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71. 【魔女】ルメイヤ

 「全く情けないぞ。暫くぶりに見たと思えばこの程度でマナ切れを起こすとは。ワシを師匠と呼ぶでないわ」


 「ごめん言うとるやん~。師匠~~~」


 「師匠って呼ぶな!」


 大きな声で話す二人の声でアイリは目が覚めると木で出来た小屋の中、気が付けばベッドで眠っていたようだ。腕の傷は既に治りかけていて枯渇していたマナは元に戻っていた。話している魔女かスイレンが治癒魔法やマナを供給してくれたのだろうか。


 小屋の中央で窯が浮きながらひとりでに動く匙はイイ香りのするスープをかき混ぜていた。その周りを魔女の格好をした人とスイレンが囲っていたが、こちらが起きた事に一早く気付いてくれた。


 「アイリ、起きたんや。ホンマ良かった。助けてくれてありがとな」

 「助けたのはワイじゃ!」


 ツンケンする魔女はメサイアの妹と聞いてはいたが見るからに子供の姿をしていて魔女、というより魔女っ子だった。三つ編みになったおさげは可愛らしく、長く漆黒のマントは床を擦りながらこちらに近付いてきた。


 「こちらが【魔女】ルメイヤ。アチキの師匠や。見た目はメサイアが昔掛けた魔法のせいでこんなちっこい身体のまんまになってもうとるけど、いつまでも和解せんからずーっとこのまんまや」


 「師匠って呼ぶでないしメサイアの話もするでない!それに魔法が解けんわけじゃなくこの身体は気にいってこうしておるだけじゃからの!」


 イチイチ師匠というワードに怒りを見せるルメイヤは、アイリの胸元をじっと見つめていた。何か付いているか確認したがそうでもなく、ただそれでも見るのを止めなかった。


 「あ、あの……」

 「お主は一体何者なんじゃ」


 殺意を向けて睨むという訳でも怯えるという訳でもないが、疑いを持った目をこちらに向けていた。


 「わ、ワタシ、アイリッシュ・ステルスヴァインと言う者デス」


 「フィルスの娘っていうのは聞いた。じゃがワシは魂の色を見る事が出来、それによって悪党かどうかを調べる事が出来る。お主の中にある魂は淀んで濁った悪しき魂と清く清んだ魂が入り混じっておるのじゃ。スイレン、アイリッシュ、内緒はもういい。話すがいい」


 どうやら闇の使者である事はスイレンは伏せてくれていたらしい。だがルメイヤという魔女は魂を見る力がある様でこれ以上の隠し事は出来ない。


 二人は目を見合わせて今までの事を隠す事無く全て話した。突拍子もない話をしているにもかかわらず否定する訳でも相槌を打つわけでも無くルメイヤは静かに聞いた。


 「なるほど。これが噂に聞いた本物の闇の使者か。ワシはこの魂を見てスイレンの身よりも自らの危険にまで及ぶ恐れを感じ、マナには気付いて居たが結界を封鎖したのじゃ。じゃがアイリッシュが命懸けでスイレンを守っているのを見て仕方なく助けたが……。ふむ、パンドラの箱とも言える危険があるが、まぁいいじゃろう。こちらにきてスープでも飲んで落ち着きな」


 全てを飲み込んで受け入れたルメイヤは中央の窯の前にちょこんと座った。二人は安心して顔を見合わせて笑った後、ルメイヤの元へ急いだ。


 スープは森の山菜や謎の肉をふんだんに使われていたが、枯渇したマナの治りを早める効果などがあるらしく、飲む度に心が落ち着く感覚があった。


 「大体の話はスイレンから聞いた。マナの総量を増やしたいんじゃったな。どれ、今の総量を見るから全部脱ぎなさい」


 「ふぇ!?ここでデス!?」


 「何を女だけしかいないのに恥ずかしがってるのじゃ。身体は常にマナを帯びておるから衣服等でも僅かに干渉して変化する。ワシの様に魔力干渉を起こさぬ服を着ていれば話は別じゃがな」


 チラリとスイレンを見たが目を閉じて深く頷くだけで唯一の助け船は沈没した。アイリは恥ずかしながら服を脱いで小屋の真ん中で真っ裸になった。


 「これ、手をどかさぬか。全く年頃の娘はこれだから」


 ぶつくさと文句を垂れながら胸元を隠していたアイリの手をどかしてルメイヤは手を胸に押し付けた。


 「んっ……」

 「変な声を出すな!」


 ルメイヤの右手は薄く光り身体の中が熱くなる感覚があった。心の奥底を触られている感覚で気持ち悪いより恥ずかしさもあってむず痒い。もじもじと強張った身体を動かしていたが、ルメイヤの目は真剣そのものだった。


 「こいつは、驚いたね。こんな事が……。いいかい、よく聞くのじゃ。これ以上森で放った大技は撃ってはならん」


 「もしかしてマナルテシスが壊れとるんか?」


 ルメイヤは小さく頷くとスイレンは酷くショックな顔をした。二人が話すマナルテシスとは一体なんなのだろうか。


 「マナルテシスはマナを入れる為の器。水を入れる瓶ともよく例える。強力なマナを消費すればマナルテシスは過負荷に耐え切れず壊れ始めるのじゃ。それが壊れると身体の中で日々精製されるマナは行き場所を失い消えていく。マナは魂と身体を繋ぐ元素の一つとも言える故、壊れてしまった場合それは死を意味する。身体は崩れて血を吐きながらマナが自然回復するまで意識は混濁してしまう」


 ゾッとしたアイリは慌てふためいて縋る様にルメイヤにしがみついた。鬱陶しそうにするルメイヤはスープのおかわりを容器に入れてアイリに手渡した。


 「これはマナルテシスの安定も出来る薬にもなるスープじゃ。マナルテシスも自然回復するが壊れた物は修復せにゃいかん。仕方ないがこの【魔女】ルメイヤに任せておくとよい。ついでにその強化も兼ねて時間は貰うがの」


 「ど、どれくらいデスか?」


 「分からぬ。アイリッシュの頑張り次第じゃ。先程の技をお主自身のマナルテシスで安定して撃てる様にならなくてはな」


 時間が大きく掛かってしまう事に悲壮感が顔に出てしまった。コナミの容態も気になる上に時間が経てば残る2人の闇の使者が言霊を集めきってしまうかもしれない。それでも今の力不足な状態でもう誰かを死なせたくはなかった。


 「お願いするデス。どれだけ時間が掛かろうとも!」


 ―――ごめんなさいコナミさん。もう少しだけ待っててください。

  すぐにきっと助けに行くデスから。

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