95. 出発前夜
教会都市ジンライムが総動員して執り行ったレイテの葬式は無事完了した。
人々はこの街の救世主として崇め奉り、今後も平和を祈る為に中央教会へ足を運ぶだろう。尽力したレイテの意思はそれだけ民の心に通じる力があったという事だ。何も無力なんかではない。
クルサーノ、メアリー、アルマはコナミが眠っていた宿屋へ足を運んでいた。イヴはどうやら中央教会へ祈りを捧げに行っていた。あの戦いから2日しか経っていない様でまだ傷が癒えていないメンバーもいる。当然だ、レイテが居ないのだから。
「私はヴァイパーズパンクの復興をしようと思う。多くの罪、多くの痛み、そして多くの命を奪い去ってしまった。その償いに私の命だけでは足りない。私は災厄を見て魔王勇者やシガレットからたった一人で世界を変革できる力に見惚れてしまった」
荷物を纏めたクルサーノはコナミに近づいて握手を求める様に手を伸ばした。
「コナミ、お前もたった一人で立ち上がって世界を変えようとしている。私はコナミが見せてくれる結末を知りたい。だから世界を頼んだぞ、英雄」
コナミは小さく頷いてその手を取った。小刻みに震えていたクルサーノの手は握手をすると次第に震えは止まり、クルサーノの目に光が宿るのを感じた。丸いサングラスをかけたクルサーノは静かに宿を離れた。
「吾輩はレイテに大きな借りがある。それにこの街を守ると誓ったのじゃ。一緒に行きたい気持ちはあるが吾輩はこの地を離れる事は出来ん。すまないな」
「いいよ、アルマがしたいようにすればいい。レイテもアルマがいたら安心だと思うしな」
アルマは大きく笑うとコナミの背中をバシッと叩いて宿の外へと向かった。
「吾輩にとってもお前は英雄じゃ。その名に恥じぬようにな!カッカッカッ!」
カラト族は与えられた恩義を重んじる傾向にある。レイテやこの街が自身を受け入れてくれたその思いに答えたいのだろう。
「「………」」
メアリーと二人きりになったがどうも沈黙が続いていた。メアリーはそっとコナミの服のすそを掴んで離さない。なんですかこの間は。昨日キス童貞を卒業したが童貞に変わりないコナミにはどうすればいいのか分からなかった。
「あの~、メアリー、さん?」
「………ウチ、どうすればいいかな」
メアリーを見るとその目は潤んでいて今にも泣き出しそうになっていた。
「忘神会は崩壊して家も行く宛もないし、コナミとはずっと一緒に居たい。本当は付いていきたいんだけどこの間の戦いでウチの弱さを痛感した。家族も守れないウチに誰かを守る事出来るのかな……」
忘神会は家は焼失、家族と呼んでいた黒服はダ・ハウの実験により皆殺し、事実上全てを失った形となるだろう。離れたくない気持ちも分かるがあまりにこの旅は危険が多すぎる気もしていた。
メアリーのマナ自体は風魔法を主としているが実際風魔法は戦闘向きよりも補助に回る場面が多い。それに魔力量を司るマナルテシスは十分なのにどうもそれに見合った魔法が放てていない様にも見えていた。メサイアに一度聞いてみてもいいかもしれない。
色々と考えていたらメアリーを放置気味にしてしまっていた。置いて行かれるのかと不安そうにこちらを見上げている。
「あああ違う違う!ごめんごめん。ただ本当にこの先は危ない。命のやり取りをする場面なんか幾らでも出てくるぞ」
「それでもいいの。ウチ、ずっと一緒に居たいの。お願いコナミ」
頭を掻きながらコナミは考えたが実際メアリー無しではイヴには勝てなかった事を考えると戦力として惜しむ必要は考えられない。俺が守ればいい、そうコナミは考えてメアリーの頭を撫でた。
「わかった。でも無茶はするなよ?」
「ありがとうコナミ。大好き」
そう言ってコナミに抱き着いた、と同時にガチャっと宿の扉が開いた。顔を覗かせたのは祈りを終えたイヴだった。二人の視線は交わり合い、全てを悟った様にイヴは静かにドアを閉めようとした。
「おおおおい!!違う違う違う!待てイヴ!!!話を聞け!!」
「なんだ不埒者。別に私は構わんのだぞ?」
「だから話を聞けって!!」
コナミは色々説明してイヴの誤解が何とか解けたがメアリーの目を見るに納得はいっていない様だ。先が思いやられながら肩が重くなるのを感じる。助けてくれアイリ。
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夜。宿に泊まっていた3人にコナミから話を振り出した。
「ここから南に位置する永遠の花園ラグペリに俺は呼ばれている。ウロボロスと対峙する上で協力してくれる重要な人物だが、存在が秘匿の為か一人でしか会えない。だから今晩一人で旅立つ。その後必ず戻ってくるから待っててくれないか?」
