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54. 歴史研究家スイレン

 「……イリちゃん!アイリちゃん!!」

 「ん……あれ?」

 「アイリちゃん!!よかった」


 ナギアが抱きしめながら何度も声をかけてくれていた。どうやらその場で放心状態のまま倒れる事も無く固まっていたらしい。ダラダラと流れ出たヨダレを綺麗に拭き取ってくれたナギアはもう一度強く抱きしめてくれた。


 「おかえり、アイリちゃん」

 「ただいまデス」


 アイリはなぜ忘れていたのかすらも分からない程鮮明に記憶を全てを思い出していた。その後その全てをナギアに話したが言霊に影響したせいか、直後ドロドロした何かが出現して神命が強くなったと話しながら落ち込んでいた。



――――――――――――



 「結局アイリちゃんも同じ闇の使者、ってコト?」

 「どちらかと言うと肉体を持たず魂を引っ張って留めるだけの神命を持つ闇の使者がワタシとパパの魂を繋いでいるみたいデス。ですがワタシは闇の使者無しでは生きていけないみたいデス」


 ちゃんと理解出来たのか分からないがナギアはポカーンとした顔をしていた。


 「ま!生きてるからいいっしょ!剣も怖くなくなったんだし!」

 「デスね。パパの力だけを引き継げるようになったはずデス。パパの真の力を使う時は本当に必要な時だけデス」


 うんうん!と頷いてナギアは頭を撫でる。それは子供扱いしている訳ではなくて当人でないナギアも一緒になって喜んでくれているからだ。心からイイ人だと実感させられる。


 「とりま闇の死者は置いといて~。コナミっちを救う手立て考えないとね~!」

 「闇の使者が何やって?」


 コツコツと下駄の音が聞こえてくる。遠くから現れたのは日傘を差して歩いてくるスイレンと屈強な肉体を揺らして歩くビルスメインだった。


 「アンタらもしかして、闇の使者って奴なんか?」


 スイレンが睨んだその瞬間凄まじい殺気が押し寄せてくる。明らかにビルスメインよりもスイレンの方がヤバい予感がした。


 「違う違う!闇の使者がここを滅茶苦茶にしたのかな~とか話してただけ!」


 冷や汗がゆっくりと流れ落ちるのを二人は感じていた。

 だが溢れ出る殺気が消えて呆れ顔になったスイレンは首を小さく振った。


 「ちゃうに決まっとるやろ?ここはシガレットが一番最初にぶち壊した街やさかい、其の後に魂が分解して産まれてきた闇の使者が滅茶苦茶に出来るわけないやろ」


 スイレンはまた静かに殺気が零れるように出始めて二人を静かに見つめた。


 「ちなみにアチキは歴史研究家でありながら闇の使者を滅ぼす術を探しとるもんや。ここいらでは破壊箇所が多すぎて見つかるもんは無いがマナの残痕は残っとる。そこから闇の死者に関する手掛かりを探しとった」


 どうやらスイレンとビルスメインは疑っていた闇の使者ではなく本物の歴史研究家のようだ。資料にする為なのかビルスメインは拾ってきた書物や器具を多く持たされている。そしてアイリが背負っていたフィルスの大剣を指さした。


 「ひとつ、ずっと気になってたねんけどアンタのそれフィルスの大剣やろ?何で持っとるねん」

 「これは【霊剣】イヴさんから預かったデス。ワタシはアイリッシュ・ステルスヴァイン。【剣聖】フィルスの娘デス」


 その答えにスイレンは急に目をキラキラと輝かせた。


 「なんとまぁ!いや、アチキが調べた資料ではフィルスの娘が生きとる情報はあったけどあの戦争の中で生き残るなんて大した玉やな!そらまぁその剣譲り渡されてもなんら問題ないわな!歴史研究家としてあの時の戦争の事もっと聞きたいけど~……あんま話したないか?」


 「……話せる所であればイイデスよ」


 アイリはスイレンから質問された事に噓偽り無く応え始めた。フィルスの死、シガレットについて、元々の王都ブレイブの話。生き残った経緯については砂漠の横断には母親が来てくれた事にしておいた。


 「いやはやなんとまぁ……これはええ情報になったわ。帰る実家が無いっちゅうのはさすがにしんどいのはよぉわかる。やけど安心してええでお嬢さん。上手い事いったら王都ブレイブを復興出来るかもしれへん」


 「本当デスか!?」


 「ああ、アチキはこう見えて資産家もやっとるやで仰山お金は持っとる。資料の持ち運びもあるしついでやから良かったらウチの街に来てみるか?牛さんに乗せてもろた恩もあるさかいアチキはかまへんで」


 本当は今すぐコナミの元へ戻りたいという気持ちもあったが、戻った所で何が出来るわけでもない。それに王都ブレイブがもし復興するのであればそれ程嬉しい話はない。


 「行くデス。何という街なんデス?」

 「統合都市アリエスや」



―――――――――――――――――



 ロバートフットで王都ブレイブから旅立つ最中に今まで戦った3人の闇の使者、もちろんウロボロスの事も話した。話を聞く二人は嘘だと言う訳でもなく茶化す訳でも無く真剣そのものだった。


