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5. 悪夢から覚めても現実


 目が覚めると冒険都市ビルダーズインは炎に包まれていた。

 賑わっていた街並は燃え尽き、崩れ落ちる。

 大量の人間の死体をわざと踏むように歩く巨人。

 逃げまとう人間を捕まえてはボリボリと音をたてて口に運ぶ魔物。

 勇ましく戦う冒険者たちも次々と殺されていく。

 

 そこは地獄だった。


 「なんだ……これ……」


 目に見える光景があまりの惨劇にコナミは言葉を失った。

 また悲鳴が聞こえる。そしてまた……そしてまた……。

 悲鳴と燃え盛る炎の音が収まる事はない。


 「貴様あああああああ!!」


 怒声が聞こえたと思うとそいつは剣を引き抜き次々と魔物たちを切り倒していく。

 そいつも魔物のように見える程の殺気と威圧だった。


 「死ね……」


 ―――どこかで声が小さく聞こえた気がする……。


 「イヴ………?」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 「死ね死ね死ね死ね死ねDEATH!!!!!!」


 目が覚めると隣でギャンギャン騒ぎながら枕でコナミは殴られていた。

 悪夢から覚めた上に目覚めてもこれまた悪夢のようだ。コナミは驚いてベッドから転げ落ちてしまった。


 「人のベッドに潜り込んで挙句の果てに服を脱がすとは!ここまで変態だったとはさすがのワタシも我慢の限界なのデス!!」


 コナミに指を刺して怒っているのは赤面でリンゴのような顔になったアイリだった。


 「知らねーよ!起きたらお前が入ってきてたし自分で脱いでたんだろ!つーかアイリお前酒くっさ!」


 「なななななんデスかその態度に言い方は。謝るデス!!」


 朝から枕投げをして喧嘩していたけれどさっきの悪夢を思い出すよりずっと良かった。

 あれは夢のように思えたけれどどうしても現実感が勝るようなリアルさを感じた。それに燃やされた街並みは冒険都市ビルダーズインに見えたけれどどういう理由なのかはわからなかった。


 コナミたちはシャワーを浴びた後、着替えてギルドへ向かった。

 とにかく今はお金がない。アイリにいつまでも頼るわけにはいかなかった。


 「やっほー!クエスト受けに来たの?見てって見てって~!」


 陽気に話しかけてきたのはギルドメイドのフェイだった。

 今日も賑わうギルドの中をビールジョッキを持って駆け回っている。何より豊満な胸がとにかく揺れ騒いでいる。コナミの中の何かも揺れ騒ぎそうだった。


 「変態コナミさんはいつまで見てるデス」


 「いやっ、あれは見るだろ普通。目にも保養が必要だからな。眼福眼福……」


 アイリは自身のあるのかないのか不明な胸と比較した後ムスッとした顔をしながら、コナミと共にクエストボードを見に行った。


 クエストボードにはたくさんの紙が貼られている。書かれている内容は簡単で依頼者名、内容、報奨金、依頼難易度とあとはギルドが受理した判子だけという簡単なものだ。


 普通ならギルドが認可した依頼難易度には冒険者の実力に合わせた内容がありがちだが、この世界にはそういった常識は無くどのクエストでも受けてもいい。だがコナミはそれでもまずは初心者向けの内容を選択した。


 「えーっと、フーマリン村の周辺の化けウサギを倒せ。あれってチュートリアルモンスターだろ?場所も知ってるし余裕余裕!」


 コナミはクエストの紙をちぎってフェイに渡した。


 「お、初クエストだね。こういうクエストいつまでも残っちゃうから助かるよー。気を付けてねー!」


 喜びながらフェイは手を振って見送ってくれたけれど、実際は報酬金少ないし雑用係の様な仕事だ。

 初めてのクエストにアイリはウキウキしながらギルドを出た。それとは裏腹にコナミは少し緊張していた。死んだら元いた世界に戻れる保証などどこにもないからだ。


 「ま、まぁ初心者向けのクエストだし大丈夫だろう……大丈夫…だよな」


 足は震えたけれど顔を叩いて奮起した。


 フーマリンの村は冒険都市ビルダーズインからすぐ近くの小さな村だった。初心者なら誰もが通る道であり、昔旅した時もクエストを冒険都市ビルダーズイン周辺で受けていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これは、話が違うだろ…!!」


2メートルはあるだろうか。目がギラギラと赤く身体は横に大きく広がったふわふわのウサギがそこにはいた。普段VRで見ていて確かに大きさ的にはこんな感じだけれど、それでもゲームの中と実際に見るのとはわけが違う。


「ウサギっつーか、こりゃ熊だろ……。こんなに違うものか……」


 コナミは冒険者の剣を構えて化けウサギに立ち向かった。

 化けウサギはコナミに気付いて見た目とは程遠い野太い寄生をあげる。コナミはそれに怖気づいて逃げ腰のまま化けウサギの正面まできてしまった。


 ズドッ!


