訪問者
「でね!最高のデートだったの!」
夜会の次の日 昼過ぎ、いつものように突然来て婚約者との惚気話を話すのは学生時代の親友の1人ランカート侯爵令嬢エミリアだ。
積極的で行動派の情熱的な彼女は以前別の婚約者がいたにもかかわらず、「好みではない!」と言って、今の婚約者…当時の恋人に実力行使で婚約変更をしてのけた恋愛主上主義者である。
「何かあったの?アイリス? 顔色が悪いわ…眠れなかったの?」
アイリスの部屋の応接間 座り心地のいい二人掛けのソファーに向かい合って座り、一通り惚気終わった後エミリアは一口紅茶をくちにして、首を傾げて言う。
そう聞かれアイリスは苦笑する、無論一睡も出来なかったのだ。
「大丈夫よ、大したことないわ。少し寝不足なだけよ。」アイリスも一口紅茶を口にする。
一瞬、恋愛体質の彼女に相談しようかとも思ったのだが…。
「でも、何かはあったわね。どうしたの?お肌に悪いわよ?顔に書いてあるわ、私達は親友なのよ!分からないとでも?」
「ええっと…、その…、あのね…。」どうしよう…アイリスは言いよどむ。
「卒業アルバムが関係があるのかしら?」
そう言われて、アイリスはハッっとする彼女が来るまで何と無く見ていた卒業アルバムには卒業生一人一人の肖像画が描かれ、後ろページには当時のクラスメイトの寄せ書きが書かれているのだ。無論彼のも…。
「絶対になんかあったでしょう?貴女が恋愛小説を自ら読むなんて!学生時代ありえなかったわ、どんなに薦めても読まなかったのに!」そう言ってアイリスの隣をじっとりした目で見る。そこには卒業アルバムと恋愛小説が置いてあった。
「わ、私だって偶になら…、これくらい読むわ!気が向いたのよ!」アイリスは咄嗟に手でそれらを隠す。因みに恋愛小説は侍女から借りた。
そう彼女は恐ろしく勘が鋭いのだ。
「なるほどね~、アルバムを出すってことは…、学生関係なのね?それに見る事がなかつた恋愛小説…、学生時代の知り合いにあって、告白でもされたのかしら?アイリス、もててたもの!」
冗談半分からかい半分でエミリアはいった。
その瞬間アイリスの頬はいっきに真っ赤になる。
「え?本当に⁈本当の本気なの⁈」エミリアの瞳が驚愕に開かれる。
アイリスは真っ赤になって固まっている、否定も肯定もしていない...つまり、そうゆうこと。
その様子にエミリアはとんでもないものを見る様な目でアイリスを見た。
「貴女も、まんざらでもないのね?」独り言のように小さく言った言葉はアイリスの耳に届かない。 エミリアの目が険しくなる。
しばらく無言――。 エミリアが勢い良くソファーから立った。
「私、物凄く大切な用事ができたので 失礼するわ!」そうして、アイリスが一言も喋らないうちにエミリア颯爽として帰っていった。
アイリスはそれを呆然としてソファーに座ったまま見送る。
ルイスの事を考えないようにするため、気を紛らわすために、これまで以上に伯爵令嬢として忙しく過ごしていたアイリスの元にディリクからの手紙が届いたのは、エミリアの突然の訪問があったことすっかり忘れた頃だった。
悪友 危機を察知