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72. 死の先にある未来へ

 魔女の家に来て既に半月が過ぎた。


 トレーニングと言っても滝行や筋トレ等ではなく、自分自身のマナルテシス量を知る事から始まった。どれくらいまでマナを削っても大丈夫か、魔法自体がどれくらいマナを削られるものかといった所だ。


 そもそもまずマナには多くの種類があった。変化、強化、放出、崩壊、再生……etc.研究次第でどれだけでもマナをコントロールすれば可能性は無限大と言える。ただ複数種類を会得しようとしても中途半端になり、単一を極限まで極める方がマナの形を維持しやすいそうだ。


 「アチキの魔法は2種類あって、扇子から出すのは華水鬼。これは空気中にあるマナにアチキのマナを混ぜて繰り出す遠隔攻撃や。陽炎は空気を刃に変えたり炎天は爆撃にしたりって感じやな。もう一つは剣から出す桜吹雪。身体にマナを流し込んで肉体強化する。ただマナの形成方法が変化と強化やから両方一緒に出せへんのが難点やな。それでも両方を極めてはおるから一発一発は強力なもんやで」


 「なるほど。ワタシのはパパの力を使った光属性のマナくらいデスね」


 「ん~光属性っぽくはあるけどなんかちゃう気がするねんな。もっと特殊なマナが編み込まれとる気がするねん」


 二人は自然に囲まれた外でマナを回復する為の瞑想をすると言いながら気楽にお喋りをしていた。


 ルメイヤはマナの研究を熱心にしているお陰かマナについて学術を学ぶのは非常に面白かった。更に彼女はかつての英雄たちのマナをも知り尽くしていた。



 【大司祭】レイテは再生の魔法を極限まで極めていた。そもそもフィレメイシという死を復活させる魔法はこの世で彼しか会得していない。重力魔法や時間を止めたり動きを遅く出来る"静止の魔法"も使えるがあくまで再生を極め過ぎた結果、他にサポーターとしてやれる事を探しただけらしい。


 【大魔導士】メサイアは放出の魔法を極めていた。マナは色んな属性に切り替えて魔法を繰り出せるが、異なる属性の魔法を同時に出す事はまず不可能だという。だがメサイアは通常では有り得ない放出のマナを2種類織り交ぜる"魔導"を使う事が出来た。魔王勇者との決戦では3種類のマナを織り交ぜたと噂されるが有り得ないとルメイヤは言う。


 【霊剣】イヴは意外であるが崩壊の魔法だった。ストックされている霊剣が壊れる度に崩壊のマナが加速していく異質な魔法で、霊剣1本1本にマナを繋ぎ合わせているそうだ。彼女が使う明鏡止水という技は自身の集中力で出来る力技と知ってその異常性な努力がよく分かる。


 【剣聖】フィルスは肉体の鍛錬と剣術ばかりでマナを極めている訳ではなかった。だが世界でただ一人"聖属性のマナ"を使える唯一無二の存在だった。曇りなき正義の魂の持ち主のみにしか扱う事が出来ず、そのマナは悪しきを払う邪気払いの力としてこの世で最も強いと言われている。


 そして、【英雄】シガレット。彼だけは極めている魔法が無かった。ただし聖属性のマナ以外の全てのマナを扱う事が可能で、通常不可能とされる魔法の会得方法だがシガレットだけは違った。魔王勇者の息子だからなのか、それとも彼が世界を統べる魔王だからなのか、それとも本当はこの世の者では無いのか。居なくなった今では調べる術はない。


 ルメイヤはアイリについてのマナやマナルテシスも隅々まで調べてくれた。服をひん剝かれて全裸にさせられる毎日だった。


 自身のマナの毛色によって極められる魔法は決まってくるものだが、アイリはフィルスとの魂の繋がりの影響かフィルスの使えた聖属性のマナしか極める事が出来なかった。だから色んな魔法の本を読んで勉強しても他の魔法が使えず、魔道具で強化した属性ですら大した威力が出なかった。


