52. 世界の終わりの始まり
業火で包まれる王都ブレイブは凄まじい数の魔物と共に街を破壊されていった。だが王都ブレイブには多くの頼もしい兵士たちが数多く揃っており、魔物にも引けを取らずに戦いを繰り広げている。
「なぜだシガレット!なぜお前がこんな事を!」
「貴様をまず殺しておかないとなフィルス。雷光抜刀撃」
その瞬間消えたシガレットはフィルスの前に立ちに凄まじい一撃を放つがフィルスは既にその剣を受け止めていた。鍔迫り合いの状態での二人の周りには衝撃波が何度も立ち誰も近付く事すら許されない。
「シガレット、覚えているか?旅の途中お前と何度も手合わせしたよな。その時ずっと俺はお前に勝ってきた。剣聖を甘く見るなよ英雄!!」
「ああ、覚えているさ。その度に幾度と無く貴様を殺したかったよ。だがそれも今終わる!!」
たった一瞬で剣と剣は見えない速度で火花を散らしながら衝撃波を放つ。その中でロザリオは剣を高く上げて兵士に鼓舞をうつ。
「シガレットは何者かに操られている!だが怯むな!我々の勝利は目の前だ!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
多くの兵も魔物と戦いを挑み傷を負いながらも応戦していた。強力な魔物の大群はそれでもまだ押し寄せ続けている。押し負けるのも時間の問題である事は分かっていたがそれでも誰もがフィルスの勝利を疑わなかった。
「シガレット、もうやめるんだ。お前の中に正義の心が残っているなら応えろ!数々のクエストをこなして数えきれない人を救ってきたじゃないか!それなのにお前の今している事はなんだ!」
「黙れ黙れ黙れえええ!!イライラするんだよ!!何も知らないお前達の勝手で俺は、俺はああああ!!!」
シガレットの斬撃は怒りに任せた大振りとなった所をフィルスは見逃しはしなかった。その一撃を避けた時にはフィルスの大剣は光を纏い次なる攻撃へと備えていた。それを見たシガレットは次に来る技を知っていた様に防御態勢へと変わる。
「秘剣・聖光斬」
その一撃はアルケニオン砂漠を突き抜ける程の高威力でその身体を吹き飛ばした。シガレットは素早さに重きを置いたアタッカーだったが、これ程までの高威力技は持ち合わせておらずまともに食らって防ぐ術等無かった。
「ふー……ふー……」
咄嗟に避けてはいたが左肩はぐちゃぐちゃになり肉が焦げている程に負傷し、攻撃を受けた剣は砕かれて消え去っていた。シガレットはそのままガクリと崩れ落ちて膝を付く。
「終わりだシガレット。今すぐにモンスターを止めるんだ。そうじゃなければ俺は、お前を撃たなくてはならなくなる」
「お前が父上にこの技を撃たなければ……ふー……シガレットに討たれる隙など見せる事は……なかった……ふー…ふー……お前さえ……居なければ……」
「何を言っているシガレット。父上とはどういう事だ。」
「俺は、旅の間ずっと何者かに操られていた……ふー……。俺は魔王勇者パーシヴァルの息子なんだ……。だが魔王勇者を倒す為……何者かに操られたまま俺は……ふー……。父上を殺す為に勇者となったのだ!!魔王勇者を討てるのは俺の身体しか出来ないから!!!」
「なっ……」
その言葉に驚きを隠せなかったフィルスは油断した。
たった一呼吸にも満たない一瞬の隙だった。
フィルスの大剣を蹴り上げて奪い取りその剣で斬りかかった。
「ダメええええええええええ!!!!」
そこに現れたのは一人の少女。アイリだった。
フィルスは咄嗟にアイリを庇いその背をシガレットへと向けた。
その音しか聞こえないような静寂となっていた。
場に居た兵や魔物の全てという全てはその瞬間を息を呑んで見ていたのだ。
ザシュッ……!!!
フィルスの背中はシガレットによって大きく斬られた。
シガレットの全身へとかかる程に血が噴き出て止まることは無い。
「パ………パ……?」
「アイリ……ごめんな。こんなパパで……。それでも……アイリを考えない日は……無かった……。アイリ……愛してる……愛して……」
アイリを抱いたまま【剣聖】フィルスは死んだ。
その事に対しシガレットは旅をしてきた記憶が重なり正義の魂が強く動き出した。頭を抱えながら目の前の惨状を後悔しながら泣き叫ぶ。
「俺はなぜ……フィルスを……殺して……。ああ、ダメだ。俺もやってる事は同じじゃないか!娘の前で父親を殺して!!何をやって……俺は、俺は!!……く、クハハ、いや、いいんだ。いいんだ!!これは復讐だ。復讐だ!!!ふー……ふー……魔物共ォ!!!全てを殺せェ!!!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
魔物達は復活したかのように威勢を取り戻し人間達を蹂躙し始める。フィルスが死んだ事で王都ブレイブの指揮系統は崩壊し、成されるがままに兵達は次々に死んでいった。
「マ……マ……」
「アイリィィィ!!!」
亡きフィルスの腕からアイリを引きずり出したロザリオは手を取って走りだした。目の前は暗く淀み、足元は覚束ず、何が起きているのかさえもアイリにはわからなかった。
「生きて。生きるのよ。ワタシ達の宝。アナタだけは、アナタだけは」
走りながらも飛び掛かってくるモンスター達を薙ぎ倒して燃え盛る街を駆け抜けていく。
「覚えてる?アイリ。昔、魔法使いになりたいって言ってたよね。外の世界にはまだまだ広い世界があるの。そこでアナタは魔法使いになるの。立派に人の役に立つ魔法使いに。はぁ……はぁ……」
息が切れて剣を持つ手が震えるロザリオは決しに言葉を出す。まるでそれは今しか話せないから必死で話すように。
「ワタシもね、寂しかった。パパがいつも旅に出るから。それでもアナタが居たからここまでやってこれた。だからお願い、生きて。生きるのよ。アイリ」
アルケニオン砂漠の前まで着いたロザリオはアイリに指を差す。
「この先に、行けば、きっと、助かるから、ワタシは……」
「ママ……?」
倒れ込んだロザリオは大量の血を流していた。既に魔物との戦いで負傷し、生きているのも不思議な程だった。そしてアイリと繋いでいた手はゆっくりとほどけ落ちてロザリオは死んだ。
「行かなきゃ……」
アイリはロザリオの剣を拾い上げ、一人アルケニオン砂漠へと向かう。




