90. 明鏡止水
レイテの治癒魔法によって再び全員が立ち上がったもののイヴもべリアも全く倒れるといった素振りは見せていない。レイテの取得している治癒魔法はアークフィリアの中でも誰も使いこなす事が出来ない程強力なものばかりだが、その分必要なマナも増大される為長期戦は出来ない。
「レイテ、頼みがあるんだ」
「なんでしょう」
長く一緒に旅を続け数多くの困難を共にしてきたからこその信頼がレイテにはある。
「イヴは体の中で糸状のものが張り巡らされて操られているが、マナでの攻撃で斬る事が出来れば解ける。でも弱点が首元なだけに斬る事が出来ないんだ。それで――――」
「分かりました。コナミくんがイヴの首を切ったその瞬間、僕がイヴに最大の治癒魔法を唱えればいい、そういう事でしょう?」
仲間であるイヴの首を斬るという行動についても、それが実現可能かどうかについても、迷う事無くレイテはコナミと自分自身の治癒魔法の精度を信じていた。
ユルシュピ戦であれだけ殺されたとしてもレイテは民を抑えながら回復し続ける事が出来た。今回はアルマを含む3人に気を配りながら戦うことになるからこそ簡単ではないはずだ。
「僕を信じてください」
レイテの迷い無い真っ直ぐな瞳は4人に背中を任せていいという確たる自身へと繋がった。アルマはボキボキと肩を回しながらべリアへと近づいていき、クルサーノは闇の魔力を高めアルマの隣へと付いた。
「吾輩がべリアの相手をする。同じ獣同士血を浴びて殺し合おうぞ」
「闇魔法の極意は重力、引力、収縮に特化出来る。私が隙を作って見せよう」
「ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
殴りかかってきたべリアの拳を避けてアルマはひらりと避けて戦闘が始まった。べリアの腕に闇魔法を唱えると腕が重くなったのか体勢が崩れると、すかさずアルマの渾身の一撃が顔面へ入た。だが硬いのか思ったよりもダメージが入っていない。
「こやつ、どれほど強靭なのじゃ!」
「エアロスレイヤー!!」
ナタリーが唱えたかまいたちにも近い攻撃はべリアの身体に僅かだが切り傷を付けて血を流させた。3人掛かりならべリアを倒す事が出来るかもしれない。
となると――――――――。
イヴは準備万端と言わんばかりに無数の霊剣を浮かばせながらこちらを見ている。その眼はコナミへの殺意を表している訳でもなく表情すら感じ取れない。
「待たせたなイヴ。やろうか」
速度に特化させるため雷のマナが身体中に巡り渡る。当時シガレットだった頃のパーティーではパワー担当の前衛型フィルスや後衛型のメサイア、攻撃防御の中衛型バランスに特化したイヴ、後衛治癒担当のレイテ。そしてシガレットの担当はスピードに特化した翻弄型だった。だからこそ最も使用した技こそが雷のマナを扱う"雷光抜刀撃"だった。
「コナミ君。君を見ていると本当に彼を思い出しますよ」
「何言ってんだレイテ。俺も同じ英雄さ」
「ふふ、そうですね」
無数の霊剣はコナミの身体を貫こうと攻撃態勢へと変わるが、それでも半分の霊剣はイヴの周囲を飛び回り防御が硬い。これを突破するには攻撃の霊剣の攻撃を避けつつ、防御の霊剣を薙ぎ倒して首を取るしかない。
コナミは過去の経験から敵視がどの様に向いているのか見て分かる。それはシガレットの頃に幾千もの戦いを乗り越えて積み重ねた結果だ。更にはこの世界に来て何度も死闘を繰り広げ、神界でも死ぬ気で戦い続けた。その経験を踏まえて尚、迷う事無くコナミを切り裂こうとする霊剣の威圧感は凄まじく一瞬の隙すらも許されない。
ガギギギギギギン!!!
