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43. フィレメイシ


 ドゴオオオオオオオン!!!!!

 爆発音と共に目を開けると元居た会議室に着いていた。

 

 ナギアも五体満足無事で空間移動は上手くいったが、2人同時だからなのかそれとも距離があったからなのか、船酔いをしたかのように気分が悪く何故か心臓辺りが痛い。


 しかしそんな事を思っている暇も無いほどに状況は最悪で、もはや会議室と呼べるものは無く外の景色が吹き抜けのように崩壊している。


 「なに……これ……」


 (おびただ)しい程の血が床中に広がり外の景色は地獄絵図と化していた。中央のウォータースライダーは崩落し、血が混じった濃い赤色の水が噴射されている。街中の人間が逃げまといグリフォがそれを追いかけ回しハンマーで殺戮をしていた。


 「やめてええええ!!!」


 槍と手にしたナギアは城は3階だというのにお構いなしに真っ直ぐグリフォに向かって突撃した。グリフォはナギアに巨大なハンマーで殴り掛かるがそれを受け止めた。


 「どうしてグリフォ!!ジークに指示されたの!?」


 グリフォは息の荒い声を出しながら攻撃をする手は全く止まらない。それどころか恐ろしい物を見てしまう。新たなグリフォの姿をした魔道人形が次々と集まってくるのだ。既にナギアの後ろをハンマーを構えたグリフォが殴り掛かろうとしていた。


 「危ないナギア!後ろだ!」

 「もう……グリフォは居ないんだね……ジークはホントに……」


 そう呟くとナギアは流れるようにハンマーを避けてグリフォの心臓を貫いた。血が噴き出る事も無くグリフォは完全に停止しそのまま崩れ落ちる。そして残りの3体のグリフォも意図も簡単に片づけてしまう。この槍捌きを見るに実力はイヴには劣るがほぼ同等と言っても過言ではない。


 ドゴオオオオオオオン!!!


 街での爆発音が止まらない。きっとイヴとウロボロスが交戦しているのだろう。


 「コナミっち。アーシと一緒に戦って欲しい」

 「もちろんだ。急ごう!」


 2人は音の方角へ走り出したが道中の悲惨な現状に吐きそうになっていた。瓦礫で押し潰された人やハンマーで胴体を吹き飛ばされた人。そして未だにグリフォに追われている人の姿を見たコナミは咄嗟に剣を振り上げて斬りかかった。


 「【英雄】!!!」


 底上げされた力はグリフォの胴体を簡単に吹き飛ばしてしまった。力は初めて使った時よりも増して更に強くなりはしたが、本当は真っ二つにするつもりがそこまでの力は無かった。


「コナミっちすっご!意外と強かったんだ~!」


 驚いているナギアよりも実際はコナミが一番驚いていた。コナミ自身今まで気付いていなかったが多くの戦闘を積んでいつの間にか少しずつだが強くなっていたのだった。


 だが【英雄】の能力発動中は体力を削り進めて行く。攻撃の時のみ能力を発動させたいが連続して発動出来る条件が分からない以上解除は出来ない。


 爆発音は収まる事無く続き、その音が大きくなるにつれに次第に近付いているのがわかる。その時遠くに崩れ落ちた瓦礫の上でイヴとウロボロスが戦闘しているのが見えた。


 「素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!【霊剣】という名は伊達ではないようだ!」

 「黙れ!」


 ガギギギギギギギギン!!!!


