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8. 悪夢再び

 「キャアアアアアアアアアアアア!!」


 子供の悲鳴が聞こえたが落ち着いた様子で静かに目を開けた。


 黒煙が立ち昇り、街全体が炎で燃え盛る【魔法都市プライベリウム】を高い場所から眺めていた。前に見た悪夢と場所は違ったが状況はより悲惨で、魔物に襲われ逃げまとう人々、魔物に立ち向かう兵士たち、なぶり殺しに合いながら食われて死んでいく。


 ガチャ

 「さ、リン様。こちらからお逃げください」


 城の裏口から魔法都市プライベリウムの王女リン・プライベリウムと付き人のフレットが逃げ出していた。この状況下で出来る事は国の為に戦い死ぬよりも生き抜く事の方が困難でありながらも正しい判断だろう。


 「ガギャギャギャギャ!!」

 「こんな所にも魔物がっ!フレット!!」


 道中大量の魔物たちが一斉に押し掛ける。フレットは若い冒険者で過去にシガレットたちと何度か遊んだ事があった。腰に携える2本の短剣から繰り出す斬撃は中級の魔物であれば軽く一掃出来る程だったが、それ以上に魔物の数が多すぎる上に凶暴性が普段より増している。


 「リン様、僕の事はいい。お逃げ下さい」

 「あなたを置いてなんていけない!フレットはいつだって私を置いて行かなかった。だから最後くらい一緒にいさせて」


 ここでフレットが覚醒して大いなる力を見せる、なんて都合の良い展開にはならない。


 フレットは短剣を走らせ凄まじい速度で魔物の軍勢に襲い掛かった。10体、20体……次々と倒していくがじわじわとフレットに蓄積されていくダメージが動きを鈍らせていく。そして、ついに3メートルはあろうかという大型の魔物に鷲掴みされた。


 「リン王女!!早く逃げ……あああああああああああああ」


 フレットはリン王女の目の前で腕を引き千切られ、腹を裂かれ、首をもがれ、そのままゴミのように捨てられた。


 「……フレット……嫌……嫌アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 その魔物はリン王女も引き裂こうと腕を振り下ろしたが、球体の光の壁がリン王女を包んで攻撃は弾かれてしまう。


 『ホーリーレイン!!!!!』


 その叫び声と共に魔法陣が放たれ、大量の光線によりリン王女の周囲にいた魔物たちもフレットの遺体も文字通り消滅した。


 「大丈夫……リン王女……ごめんね、遅くなって。フレットは、どうしたの。ねェ、リンオウジョ、ネェ……」


 リン王女は既に目の前が真っ白になっていたのか意識を失っていた。


 先程の光魔法を放ったのはシガレットの仲間【大魔導士】メサイアという世界最強の魔法使いだった。人見知りで話すと言葉が詰まり詰まりになってしまう根暗で見た目も弱そうなイメージだが、ダンジョンで魔法を使用するとダンジョンを破壊し兼ねない程の強力な魔法を揃えている。


 「ドウ……シテ……」


 メサイアはこちらを見た。その目は真っ黒に淀み、暗く、この世の全てに裏切られたかのような絶望した眼だった。この世で最も見てはいけないであろう深淵を覗いている気分になる。殺意や恐怖なんかよりずっと恐ろしい眼だ。



 「サヨウナラ」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 布団から飛び起きるとそこは木造の小さなコテージのような所にいた。

 コナミは先程のフレットの惨殺された死体やメサイアの恐ろしい眼を思い出してそのまま吐いた。あまりにもリアルすぎるその風景に過呼吸を起こしそうになり、汗と涙が止まらない。


 「オェ……はぁ……はぁ……一体なんなんだ。畜生」


 またあの目を思い出してしまう。

 普段仲間として一緒に冒険してきた優しいはずのメサイアの狂気に満ちた眼。あれ程に恐ろしいものがこの世にあるだろうか。また吐き気がしてきた。


 「オエエエ!!ゲホゲホ……」


 「コナミ様おはようござ……コナミ様!!大丈夫ですか!!吐出物が……今拭くものをご用意致します」


 バタバタと走りながら世話をしてくれるヒストリアを横目にコナミは意識が朦朧として死ぬように眠ってしまった。きっと戦いで疲れたせいなのだろうか、慣れない環境のせいなのだろうか。身体全体が深く深く海の中へ沈んでいく感覚に近く溺れていった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