 鈍い痛みが腹に刻まれる。化けウサギの薙ぎ払うようなパンチだ。以前初めて戦った時は全くダメージはなかったのに、コナミは吹き飛ばされてしまった。出血こそしていないが肺を痛めたせいか呼吸がし辛い。


 「ごほぉ、げほぉ。……俺もしかして戦う系のスキルとかもらってない感じ?」


 化けウサギは続いてタックルを食らわせようと飛び掛かってきた。コナミは情けない声をあげながら逃げまとう。その姿を見てアイリは腹を抱えて笑っていた。


 「お、お前も見てないで戦えアイリ!!」


 しょーがないと言わんばかりにゆっくりと立ち上がってアイリは杖を構えた。恐らくアイリの装いからして優秀な魔法使い。遠隔攻撃なら倒せるだろう。


 「チェストー!」


 掛け声と共にアイリは化けウサギの頭を杖で殴りつけた。化けウサギの頭が地面にめり込んで埋まりそのまま力尽きた。


 「……すげーーー!!!ってアイリ、お前は魔法使いなんだろ?」


 「ワタシは魔法が使えない自称魔法使いなのデス。勉強中デス」


 ふふんと鼻を擦らせてなぜかドヤ顔のアイリにコナミはツッコミを入れたいと心の中で思いながらも、それより遥かに自らの非力さと使えなさに嘆いた。


 元々レベル設定や経験値等の概念は無かったがあまりにも現実に近いものを感じる。体力ゲージも特に無くUIらしきものも今までなかったせいか違和感こそないがチート能力こそ欲しかったものだ。


 「ま、まぁ一応倒したしギルドに報告に行くか」


 「コナミさんコナミさん、折角ならフーマリン村が近くにありますので寄っていきたいデス」


 「あそこには何もないけど、まぁいいや。少し寄っていくか」


 嬉しそうにアイリはフーマリン村へ向かった。王都ブレイブからどうやってここまで来たかは分からないが近くの村も立ち寄らずに冒険都市ビルダーズインまで来たのだろうか。


 フーマリンの村は真ん中には大きな池があり、それを囲うように10件の家が立ち並ぶ小さな村だった。NPCの人間も20人程度しかいない。普段は漁業や畑などから道具屋としてそれを売ったり冒険都市ビルダーズインに持ち込んだりしている。


 だが、その真ん中の池は埋め立てられて金ピカに輝く大きな城が立っていた。


 「なんだありゃ。金閣寺かよ!なんだこれ今までこんなのなかったのに」


 「コナミさん、村の人たちなんだか様子がおかしいデス。元気がないというか、この村大丈夫なんデス?」


 城に目が行って気付くのが遅れたが、村の人はゲッソリとした顔立ちをしていて目も虚ろでいた。すると金の城の扉が鈍い音を立てながら開いていく。フラッシュでも炊いているのかと思う程に眩しい。


「金閣寺?実にエレガントな響きじゃな~いか!んんん~ん!採用だ!」


 中から出てきたのは金マントに金のスーツ、金色のちょび髭、金の髪の毛73分けの太った男。コナミたちはもう光り過ぎて何がなんだか理解が追い付かなかった。

 だが、後ろを見てみると村の住人は綺麗に並んで土下座をしている。


 「なにしてるデス!?ワタシに土下座しても何も出ないデスよ」


 「いや絶対アイリじゃねぇよ。それよりどうしたんだ」


 「ぼ、冒険者の人か。早く頭を下げるんだ」


 初心者の頃お世話になった八百屋の主人は顔を上げないまま話す。今までこんな情報聞いたなかったし、池を埋め立ててこんな城を作るなんて運営のセンスもどうかしているようにもコナミは感じた。


 そう思っている間に先程出てきた金ピカの太った男は城の入口からもう近くまで来ていた。その周囲には金の鎧を纏った兵士が20人程いる。


 「にしてもなんデスこの人たち。眩しすぎるデスよ」


 「そうだろうそうだろう?この光輝く金!眩しくて欲しくなっただろう?ふふふ!我は銭王ビストロだ!2日後の約束を覚えているな!婚約の儀だ、ふふふ!楽しみにしているぞ愚民ども~!」


 ビストロは溢れ出るヨダレを啜りながら笑う。村人たちは「ははー!」と合唱団のように声を揃えて言った。典型的な悪者って感じのビストロはこちらをちらりと見た。


 「おいおいおい、チミたちは一体全体何者だ~?作法を知らんのかね、土下座だよ!ふふふ」


 「そんな事するわけないデ……ぶっ!」


 喧嘩を買いに行きかけたアイリをコナミは全力で止めた。こんな兵士に囲まれた状態で揉め事なんて殺されてしまうだろう。コナミはアイリを押さえつけながら土下座の格好をさせた。


 「なにするデス!こんなやつボコボコに……」


 「周りを見ろ!勝てるわけないだろこのバカ!」


 「それでよいのだ愚民ども、ぐふふふ!!さぁ、娘を見せてもらおうか!」


 土下座する村人の中から一人の女性が立ち上がった。恐らくコナミと同じくらいの年齢だろう。白くてキレイな長い髪。そして透き通るような黄色い目。そしてこの上品な顔立ちに、なにより安っぽい服からはみ出る豊満な胸の谷間。


 「私はヒストリアと言います。銭王ビストロ様に渡す調度品になります」


 ビストロはヒストリアの身体を舐めるように見回す。ヒストリアは怯えながら身体を震わせていた。アイリはそれを見てドン引きしている。


 「イイ……!なかなかイイ~じゃないの!来月の納金も許してやろうじゃ~ないか!むふふふ」


 「た、助けましょうよコナミさん!ヒストリアさんが可哀想デス!」


 恐らくあのいやらしい目が気に入らないのかアイリは怒り、今にも発射しそうなミサイルのように杖を握り締めていた。


 「アイリの言いたい事はわかる。だがとにかく事情を聞いてからだ。婚姻は2日後って言ってたからまだ時間はあるはずだ」


悔しそうにしているアイリを(なだ)めながらコナミは慎重に事の発端を聞く事にした。この村だけではなくこの世界に一体何が起きているのか知る為に。

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