 「ウロボロスねぇ。俺様たちがカラトの森の襲撃を聞いて行った時は既に大変な事になっていた。なるほど、要塞共和国インペリアルがあんな風になっちまうなんて容易に想像出来ちまう」


 「ホンマやな。アチキらは初め闇の死者やと疑っとったさかい、アンタらが闇の使者で要塞共和国インペリアルをぶっ壊したのもアンタらちゃうんかってずっと思っとった。けど闇の使者同士で殺し合うなんざメリット無いしありえへん話やでなぁ」


 ギクッと心に矢が刺さった様に二人は固まるが気付かれない様に落ち着かせた。


 「スイレンさん達はどうして闇の使者を調べてるデス?」

 「そらもちろん世界平和~!って訳やない。こればかりは話すのが難しいさかい向こうに着いてから話させてもらうわ」


 ロバートフットは揺られながら4人はアルケニオン砂漠を横断した。統合都市アリエスは山岳地帯にあるらしく、寒さには弱いロバートフットを酷使させる訳にも行かない為一度教会都市ジンライムへ立ち寄った。



――――――――――――



 「アンタがレイテか~!アチキの調べた資料にもよ~出てきたわ!なぁなぁ、アンタが使うフィレメイシって各旅の仲間の名前の頭文字から取った魔法なんやろ?どうやってそんな魔法作るんか教えて~な!」


 「おおお、落ち着いてください!お話しますから!」


 レイテに興味津々のスイレンはこの場に暫く留まりそうな勢いだった。教会の中には以前よりもずっと人が少なくなり、要塞共和国インペリアルの怪我人や心の病に苦しめられた人々も居なくなってきていた。各々が冒険都市ビルダーズインへ旅立ったり魔法について研究するため魔法都市プライベリウムへ行ったのだと言う。


 その中でコナミは一人、数々の魔道具を取り付けられた生命維持装置の中眠りについている。

 その様子をジッとビルスメインは見つめていた。


 「おいチビ助。コイツぁなにもんだ」

 「この人は……コナミさんデス。ワタシにとっての【英雄】の様な方デス」


 「ほぉ。世の中広いもんだ。見た目はヒョロいが俺様が見てきた誰よりもコイツが一番強い、というよりヤバい気配を放っているように感じる。勘だが間違いない。一体コイツの中に何がいるんだ。チビ助のお友達で悪いがコイツが目覚めても俺様には絶対近付けないでくれ」


 ビルスメインは関わりたくなさそうに去って行きスイレンに先を急かしていた。今までの旅で成長はしてきたけど大きく変わったのはジーク戦くらいだろうか。それでもビルスメインやスイレン、もしくはナギアにも今のコナミが勝てるとは思えなかった。ビルスメインは野生の勘だと言っていたのであくまで気にしないようにした。


 コナミはまるで死んでいるかの様に生気は無く、眠っているようにすら見えない程に感情を感じられなかった。そんなコナミだが頭を撫でるとどこか穏やかになった様に感じる。


 「行ってきます、コナミさん」


 アイリは頬にキスをした。


 これは愛らしくなったからというよりもアイリにとって必ず戻るという決意だった。だが近くで見ていたナギアに気付かずニヤニヤとした顔にアイリは尋常では無く顔を真っ赤にして煙が出る程だった。


 「ひ……ひひひひひ秘密デ……デスよ……!」

 「はいはい♪アーシも願掛けしとこうかな?口に……!」

 「だだだだ、ダメデス!」


 レイテとアルマに手を振り4人は先へ進む。

 次なる目的地は統合都市アリエス。

 これからの――※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 『シャックス、君は何がしたいんだ。コナミの肉体を奪ったそうだな。アルテウスに即刻消されてもおかしくない問題だったんだぞ』


 ウラノスは呆れながら話す。

 肉体が形成される前のコナミの魂の内側。そこに住み着くシャックスと入り込んだウラノスがどうやら話をしているようだ。


 『俺が助けてやらなかったらコナミは死んでたんだぜ?もっと感謝して欲しいもんだ!ハハハ!』


 『もしお前がこれ以上余計な真似をするのであればその時は君を殺してやるからねシャックス』


『おーおー怖い怖い。その時は闇の死者がシガレットとして復活した際にディバインズオーダーの皆さんには死んでもらうしかないなぁ。なんせ神が懐柔出来ないわけだし仕方ないよなぁ。仮に世界がまた滅亡しかけてもウラノスじゃなんにも出来ねぇ。俺たちは秩序の奴隷だからなぁアハハハ!』


『…………』


 コナミの魂は未だ形成出来ず深い深い海の底の様に広く暗く淀んだ所に取り残されていた。暫く戦いに身を置いてきた上に引きこもり体質のコナミにとってここはまるで実家の様に落ち着いた様な場所だった。


コナミの魂は、もはや還る場所を忘れつつあった。

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