 ウロボロスとイヴが物凄い速さで剣を交えている。イヴは身体中に切り傷を負い、鎧も各所で破壊されているのが見えるが、ウロボロスも束ねていた髪が解け、身体も血塗れになっていた。


 霊剣が何本も砕け散ったのかそこかしこに落ちているが、ウロボロスの攻撃に際して使っている爪は何も傷を負ってはいなかった。


 ふっとウロボロスが消えたと思ったらイヴの真後ろに既に姿を現していた。それをイヴは後ろに目が付いているかのようにウロボロスに攻撃を仕掛ける。


 「明鏡止水。超人的な集中力で人間に備わる五感を最大限まで発揮する事で風や音による皮膚や、筋肉の脈動から一定範囲内の全てを理解できる。お前のそれがある限り私の【次元時空】で裏を取っても直ぐに位置がバレてしまう。まるで天敵、素晴らしい力だ。」


 「天敵だと?私と貴様では格が違う!」


 「忌々しく燃えるその命の灯火、今に消し去ってやろう」


 また剣と爪が交わりその度に地面が揺れ、次々と建物が倒壊していく。ここに無理やり参戦してもイヴの邪魔になり兼ねない。


 「あれがウロボロス、と女の人は【霊剣】って呼ばれてたけどもしかしてあの有名な【霊剣】イヴ・バレンタイン的な?」


 「ああ、俺たちの仲間だ。ウロボロスを相手出来るのはイヴかナギアしかいない。イヴの助けに入れそうか?」


 「いやいやあんな化け物と伝説の冒険者とかアーシじゃ無理っしょ!今はアイリちゃんとジークを探そ!それにグリフォを止めないと街のみんなが死んじゃう!」


 ナギアでも無理なら恐らく今のディバインズオーダーで最強のイヴが負けた瞬間この街全ての人間が殺されてしまうだろう。


 アイリの秘剣・聖光斬を当てる事さえ出来ればもしかしたら、と考えたが自分の何も出来ない弱さにそれこそ苛立ちを覚えた。神から貰った【英雄】のチート能力があって尚、イヴに頼って、ナギアに頼って、アイリにも頼って、余りにも情けない。これでいいはずがない。


 そう思った時だった。イヴとウロボロスの戦闘の反対側から爆発音がした。大きな火は竜の形を帯びて何かに襲い掛かっている。


 「あれは、ジークの【魔導】!!」


 そうなると戦っているのは……。


 「アイリィィ!!!」


 気が付けば身体が勝手にコナミは一目散にそこに走っていた。

 生きていてくれ、頼む、生きててくれ!!


 現場に着いたコナミが見た物は先程の火の竜が襲い掛かった痕跡が地面の焼けた様子から見て凄まじい威力だとわかる。そして―――。


 そこには身体中の血肉が焼け焦げて倒れているアイリがいた。


 出血した跡すら焼け落ち、身体中が傷だらけになっている。そして右手には火、左手には氷を宿したジークが空を浮いていた。


 「ああ……あああ!!!アイリ!!アイリ!!」


 気が動転した。怒りに任せてジークを殺す感情よりもアイリの悲惨な姿に感情の拠り所を失っていた。どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい!?


 「コナミ!それにナギアまで……!どうやってあの檻を抜け出した!!どれだけ作るのに神命を費やしたと思っている!!」


 「アイリちゃん!アイリちゃん!!!ジーク、こんな事もうやめて!アーシ信じてたのに!」


 「僕たちは間違っていたんだ。この世界に生を受けた時点でその運命を捻じ曲げる事は許されていなかったんだよ。この戦いは意味のある戦い。ナギアもきっと理解してくれる」


 「これのどこをどう理解しようって言うの!ウロボロスに何か言われたんでしょ!お願いアーシの話を聞いて!」


 ナギアとジークが話をしている中コナミの感情はぐちゃぐちゃになっている。


「誰でもいいアイリを助けてくれ。お願いだ、またあの笑顔が見たいんだ。何も要らない。何も望まない。何も必要ない。だからお願いだ。アイリを助けてくれ……レイテ」


 そう思った時ふと思い出したかのようにレイテから貰った一枚の紙をポケットから取り出す。


 【これを読んでいるという時は本当に困っている時なのでしょう。死は肉体の限界を迎えた身体から魂が漏れ落ち、天界や地獄へと誘われた事を指すと言われています。もしコナミくんの目の前で死が起こった場合、1度だけ魂を呼び戻す僕の最上級魔法をこの神聖の首飾りに込めました】


