何処かに行かないか?
その日、アイリスは気を重くしながらも、ブライアン公爵邸に向かう馬車の中にいた。
『話しがあるので明日にでも来て欲しい』と一言だけ書かれた、ディリク様からの手紙が届いたのはつい昨日の朝日の事。
話し…、なにかしら?婚約の事?遂に破棄するとか?…、うーん…願望がでてるわ。
ブライアン邸に着くと、直ぐに執事のエルマーに応接室に案内された。
それから直ぐに、ディリク様が入ってきた、「待たせて済まない。」と言ってアイリスの正面のソファーに座った。いつもの無表情に文句無しの美丈夫顔、同時にメイドがお茶の用意をし、一礼し去っていく。
「いいえ。」それだけ言って淑女の微笑みを浮かべて、紅茶に口をつける。
毎回お馴染みの沈黙がこの場を支配する前に、アイリスから口を開く。
「私に話とは、何でしょうか?」淑女の微笑みを貼り付けたまま、背筋を伸ばしディリク様を見た。
やっぱり…、彼は目を合わせてくれない…。ため息をつくのを我慢して ディリク様の言葉を待つ。
…?心なしか表情が暗いような?目の下…あれは隈だろうか?そう思っているとディリク様が口を開いた。
「好きな男がいるのだろうか?」と静かに聞いてきた。
「…はい?」アイリスが驚いて聞き返す。今何と?
「好きな男がいるのだろうか?」全く同じ事を聞いて、一瞬目を合わせ、すぐそらす。
「何故そう思うのです?」アイリスは意味が分からない。
「………。その…、何と無くそう思ったんだ…。君はその…、昔から―。日頃から令嬢として社交にも精を出しているだろう、色々出会いだってあるだろうし…。」
月に一度、会うかどうかも分からない婚約者の浮気が心配って…、そうゆうことかしら?
呼び出してなにを話すのかと思ったら…、こんな事って…!そう言えば...エミリア!?
ため息をつきたいのをグッと堪え答える。
「いませんよ、確かに魅力的な方は老若男女問わずいらっしゃいますわ。」背筋を伸ばしたまま、
ディリク様の目を真っ直ぐみてアイリスは言った。
「私には、お慕いする男性はおりません。」
目を合わせ、キッパリと言ってからアイリスは視線下げて、お茶に手を伸ばす。
視界の隅に、安心した様なディリク様の顔が入ってきた。
これで用件は済んだのかしら?帰ったら今日は久しぶりにお菓子でも焼こう、何を作ろうか?
音もたてずティカップ置き、アイリスは顔を上げると なんと、顔面蒼白なディリク様が目に入った。誰が見ても今にも倒れそうな程顔色が悪い。
思わず二度見してしまった。
――なぜ!?急にこんな顔するなんて!具合が悪くなったってこと?
「ディリク様大丈夫でしょうか?どうされました?」慌ててアイリスは言う。
医者を呼ぶべきだろうか? 取り敢えず寝かさないと!エルマーを先ずは呼んで…、
きっと疲れがたまっているのだろう、公爵嫡男として忙しくしているのだから――!
エルマーを呼ぶため、ソファーから立ち上がったアイリスの腕を同じく正面にのソファーから
立ち上がったディリク様が掴んだ。
「違う、違うんだ大丈夫 体調は何の問題もない。」少し慌てたようにディリク様が言う。
「でも、顔色が悪いです。休みましょう!エルマーを呼んで―」
「本当に大丈夫なんだ、体調じゃなくて!これはー!その…。」ディリク様はいい淀んで私の腕を掴んだまま黙ってしまう。
よく分からない数秒後の沈黙の後ディリク様は口を開いた。
「リラ 来週何処かに、行かないか?」
アイリスの腕を掴んだ手に少し力を入れてディリク様は言った。
思わず目を見開く、何故このタイミングで?他にも突っ込みたいことは沢山あるが…、生まれて初めて聞く婚約者からの
『何処か行こう』発言に私は、ただ驚き固まった。
不器用男行動開始!