 マナルテシスの崩壊は死を意味する。それが誰もが承知の上で自身のマナルテシスの総量に対してどの魔法まで使用できるかが決まる。だがアイリの場合は本来のマナルテシス総量では放つ事が出来ない秘剣・聖光斬を強制的に発動させ、マナルテシスが破壊されてもおかしくない程にマナを食い尽くそうとしてしまう。


 「つまりワタシは秘剣・聖光斬を放っても倒れないくらいにマナルテシスを強化する必要がある、という事デスか」


 「せやな。アイリの場合フィルスの魂のお陰か外見では絶対見破れんパワーを持っとる。やけどとっておきの秘剣を撃って倒れるようじゃさすがにアイリ自身のマナルテシスを強化せんとって事になる。先ずはアイリの崩壊したマナルテシスを回復させる事からやけどな」


 「……ワタシ頼りないデスね。ずっと誰かに生かされてばかりデス。魂の闇の使者とパパが居なきゃ生きていけないデスし、ナギアさんやスイちゃん、そしてコナミさん。他にも多くの人に道中助けてもらったデスよ。ワタシ一人では何も出来ないデス……。ワタシは、弱い」


 泣きそうになるアイリの頭をスイレンは慰める様に優しく撫でた。


 「そんなもん、アチキだってまだまだ弱い。現にメビウスを救う事さえ出来ひんかったし多くの犠牲が出てしまった。だからアチキも一緒に強くなりたいから一緒に頑張ろ!」


 「スイちゃん……ッ」


 「そんな強くなりたいなら静かに瞑想するのじゃ!」


 背後からルメイヤに本で頭で殴られた。ルメイヤが手にしている魔科学の本は自然に溢れるマナを

調合して得られるマナに対する影響を図るこの世に一冊の直筆の本だ。これにより調合してマナを回復出来る物もあれば、この魔界山デビルズキャニオン自体が多くのマナが溢れており地脈や空気に等に流れるマナについても研究をしているそうだ。


 「そういえばルメイヤさんはメサイアさんと仲が悪いデスか?」

 「おい、アイリ!それは怒られるからタブー!」


 かつて同じ質問をしたのであろうスイレンは急いで止めに走ったが、ルメイヤは遠くを見つめる目をしていた。


 「メサイアは、天才じゃ。お互い魔法都市プライベリウムで生まれ育ち、物心が付いた頃には魔法に触れ、同じ勉強をし、同じ訓練をしたがその差は日を追うごとに離れて行った。更には独学で新しい魔法を次々と生み出し都市内でもその優秀さが広まっていった。だから単純な妬みじゃよ。これだけ努力しても届かなくない事に腹を立てたワシは喧嘩した。しかしその時たまたまメサイアが意図せずかけた魔法は"年齢を止める"で、それに気付かずそのまま家出をしてしまった。その当時に放たれた魔法ですら未だに解く事が出来ぬ。それ程に天才なのじゃ。だからこそ努力しているワシは天才というものが嫌いなのじゃ」


 ルメイヤは大きく溜息を付いて隣に座った。長く付き合いがあったが初めて聞いたであろうスイレンも驚いた表情をしていた。逆に言えば努力家のスイレンだからこそ弟子にして育てたのだろうと分かる。


 「……そう、デスか。ありがとうございます、話してもらって」

 「昔の話じゃしな。今になってはもう気にしておらぬわい」

 「アチキが聞いた時は本の角で殴ってきたくせにズルいやろ。贔屓(ひいき)やで贔屓(ひいき)


 じろっと睨んだルメイヤは本の角でスイレンを殴った。まるで親子を見ているかの様な二人を見てこれも一つの愛の形なのかもしれない、とアイリは感じていた。



―――――――――――――――――――――



 それから更に半月が過ぎた。


 調合した魔科学のお陰かアイリのマナルテシスは回復していたが、未だ秘剣・聖光斬を撃てるのは戦闘中1回限りの限定技となっていた。だが剣が馴染めば馴染む程フィルスが今まで得てきた技を記憶として思い出す事が出来るようになっていた。戦闘中に無我夢中で放った聖属性のマナによる剣技もその一つに過ぎない。


