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04 大阪の異能力者①

 浅尾ミチカの朝は早い。


 午前4時30分、起床。起床後、朝日を浴びながらの黙想3分。ランニングを30分行い、軽くシャワーで汗を流す。


 朝食を作り、ゆっくりを食べる。そのとき、珈琲は二杯飲むことが多い。以上のことを午前6時までに済ませる。


 学校へ行くのは7時。その間の一時間は好きなこと――お金儲けのやり方について調べる。一から調べるのは大変なので、お金持ちの体験談を手掛かりに調べる。


 お金持ちの話を聞きたい人は五万とおり、彼らもそのネタで出版した本の印税でまた稼ぐ。お金コイコイスパイラルを形成しているのだから、ミチカも全力でその恩恵に預かろうとする。


 だから、その貴重な一時間を阻害されることは大変嫌いだ。



 ◇ ◇ ◇



 それは教室にて、登校してから一週間が経った頃。


「嫌です」

「え? 拒否するの?」

「絶対、嫌です」


 東異能学校、その教師を務めている竹奈花からのお願いをミチカは拒否をする。


「何ですか、時間外労働ですか? いくらファンタジーが寛容とはいえ、私の生活リズムまで侵食されることまで許容した覚えはありません。花の制服女子はタダでさえ短いというのに。虐待教師ですか、ジャケンナ」

「ジャケンナ?」

「ふざけるな、という意味です」

「ああ、そうなのね。でも、学生の仕事だから。実地授業だから」

「嫌です」


 竹奈花とミチカの応酬に嫌気が指した九条ゲンジは口を挟む。


「我がまま言うなよ。お前と同じように異能力者が現れたんだ。人的被害が出る前に捕縛、身の保護が学園の目的っていうことは初日にしっかりと教えて貰ったはずだろ」

「仮入学前に花先生に教えて貰いました。ですが、それとこれとは別です。どうして20時大阪到着の新幹線の切符が出て来るんですか」


 ミチカが手に持った切符を強調しているのか、ポーズを決めて見せる。その切符はミチカ、ゲンジ、花の三人分が用意されていた。


「絶対、帰り朝になっちゃいますよね? 確率的に80%。私、まだ中学生で成長期なので睡眠時間の確保は絶対なんですよ」

「決まったわけじゃないだろう。20%を信じろよ」

「五回に一つ。私なら万馬券で勝負しちゃうね」

「悪乗りは止めてください。私が言いたいのは、こういうことが一回じゃなく、定期的に起きちゃうんじゃないかと危惧しているんですよ。生活リズムが夜型になっちゃいます」

「まさか。そんな訳ないだろう」


 先ほどまでの明るい口調とは一転、花の声はワントーン低くなる。


「異能力者のほとんどは由緒ある家系だ。血で異能力が決まると言ってもいい。一般人から異能力者が出るなんて10年に一人程度のレアケースだ」

「え。九条さんは一か月先輩なんですね。もっと先輩だと思っていました」

「ああ。俺もこっちに入って日が浅い。お前と大して変わらないよ」

「その割には、戦闘力バリバリでしたが。何かやっていました、不良など。もしくは暴走族」

「何でだよ」

「ゲンジはセンスがいいんだよ。異能力自体もシンプルな肉体強化だし」


 花の言葉にミチカはゲンジとの戦闘を思い出す。考えれば、炎や氷など漫画に出てきそうな攻撃をゲンジはしなかった。人間離れした身体能力、それそのものがゲンジの異能力なのだと理解する。


「先月のゲンジに加え、今月はミチカに加えもう一人だ。これは、何か波が来ていると私は思うよ。血統重視の古株を脅かす脅威、もしくは――?」

「…………溜めが長い。早く言ってください」

「――あ、もうこんな時間。歯磨き粉、買いに行かなくちゃ」

「え、言わないんですか?」

「30分後、校門に集合ね。それじゃ」

「短かくないですか!」

「諦めろ。人命・要人保護優先だ」

「…………了解」


 人の命を盾にされると何も言えない。ブラックなところに入ったなとミチカは早くも後悔し始めた。



 ◇ ◇ ◇



 大阪府、たこ焼き通り。


「ねえ、君。今、一人?」

「あん?」


 20代の男が金髪に遠い異民族風のバンダナを巻いた金髪少女に声をかける。


「一人だけど。それが何?」

「いや、寂しそうじゃない。見たところ、高校生でしょ。ねえ、今からちょっと遊ばない。あっちで良いジャズが流れる店があるんだけどさ、どうよ?」

「どうよって。お前、ナンパ初めてだろ?」

「ギクっ!」

「擬音を口に出す感じが、まさにそれな」


 20代の男はがっくりと肩を落とす。


「まあ、チャレンジは良いことだと思うよ。アクション起こさない、心モヤシよりもカッコいいよ」

「え、本当かよ! じゃあ、洒落た喫茶店で一杯――」

「それは無理。お前を見ていると弟の顔を思い出す」

「おう……。脈なしだということが頭の悪い俺でも分かるぜ」

「ハハハ」


 ポン、と応援のつもりで20代の男の肩を叩いた金髪少女は、そのままたこ焼き通りの奥へと歩いて行った。その後ろ姿を目で追う男。


「はあ~。洒落たバンダナが目に留まって声かけちゃったけど、マジでいい女だったな~。付き合えたら、幸せだろうな~」


 ため息を二度三度。でも、始めて出会った少女から応援を頂いたのだから、気分は男が思うよりも良かった。


「よし。もう一回チャレンジしますか!」


 次に男が目に留まったのは、大阪じゃ珍しい着物を着た女性だった。着物自体珍しいことではないが、ここは大阪。白い着物はソースの汚れが目立つ。


「着物を着ている割には、年は俺と同じ20ぐらいか? よし、ここは大阪人として良い店紹介するだけにしとこ。絶対初見さん――というか、和服美人を装った不思議ちゃんみたいやし」


 男は手を高くして声をかけていった。


 先ほど前のやり取りから聞こえていた周りの人からは、「変わりもんやな~」とただ奇異の目が向けられていた。


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