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6. 宣戦布告


 銭王ビストロは上機嫌のまま金閣寺へ帰って行った。

 それと同時に土下座をしていた村人も立ち上がり、ヒストリアがこちらに近寄ってきた。


 「先程は助けようとして頂き、ありがとうございました。私は銭王ビストロ様に捧げる調度品、ヒストリアと言います。」


 「あんな胡散臭い奴に捧げるってどういう事なんデス?」


 ヒストリアは顔を俯かせて黙り込んだ。綺麗な顔は暗くなり、途端に身体を震わせている。その様子に慌てるアイリに村長のような老人が話しかけてきた。


 「ここらのモンスターは比較的大人しい故まだ良いのじゃが、近い将来に闇の使者が来るという情報を聞いています。あなた方たちも聞いたことがありますじゃろ。」


 「闇の使者……。ああ、イヴが確かそんな事を言っていたような。戦場になるとかどうとか」


 「その通りです。ワシらフーマリン村に闇の使者が来ても対処しきれまい。そんな時に銭王ビストロ様がこちらにいらして我々を守っていただけるという話をされたのじゃが、納金は激しく更には中央にある泉も潰されて城まで建てられてしまった。ワシらが次の納金も払えないとお伝えした際に、お前の娘を寄越せと言われてしまったのです」


 「それで了承したって事デス?それなら初めからギルドにお願いしたら良かったじゃないデスか」


 アイリは呆れた顔をして首を振った。だが村長とヒストリアはそれでも顔を暗くしている。


 「それが、ビストロ様は冒険都市ビルダーズインへこの事を伝えた場合、村中の人間を殺しに回ると言っています。私は王都へ村の野菜を売りに行っている時もその事をギルドに話したくても話せなかったのです……」


 涙が溢れ出てきたヒストリアはその場に泣き崩れてしまった。どうやらこの辺のクエストは初心者用が多い上に新規冒険者がしばらく入隊しなかった為か、フーマリン村なんて立ち寄る事がなかったから誰も気づく事がなかったのだろう。


 コナミは大きく溜息をついた後にビシッと指を指した。


 「俺たちは王都ビルダーズインのギルドに所属する冒険者コナミとアイリだ!銭王だかなんだか知らねーけど全部なんとかしてやるよ」


 「冒険者様?コナミ様とアイリ様は冒険者様だったのですね!」


 ヒストリアと村長は明るい顔立ちに戻り歓喜の声をあげ、何度も感謝の言葉と共にお礼をした。アイリはそんなコナミをキラキラした目で見ていた。


 「なんデスなんデス、コナミさん!ちょっとカッコイイデスよ!」


 「当たり前だ!あんな可愛い子を……いや、村人を助けるのもギルドの仕事だろ?でも戦うのはアイリに任せるけどな」


 はい?と言わんばかりにみんなが首を傾げる。


 「え、え、え。コナミさんが戦わないんデスか」


 「俺が勝てるわけないだろ!お前の魔法の杖ならぶん殴ったら勝てる。村のヒーローさ!ヒストリアも村のみんなも助けられる!一石二鳥さ!アイリ!お前が頼りだ!」


 ヒーローという言葉に期待したのかアイリはわざとらしく大きく溜息をついて了承した。村のみんなも集まってきて盛大に称賛の声をあげる。アイリは頬を赤く染めながらドヤ顔をしていた。何ともチョロい。


 「というわけでみんな待っててくれ。この村を賭けて1対1の決闘をビストロに申し付けてくる」


 化けウサギを一撃で殴り飛ばせられる程の力を持ったアイリならきっと1対1なら倒せるはずだ、とコナミは信じていた。コナミとアイリは急ぎビストロの城へ向かう。


 コナミは金閣寺の扉を開こうとしたが金で出来ているせいか重すぎて開けない。アイリに頼もうとして振り返った時には既にアイリは杖を振りかぶっていた。杖は金の扉を凹ませる程の勢いで大きく開く。