「だ、大丈夫なの?そいつ……会った事ないんでしょ?」
「メアリーの言う通り信用に値しないな。罠かもしれないぞ」
どこまで説明していいのか分からなかった為掻い摘んでの話となった。当然二人はその話に否定的だった。それでもウロボロスとシャックスの従者をぶつけて二人とも同時に殺さないと計画が水の泡になり、アイリがコナミによって殺される事となる。
「本当に重要なんだ!協力無しではウロボロスに勝つ事は出来ない」
「じゃあそいつの名前は何という。男か、女か。背格好は。どうやってその約束を誰からどうやって取り付けた。そもそも相手は本当に"人間"なのか?そんな奴に背中を預けろというのか。そもそも誰からの紹介なんだ」
シャックスの存在については話せば秩序が乱れアルテウスに処分される。口を噤んでいたコナミは身体を震わせながらどう説明していいのか悩んでいた。
「コナミ……あの時イヴに刺されてから一瞬おかしくなっちゃったよね。自分の事を魔英神シャックス、だとか言ってたし。あれに関係があるの?」
どこまで説明していいものか本当に悩んでいたが、シャックスの言い分によれば例えば今話した所でアルテウスに処分される事は即座にあるとは考えにくい。それにシャックスの存在が公になった以上、二人にも知ってもらう必要があるのかもしれない。
「……分かった。ただしこの話は本当に危険なんだ。他言無用、というか話せば俺たち全員が危険に晒される。それでも、いいのか?」
イヴとメアリーは目を合わせたあとプッと笑った。こっちは真剣に二人の安否を心配しているというのにどういう料簡だ。
「ああ、すまない。今更そんな心配をされるなんてと思っただけだ」
「ホントだよ。ウチらの命はもうコナミに預けてるんだから」
なんて頼りがいのある仲間なんだろうとコナミは感動していたが、ウラノスが助けに来ない以上話せるには話せるが危険が大きすぎる。神の存在がいる事については話す事が出来ないだろう。コナミは慎重に口を開いた。
「闇の使者はシガレットの正義と悪の魂が8分割された存在だ。とある事情で闇の使者を倒すたびに俺のもとに魂が集められる様になっている。それはシャックスという、か……悪魔が俺の中に住みついている。そいつは俺の魂と同じ場所に魂を刻み、俺の魂が擦り減って消えかけた時に交代して現れる。シャックスという悪魔は闇の使者にも契約していてその一人とこれから会う」
二人はぶっ飛んだ内容に首を傾げたり頭を抱えたりしていた。
「そ、そのシャックスというのは大丈夫なの?この前ヤバい発言してたけど……」
「闇の使者と会う…?それは普通に考えて罠じゃないのか」
「シャックスはクソ野郎だが問題ない。あいつもウロボロスをかなり危険視しているからな。それにウロボロスをこのまま放置しておけば災厄がまた始まってしまう。それどころかシガレット以上の危機が迫ってるんだ。その為にシャックスに忠実な従者として扱っている闇の使者の一人を協力者として要請したんだ。だが一人で来ないと会えないらしいから仕方ない」
また二人は悩んでいた。
「後ろから付いていくのもダメなのか?何かあった時に助けに―――」
「それもダメだ。マナでの遠隔支援も禁止。俺を信じて待っていて欲しい」
「信じてるよ。だけどウチが同じ立場ならコナミだって心配するでしょ」
そう言われてみればそうである。自己犠牲と考えてきたがみんなの気持ちまで含めた事は今までなかった。イヴやメアリーが一人で闇の使者と会うとなれば全力で止めるだろう。
「ごめん、そうだよな。これだけは譲る事が出来ない。俺を信じて待っていてくれ」
コナミが頭を下げるとイヴは大きく溜息をついた。
「昔一緒に旅をしていた英雄も強情でな。何を言っても折れやしない。まったく、英雄とは強情な奴がなるものなのか?……私もそのシャックスだの闇の使者だのの存在を肯定していない。明日の夜帰って来なかった場合私たちも永遠の花園ラグペリへ向かい、仮にコナミに何かあれば協力者の闇の使者を殺す。いいな?」
イヴの殺気が混じった目は確実に譲れない意思を感じた。強情はどっちだ。
「―――わかった。行ってくる」
コナミはレイテから預かった剣を持って宿を出た。窓から二人が心配そうにしながらも手を振ってくれるのが見える。これが最後の別れだと思いたくない。
従者と言っていたがシャックス自体どこまで信用していい者か分からない。疑念や疑問、不安、恐怖、どれも心の奥底にはあったがレイテに生かされた魂のお陰なのか驚くほど落ち着いている気がしていた。
「レイテ、見ていてくれよ。俺が世界を救ってやるから」
コナミはそう呟いて胸に手を置いた。心臓の鼓動は言葉に反応するかのように大きくも優しく、そして強く鳴った気がした。