 「フィルスの剣技は攻撃に特化していて守る剣技は無い。それほどにフィルスの肉体が強く、剣術も極められていたからのじゃ。じゃからシガレットが復活したとして戦う事になれば奴の雷光抜刀撃はアイリッシュの力のみで受け止める必要がある」


 メビウスが放った雷光抜刀撃は完全に目で追う事は出来なかった。あの時反応できる実力があったナギアに助けて貰わなければ死んでいた。つまり今後シガレットと対峙するのであれば確実に雷光抜刀撃を受け止める必要がある。


 「それならアチキが相手になったるさかい、それで感覚を覚えるとええ。あそこまで速くは無くとも

アチキの桜吹雪はええ勝負するやろ」


 「スイちゃん……!お願いするデスよ!」


 傘から剣を引き抜いたスイレンはアイリに向けて突っ込んで来た。スイレンの剣はレイピア状の細剣だがフィルスの大剣を受け止めても壊れる事の無い頑丈なものだ。


 こうして日々のマナルテシス強化とは別に剣の練習も追加された。アイリとスイレンは嫌がる事も弱音を吐く事も一切せず、努力に努力を重ね続けていた。そしてまた次の日、次の日と日付は水が流れる様に進み続けていった。


 次にコナミと会う日にはもっと強くなるその時まで――――――。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 太陽が昇ったり沈んだり、そういった日を追う感覚が無い雲の上は時間が永遠に感じた。だが能力【英雄】は身体に染み付いてきた感覚だけがコナミに残っている。


 この能力は使用中に体力の消耗をすると考えていたが、これは心的な影響が大きい事を理解した。魂に紐付けされた能力であるが故に心を強く持っていないと身体に影響を及ぼす。


 「おらよォ!まだまだ隙があるゼェ!!」


 ガギィン!!


 つまりデストレイズと対面して恐怖が生まれればそれは大きく身体的な消耗に直結してしまう。心を強く持つ事。今までリアルでは嫌な事から逃げて、逃げて、逃げ続けてきた人生だった。


 「ッあああ!!」


 ガギィン!!


 自分を変えなければ何も始まらないし、何も守れない。大事な物を目の前で何もかも失ってしまう。それは自分自身でさえも―――。


 「よし、今日からテメェが使ってきた技を使う事を許可する。雷光抜刀撃だの炎獄なんとかだの使ってみやがれ」


 今まで技を禁止されてきたが、ここに来て初めて使用を認められた。コナミ自身、今雷光抜刀撃を使えばどれくらいの威力が出るのか楽しみでもあった。


 「へっ!お望みならやってやるが死んでも知らねぇぞ!」

 「テメェ誰に物言ってるんだ?アァ!?調子こいてんじゃアねェ!」


 今までに感じた事のないマナが手に溢れ出してくる。【英雄】の能力時に放てるマナは神全体が共有しているらしく、ほぼ無限に等しいと説明を受けた。


 全力まで引き上げたマナを剣に送り込んだコナミは構えた。


 バチバチィ!!


 剣に込められたマナはシャックスが自分の身体を乗っ取った時に匹敵する程まで強力になっていた。それを見たあのデストレイズが少しだけ足を退いたのを見逃さなかった。


 この力のまま全力で攻撃すればどうなるのだろう、と期待がコナミの心が昂らせる。


 「雷光……」

 「コナミくん」


 技を放つ直前に話しかけてきたのはウラノスだった。以前に話したのはナギアが死んだという報告があってからだ。今回も嫌な予感がコナミの心臓を早める。


 「おいおいまたイイ所で邪魔したなウラノスよォ!」

 「そう怒るなデストレイズ。さてハッキリ言ってかなり悪い報告がある。心して聞いてくれ」


 心臓がドクンと鳴った。なんだ?なんだ?なんだ?悪い報告、一体、それは。アイリに何かあった?いやシガレットが復活した?俺の身体が死んだ?一体何が――――。


 「イヴが、死んだ」


 「――――え?」

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