 「アイリが、アイリが助かるのか!?」


 【その代わり使用者はその痛みを代わりに引き継ぐ事になります。その傷は反動の呪いにも近く、フルエウロンは通じません。使えばコナミくんは代わりに死ぬかもしれません。だから、しっかりと考えて使ってください。魔法を使う時はこう唱えてください……】


 「【フィレメイシ】」


 迷う事無くコナミは最上級魔法を発動させた。光り輝く神聖の首飾りはコナミの首から外れ、アイリの身体の中に溶け込まれていく。


 「コナミ何をしている!やめろ!ファイスドラグニアル!」


 ジークは即座に両手を炎と氷の竜に変え、その口から強力なブレスの攻撃仕掛けた。それを見たナギアはアイリの前に立ち槍を構える。


 「流麗槍!!」


 槍をブレスに向かってたった一突き。ブレスは貫通して消し飛び、ジークは急いで避けたがその勢いは止まる事は無く一瞬触れただけで左腕の氷の竜が吹き飛んだ。ジークの指が幾本か欠損しボタボタと血が流れ落ちる。


 「ガアアア!!何をするんだナギアぁぁぁ!!お前は僕と同じ闇の使者なのだぞぉぉぉ!!!自らの使命を忘れたかぁぁぁ!!!」


 「ジークは言ったよね。平和な街を作るって。どうしてこんな事をするの!」


 「聞けナギアぁ!シガレットはこの世界に裏切られた!操られた状態で父親を殺され、更には仲間に自らの身体を壊され、その魂の欠片を世界へ散らした。そして年月をかけて誕生したのが僕たち闇の使者だ!つまり僕たち闇の使者はシガレットの魂であり、言霊は魂を増大させる為のもの。つまり誰か一人でも言霊を集めきった時、シガレットはいずれ復活する。僕はそれをウロボロスに託した!!待っていたのだ彼の様な強き存在を!!」


 「そんな……。アーシもシガレットになるって事?待って、え、ヤダ無理。そんなの嫌!!!」


 「これは拭えない真実だ!そしてこの真実を知ったナギアの目の前には今、神命を強めてくれる神がいるはずだ!君もウロボロスとひとつになるのだ」


 「イヤぁぁぁぁぁ!!来ないで!!来ないで!」


 何も無い所を見て恐怖するナギアはコナミには見えはしないがドロドロした何かを見て怯えている。その間に神聖の首飾りはアイリの中へ完全に溶け込み、アイリの身体の傷は次々に治り、呼吸が安定し始める。


 そして刺青(いれずみ)のようにアイリの身体を張って進む黒い大量の線はコナミの身体の中へ流れ込んでいく。恐らくレイテの紙に書かれていた反動がこれだろう。


 ドクンッ!!!!!!!!


 「ぐぼああああああああ!!!」


 その瞬間コナミから大量の血が噴き出し、皮膚は焼けただれ落ちる。何度も殴られたのか身体中の骨は砕け、内臓の一部が破裂する鈍い音が聞こえた。


 死ぬ。いや、これでいい。それでもアイリを救えた。


 「コナミっち!コナミっち!!イヤぁぁぁあ!!!」


 ナギアの甲高い叫び声のはずがずっと小さく遠く聞こえる。血が溢れ出すぎたせいか温泉に入っているように温かい。でも身体は寒い。痛みは無い。指ひとつすら動かせない。


※※※※―――――※※※―※※※※※※


あれ、指の動かし方ってどうやるんだっけ。


※―――――※※※――――※※――――


意識が消えていく。


※※※※※※―――――※※※


死ぬ。


※※―――――――※


 『おいおい、ここまでか?』


 目の前にはドロドロしていたはずの何か。形が鮮明になりそれは目の前にいた。


 『お前、どうしてここに……』

 『寝ぼけてんのか?初めっから俺はお前のそばにずっといたよ』


 そこにいたのはシガレットだった。

 だがそれは夢で見た憎しみに満ちた顔ではなく、みんなと冒険に出て毎日が楽しく過ごしていた頃の【英雄】の姿だった。

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