 「あっぶねぇ!やるなら言えよ!」


 「どうせ決闘もできない貧弱なコナミさんでは開かないと初めから思ってたデス」


 どうやらヒーローという言葉に喜んでいたように見えたが半面拗ねていたようだ。

 すると凄まじい警告音と共に金色の兵士達が剣を構えて立ち塞がる。光輝くように裏袖から出てきたのは先程の銭王ビストロだった。


 「ぐふふ。お前ら冒険者だな?村の奴らめ、ついに禁忌を犯したなぐふふふ!約束通り始末してやる」


 「待てビストロ!この村を賭けて1対1で決闘をしろ!」


 ビストロは驚いていたが、ぐふふと大きく笑った。


 「いいだろう、だが覚えておけ。このフーマリンの村の人間どもは全て重罰を下してやる!死ぬほど働かせて養分にしてその生涯を奴隷にしてくれるわ!いいのか村長、ヒストリアぁ!?」


 いつの間にか後ろにいた村長とヒストリアは身体を震わせていたがこくりと頷く。

 その回答にどれだけの勇気がそこにあっただろうか。アイリもそれに気付いて武者震いをする。


 「もう取り消せんぞ。決闘だ!今すぐフーマリン村の近くの平原へ行け!ぐふふぁ!お前たちはこれで一生我が奴隷だァ!」



――――――――――――――――――――――



 フーマリン村の近くの平原にフーマリンの村人全てと銭王ビストロとそれを囲う金色の兵士たちが並んでいた。100人程度並べられた前には金の柵が20メートル四方で四角く設置されていた。


 「がははは!勇気ある冒険者よ!前に出よ!!」


 村人の熱い声援の中、アイリは前に進んだ。村人たちも金色の扉を凹むほどの勢いで開いた馬鹿力を見て強さは理解していた。


 「ふん!小娘じゃないか、舐めおって。マエストロ!跡形もなく殺してしまえ」


 パチンと指を鳴らしたビストロの後ろから出てきたのは筋肉隆々の金の兜を纏った大男。金色の両手剣を大きく振り回して地面も響く程の叫びをあげる。村人とコナミはその雄々しき姿に震えが止まらなかったが、アイリは身震いひとつせずマエストロを見つめる。


 「小娘、やるではないか。いいだろう、さぁ殺し合いをしよう」


 マエストロとアイリはそのまま闘技場へと進んでいった。

 みんなは緊張を拭う為か大きく声をあげた。アイリ、アイリと命を賭けた声援は止まらない。


 マエストロは大剣を構える。アイリは杖を構えた。

 フーマリン村の人全ての人生を賭けた戦いが今、始まる!!



 「待て待て待て!!おま、おま、おま、その武器はなんだぁ!」


 「杖デス」


 その言葉にマエストロは震えながら大剣を落としてしまった。

 ビストロとマエストロ含む兵士たちは転げながら大笑いを始めた。村人たちは動揺し始める。


 「何がおかしいのデス!」


 「決闘は剣士と剣士の熱きぶつかり合いだ!!お前のような魔法使いなど決闘に値せん。今すぐ剣士を連れてこい!ぐふふふぁ!」


 思い返してみればそうだった。

 よくよく考えてみれば決闘で剣士と自称魔法使いが戦うなんて見た事も聞いた事もない。ましてや魔法は使えないし剣士ですらない。


 村人も焦り始めてコナミに駆け寄る。


 「決闘は剣しかダメなんです。コナミ様は剣士ですよね!お願いします!」


 「いや無理無理無理!俺マジで弱いから無理だって!」


 「いいのかぁ?試合放棄でこのまま我の勝ちとなるぞ、ぐふふ」


 「そうだ!アイリ、お前が俺の剣を持てば……!」


 「ワ、ワタシは魔法使いで登録したので剣は持てないデスよ」


 アイリは呆れた顔で首を横に振った。

 絶望するコナミは村人に引きずられながらビストロの前に差し出されてしまった。


 「なんだ剣士がいるではないか。よし決闘だ!」


 兵士たちは大きく歓声を上げるが一方で村人たちは暗い表情を見せていた。

 その中でアイリは親指を突き出しグッジョブと言うようなサインをしてなぜか少し自信満々な顔つきで心配等何もしていない様子。


 「心配いらないデスよ。コナミさんならきっと大丈夫って信じてるデスから」


 コナミとマエストロはそのまま金の柵の中に入っていく。

 先程同様マエストロは両手剣を振り回して響き渡る程の大声をあげる。


 そのあまりの恐ろしさにコナミはちょっとだけ漏らした。


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