『力が……欲しいか……』

「誰だ……?」


 気付けば宇宙空間の様に周囲は真っ暗な中、足元すら無い場所に立っていた。そして目の前には人型の黒く蠢く【何か】がいる。


 その【何か】はコナミに手を差し伸べてきた。ヘドロのようにボタボタと何かが零れ落ちる。まるで【何か】自体が溶けているようにも見えた。


 『力を欲するのならこの手を取り…………叫べ……お前の神命を……』

 「いらねーよ。そんな汚ぇ手、誰が取れるか!俺は俺の力で強くなってやる。それに絶対罠だろお前」


 コナミの答えに対して【何か】は溶けるように消えていった。宇宙空間の足元にひび割れが入っていく。コナミはそこから空いた穴に吸い込まれるように消えていった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 「あ、コナミ様お目覚めですか。おはようございます。体調は大丈夫ですか?怖い夢でも見ましたか?」


 ギュッと手を握られたまま綺麗な瞳はこちらをじっと見つめていた。何度も汗を拭いてくれたのかその手には濡れたタオルが握られている。女の子に対して経験が少ないコナミは恥ずかしさのあまり飛び上がった。


 「だ、大丈夫大丈夫!この通りピンピンしてるよ!あいでででででで…いってぇ!」


 マッチョポーズをとったものの身体中に筋肉痛の痛みが走る。普段ゲームしかしてないオタクが走り回ったり剣をフルスイングしたりそんな慣れない事を火事場の馬鹿力で乗り越えたせいか。


 「ご無理をなさらないでください。あんな戦いの後ですから身体もゆっくり癒されてはいかがでしょうか」


 「悪い悪い。いてて。それよりみんなあれからビストロになんかされなかったか?」


 「あれからアイリ様がビストロに城の取り壊しと撤退を指示されました。その後ギルドに応援を呼んで冒険者を派遣して頂く事になったんです。あ、私はもちろんコナミ様がここを守っていただけるならそれが嬉しいんですが、何やらアイリ様はそれはできないと仰っておりまして」


 アイリはしっかり者だがきっと家族が恋しくなって王都ブレイブに帰りたいのだろうか。出会って間もないからかアイリの事をコナミはあまり知らない事に気が付いた。


 「アイリはそれでどうしたんだ」


 「ふふ。その後は宴で飲んで歌って楽しそうでしたよ。」


 「あいつまた飲んでたのか。酒乱だからあんまり飲まさない方が……」


 「誰が酒乱デスか」


 コテージの扉の前にアイリは睨みを利かせながらこちらを見ていた。酒の飲み過ぎと寝相の悪さのせいなのだろうか、髪の毛は外に跳ねており目も少し眠そうだった。その後ろには村長も立っていた。


 「おお、コナミ様、目覚めましたか。ワシら村一同、心より感謝の言葉を述べさせて頂きます。本当にありがとうございました」


 「い、いやいやいや。いいよそんなの。俺も無我夢中だったし、それに村のみんなもヒストリアさんも無事ならそれで丸っと解決だ」


 リアルの状態で人から感謝なんてされる事のなかったコナミはどう答えたらいいのかわからなかった。顔を上げた村長は剣を差し出した。


 「我々の納金で作られたビストロの城の金塊を換金して冒険都市ビルダーズインにて剣を購入してきました。コナミ様の剣は壊れてしまいましたので僭越ながらこちらを旅のお役に立てればいいかと思いまして」


 差し出された剣は武器屋の中でも結構値が張る片手剣【チェイサー】だった。小さくて軽く触れる片手剣の中でもより軽く、それでも剣撃は重く出せる一級品。冒険の中盤でもこれさえあれば楽々クリアできる程だ。


 枕元に置いてあった【旅立ちの剣】は刃こぼれが酷く、恐らくもう一発金の兜を殴れば折れてしまう程にボロボロだった。


 「あんな無茶な振り方するからデスよ。今度は大事にしなきゃデスね」


 「ああ、確かにそうだな。大事にするよ。ありがとう村長、ヒストリア」


 2日程筋肉痛を癒す為に村に滞在したコナミとアイリはフーマリン村を出て、一度ギルドに化けウサギのクエスト報酬を貰いに行く事にした。だが村長から頂いたお金は化けウサギを狩った報酬の何十倍にもなる程だった。一体どれくらい納金をしていたのかと思うと計り知れない。


 「コナミくん、聞いたよ~!銭王ビストロの護衛軍長マエストロを退いたらしいじゃん。いや~、最近あの村に行く冒険者がいなかったから気付かなかったけどさすがはコナミくんだね~」


 ギルドメイドのフェイは予想以上の成果をあげてきたコナミにキラキラとした目で拍手した。すると周りの冒険者たちもパチパチと拍手をしてくれた。


 が、ギルドの扉が開くと同時に拍手は直ぐに止んでしまう。


「おい、あれって」

「なんであいつが……クソッ」


 ギルド内はざわついた先にいたのは赤い鎧に白いマントを輝かせる剣士。


 【霊剣】イヴ・バレンタインだった。


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