ギリギリを受け止め続けてはいるもののそれでもこれだけの数を相手に無傷など不可能だった。血が舞いながらでも懐へと入ったコナミは一気にマナを放出して攻撃へと転じた。
「雷光抜刀撃!!」
コナミの一撃に合わせるかの様にいくつもの霊剣がイヴとの間に割って入る。1本、2本、3本と霊剣が砕け散っていくがマナに対する耐性もあってなのかそれでもまだイヴには攻撃が届く事は無かった。
「コナミ君!!!危ない!!!」
既に背後から霊剣がコナミへと襲い掛かろうと突っ込んできていた。攻撃に転じた事でどうしてもコナミに隙が出来てしまったのだ。コナミは必死に瞬間移動をしてイヴと大きく距離を取って何とか避けたが心臓がバクバクと大きな音を立てて魂を擦り減らしていく。
「はー……はー……もしかして、瞬間移動の距離に応じて魂を擦り減らす量も大きくなるのか?」
「フルエウロン!!」
レイテが唱えた魔法によって身体の傷や痛みは全て消えたが、擦り減らした魂の回復までは至らなかった。これはもう自律神経にも近く自分で何とかするしかない問題の様だ。
「すまないレイテ!」
「フルエウロン!!」
べリア側もかなり苦戦しているのかレイテは治癒魔法を撃ち続けていた。マナ切れを起こしてしまってはイヴを救う手段がない。
「っつああああ!!!」
イヴにまた挑みかかり今度はスピードで翻弄する作戦に出た。しかし明鏡止水・霊障とは別に明鏡止水・真円も使っているのかイヴの霊剣はまるで隙を与えてはくれなかった。例え背後に回っても必ず霊剣がこちらへ向いてくる。
「くそっこのままじゃ……!!」
敗ける――――。
そう思った瞬間また心臓が大きく鼓動を高鳴り出す。日和った分だけ魂は揺らぎ能力が抑えられてしまう。膝を付きそうになったその時だった。
「僕が、僕が知る英雄は怖気づいたりなんかしませんでした!!ただ真っ直ぐに怖い物なんか無いって顔で堂々としていました!!僕が居ます。僕を信じて!!!」
レイテに心を読まれたのかと感じる程コナミは焦りが顔に出ていた。
怖がってなんかない。俺が死ぬのは怖くなんかない。
けどイヴやレイテ、みんなが死ぬのが怖いんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「シガレットさんは凄いですね。相手がSS級の魔物だというのに果敢に正面から戦いを挑みに行って。怖いとかそういうのは無いんですか?」
SS級クエストをこなしたシガレット一行は体力やマナを回復する為に焚火を囲んでキャンプをしていた。イヴとフィルスは既に眠っていてメサイアは静かに魔本を読んでいた。
「怖くなんかないさ。俺が戦えるのもみんながいるからだろ?」
「そうですけど、先陣を切って相手をかき乱して隙を作ってくれるのはいつもシガレットさんじゃないですか。いきなり即死魔法なんか撃たれた日には僕でも治せませんよ」
「レイテ。そ、それはお説教か……?」
「シガレットは……勇敢だけど馬鹿だから……死ぬとか考えてない……のかも……」
メサイアはそう言うが本当にその通りで、こっちからすればVR機を付けて戦っているに過ぎないから恐れる物なんかなかった。実際死んだとしても自分が死ぬ訳では無いし、痛みを感じる訳では無いのだから。でもそれはみんなもVR機を使って戦っているんだから一緒のはずだ。
「みんなだってそうだろ?そんな怖くなんかないって」
「怖いですよ。その為に僕が治癒魔法を特化させているんですから。誰も死なせたくないし死にたくなんかありません!」
「私も……死ぬのは怖い……」
まだ死んだ事自体は無いが経験値ポイントが大幅に減る事を恐れているのか、それとも死んだ場合高度なレア装備が全て失ってしまう可能性を恐れているのか。その時のシガレットにはそのくらいしか考えが過らなかった。
「大丈夫だよ。俺が全員守ってやるから」
「ふふ……シガレットは約束……守ってくれるから安心……だね」
「なんだかんだ言いながら僕たちの英雄ですから。頼りにしてますよ」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「守るって約束したんだよ……!!俺がみんなを守るって!!約束したんだよおお!!!」
ガギギギギギギン!!!
飛びかかる無数の霊剣を弾き返しながらコナミはイブの懐で潜り込む。それでも折ったはずの剣はそのままコナミの脇腹へと突き刺さりコナミは血を吐いた。
だが、コナミはその状況下でも真っ直ぐ剣を伸ばした。
「この一撃に全てを賭ける。秘剣・神龍閃!!」
光は全てを包み込み眩しく辺りを照らす。闇を切り裂く程の一撃は確実にイヴへと命中していた。




