチカはもっと凄い。なにせ、前提条件を無視して異能力に目覚めたんだから」
花人はパチパチとミチカに拍手する。内容を上手く飲み込まないミチカは、無難に小さく礼をする。
「それで? 今回もそのレアケースっていうわけですか」
「私はそう睨んでいる。それも作為的な匂いさえしている」
「作為的な匂い?」
「ゲンジに続いて、ミチカ。そして、更に三人目。教室でも言ったけど、たった一か月で三人の異能力者が出るのはどう考えてもおかしいでしょ。誰かが動いている可能性がある」
花人の最後の言葉に、ゲンジの瞳孔が開く。それに全く気付く気配のないミチカは好奇心のままに尋ねる。
「誰かって、誰ですか?」
「決まっているでしょう。この世界の仇敵――姫路ナキだ」
◇ ◇ ◇
目撃情報があった廃ビルは、町のビル群の陰に隠れるようにして在った。
到着した三人のうち、ミチカとゲンジがビル内に入り、花人は出入口前で待機する。
上階から探索を行うミチカは花人の言葉を思い出す。
――私個人としては、姫路ナキが裏から引いている可能性が高いと思う。けれど、本人が出て来る可能性はないよ。
――たぶん、何かを起こす前の準備段階、もしくは実験段階に入っているだけ。
――今回、君たちに頼むのは異能力者の保護だ。戦闘じゃない。
――だけど、保護は戦闘を前提として考えた方が良い。異能力に目覚めた者はその力を使いたくなる傾向にある。理由さえあれば、惜しみもなく異能力を使う。未登録者でもそうなんだ、レアケースはそれよりも不味いと考えてくれ。
下の階へ降りるとき、何かの音がした。ミチカは音の先へと走る。
その扉の先には、一人の少女がいた。バンダナが特徴的な金色の髪をした少女が椅子に座って流行りの飲み物を飲みながら電子機器を弄っている。
少女の方もミチカに気が付いたようで、電子機器を見えるように高く上げる。
「これ、知ってる? 電波モンスターっていう昔の古いゲーム。ラジオとかに出てる周波数によってゲットできるモンスターが変わって、それを育成するゲーム。リサイクルショップで買ったんだけど、意外と面白いのよ」
「……知らないわ」
「やっぱりそうかー、古いもんねコレ」
気さくに話してくる金髪の少女だったが、その目はやけに好戦的だった。ミチカとは距離があるが、その目から感じる強い意思は遠くからでも分かる。
それが、泣いて助けを呼ぶような、悲鳴染みた目だとしても。
悲愴さを感じさせない声と雰囲気で少女は話を続ける。
「ねえ、異能学園の人でしょ」
「ええ、そうよ。どうして判ったの?」
「とある人からの教えて貰ったのよ。異能力専門の学校があって、そこで異能力者は兵隊として育成されているって。それで、何しに来たの? やっぱり、私の保護?」
異能学園は異能力者の育成の面も強い。異能学園を管理する上層部、その目的は姫路ナキの討伐であり、その戦力は大いに越したことはない。
少女の言う兵隊という言葉もあながち間違いではない。
「ええ。貴方の保護に来たわ」
「……それって、断ること出来るわけ? 私には要らないと思うんだ―。自分でいうのも変だけど、かなり強いし」
威嚇のつもりなのか、情報通りの力が金髪の少女から出て来る。
「確かにこれに目覚めたんだけど、でも、それ以外は変わっていないんだよね。だから、貴女が見逃してくれれば、私は昨日と同じような日常と送れるってわけ」
ミチカには少女の言葉が深刻な悲鳴に聞こえた。事情に違いがあれど、共通点が多いことが理由だ。
けれど、それは出来ない。何の安全装置もなしに異能力者を放置することは出来ない。何故なら、公に出来ない力であり、社会を混乱に陥れるものだからだ。
例え、見逃して問題がなかったとしても結果論だ。例外を作る、それ自体がダメなことである。その全てをミチカは理解していた。
異能学園に入ったミチカが最初に学んだことが、異能が人と社会に与える影響だった。
――特に、人間は判らないものを極端に恐怖する生き物だからね。彼らもこれまで通りの日常を送れるとは思っていない。でも、もしかしたらという願望がある。
――そんな彼らの淡い希望を奪おうとする私たちは、彼らにとって日常を脅かす敵。戦闘も、これまでの日常を守る正当防衛だ。
社会全体と一個人、どちらを優先すべきかは決まっている。
「ごめん、見逃すのは無理。私は貴方を保護しないといけない」
「そう――」
金髪の少女が立ち上がり、腕を振るう。その動作に合わせて金色の花弁が粉のように現れ、ミチカにまで届くころには直径4メートルにまで巨大化していた。
「――って、許容できるわけないでしょ」
「だよね」
迎撃用意をしていたミチカは“イルカ”を発動させ、花弁をノーダメージで受け止める。空気を切るような音をしていた花弁は、ミチカの“イルカ”の止められたまま、瞬く間に消えていった。
(瞬間的な力が高い分、持続力がないタイプ)
「だったら、拘束させてもらう」
――ミチカ。この異能世界の先輩として、後輩となるガキの全力を全力で受け止める義務が君にある。それに、相手を黙らせるのには圧倒的な力を見せつけた方が手っ取り早い。
「異能力、フルで使ったほうがいい。私も殺すつもりで行くから」