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ある不器用な恋の物語  作者: 自鳴琴 奏
8/10

お茶会と侯爵令嬢

「ねえ兄様、やっぱり明日行きたくないわ、今からお断りしたらいけないかしら?」

 明日の事を考えると気が重い。アイリスは隣に座る兄にしか聞こえない、小声で話しかけた。

 

「いけないだろうね、どう考えても。行っておいで、婚約者同士で出掛けるなんて普通だろう。」さも当然のように、こちらも隣にしかきこえない、小声で返す。


 今アイリスと兄ローラントがいるのは、遠縁に当たる侯爵家夫人の庭園でのお茶会だ。

小さ目のテーブルとセットの二人掛けのお洒落な木製のベンチに隣り合わせで腰掛けている。

 当侯爵夫人の人柄の良さもあるのだろう、人が多く集まり和気藹々としたお茶会だ。

 

「何であの時、『はい』っていったのかしら?でも、断れる雰囲気じゃなかったのよね。」

   思い出してアイリスはため息をつく。

 顔面蒼白で、焦ったような、縋るような顔したディリクの誘いを断れなかったのだ。


「いいから行っておいで、ここ何年か二人で出掛けてなかっただろう。

                 でもあのディリク殿からなんて…、良かったじゃないか。」

他人事だからだろう、何処かからかう様に、楽しむ様に言う兄に静かにムカつきながらアイリスは独り言のように言う。

 「兄様は何も知らないから言えるのよ!」ついでにジット目で軽く睨むと、苦笑いして頭を

ポンポン叩かれた。

 「これを機に…ディリク殿の想い、通じればいいね。」囁くように呟いたローラントの言葉は

アイリスの耳に届かなかった。

 「兄様?今なんていったの?」首を傾げてアイリスは聞き返した。

「何でもない、ケーキ選んで来るよ、食べるだろう?」そうってローラントは席を立つ。

 「食べるわ!全種類持ってきてね、兄様!」子供のように目を輝かせる、アイリスは甘いものが大好きなのだ。

 兄が席を外したと同時に、少しツンした高い声がした。

 

 「あら、アイリス様久しぶりじゃない。」

声のする方へ首を向ける、予想通りの声の主にアイリスは微笑んだ。

 「本当に、卒業式以来ですねマリベル様。」


 マリベル・ゼノア

   ゼノア侯爵令嬢 燃えるような真っ赤な赤い巻き髪、少しつり目の濃いグリーンの瞳、気の強い派手な顔立ちの美人だ。


 マリベル様はディリク様の幼馴染で、数多くいるの彼の熱心な崇拝者の一人だ、初恋が

ディリク様の彼女は、昔からアイリスへの風当たりが強い。

 「学校を卒業して半年立つ頃なのに、相変わらずお兄様にべったりでいらっしゃるね。」

会って早々これである。

 少女時代の世間知らずなアイリスなら、この冷たい目と態度に怯んでいただろう、

実際アイリスはディリクの婚約者という理由で、同年代の令嬢達から嫌がらせを受けきた。

 だが、多くの嫌がらせを乗り越えて成人となったアイリスからしてみれば、生まれたばかりの小犬に甘嚙みされるようなもの、痛くも痒くもない。

 

「私の自慢の大好きな兄様ですわ、兄妹ですもの共に居るのは当然のことです。」アイリスは笑顔でサラリと言う。

 

「ディリク様と言う婚約者がいながら、兄君とお茶会に出席するなんて!どうかと思いますわ。」


 確かに婚約者が居るならば、本来は婚約者を伴って出席するのがマナーだ、こういった

お茶会は年頃の男女の出会いの場でもあるのだから。

 まあ、アイリスは分かっててやっているのだが…。


 「そもそも本当に兄君を大切に思うのであれば尚のこと、この様な場で、兄君にべったりするはどうかと思いますわ。」


 確かに兄様には婚約者がいないわね、一理あるわ。アイリスは素直にそう思う。


「ではマリベル様、この場の華になってくださいませ。」納得しアイリスは言う。

 「何ですって?」マリベルが怪訝な顔をした。


「マリベル様もご覧の通りこの場は私たちの兄妹がいるだけ、せっかくのお茶会だというのに華がありませんわ。マリベル様さえ宜しければ華になってくださいませ。」

そう言ってニッコリ微笑む。

 遠回しに自兄にと交流深めてはどうかとアイリスは言っているのだ。

理解したマリベルは驚いて信じられないものを見るように、目をつり上げた。

 「なにを言ってますの?貴女が?私に?御冗談でしょう!」会えば必ず貴女に嫌味をいう私に―。暗にそう言っているのが分かる。


 確かにマリベルはアイリスに会えば必ず嫌味を言う、幼い頃からいつものことだ、

ディリク様が好きだから、彼の婚約者だから。――でも、アイリスは。


 「マリベル様が私を嫌っていらっしゃるのは、もちろん存じてます。」アイリスは当然の様に言う。

「でも、私はマリベル様を嫌ったことなどありませんわ。」マリベルの目を見て真っ直ぐに

言った。

 

 「―!遠慮いたしますわ!」アイリスのその言葉に、その態度に怒ったように言ってマリベルは立ち去る。入れ違いに兄がケーキを片手に戻ってきた。

 

「どうした?また例の侯爵令嬢がいたみたいだけど?」困った顔してケーキが沢山のったお皿を渡す。

 「何でもないの、私の兄様どうかしらって言ってみただけよ。」嬉しいそうにアイリスは、お皿を受け取った。

「何でもなくないよ!気が強い女性は悪くないけど、派手なのは人苦手なんだから!

 そもそもアリス?アリスは彼女を―、」


「マリベル様を嫌ったことなどありませんわ、ものの言い方はキツイですが、自分に正直で、正義感が強い、真面目な方です。」美味しそうに、綺麗な所作でケーキを食べながらアイリスはいった。

 「そうなのか?」ローラントは意外そうな顔をする。

「でも、だからといってありえないからね!」慌てるように付け加える。


 そんな兄に微笑み、幸せそうにアイリスはケーキを口に運ぶ、その顔は子供の様にあどけなく愛らしい魅力に溢れていた。

 遠巻きにアイリスに声をかけるチャンスを伺っていた令息達の頬を染める程だ。


 

アイリスは、マリベルを嫌ったことはない、本当のことだ。

 だってアイリスは知っている、学生時代影で自分に嫌がらせをしようとした令嬢たちを

見つけ、マリベルが諌めていたこと、一度や二度ではないのだ、

 アイリスを嫌っていても本当に嫌がる事は絶対に言ったり、したりしなかった。

本当は優しいく、曲がったことが嫌いな人であることはアイリスは十分に理解している。

 こんな関係でなければ、友人になれたかも知れないとすら思ってる、だからこそ、嫌いになどなれないのだ。


それが例え、ディリク様が過去に私のことが嫌いだと話していた相手でも――。







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