33. 禁止事項
「カッカッカッ!なんじゃあこの男は。弱そうな男じゃのぉ。こんな男が仲間になるじゃとぉ?要らぬ!帰れ!!」
アルマはレイテをじろじろと見回してけなし続けた。レイテと共に宿屋に戻ってきたがやはりアルマが認めた人間以外には冷たい態度を取ってしまう様だ。
「あはは……カラト族ですか。僕たちがカラトの森へ足を運んだ時も同じ様な事を言われたのを思い出しますよ」
「そうじゃったな。吾輩が幼き頃に勇者を名乗る者達が来た事を覚えておるがイチイチ個人の人間の顔等覚えておらぬわ!」
カラト族は由緒ある聖域を守る為の戦闘部族と言える。人間の様な弱い者や余所者を毛嫌いする傾向があるようだ。
「こらこら。レイテはアイリの毒や俺の傷を治してくれたんだぞ?」
「なにっ!そうなのか!?お主もイイ奴だったんじゃな。いやな、なんじゃ、そうではないかと思っておった!カッカッカッ!」
あまりの態度の一変に二人は顔を見合わせてクスリと笑う。こんな風に一緒に笑うのもなんだか懐かしい。レイテはアイリの様子を見に立ち上がった。
「この子がフィルスの娘だったんですね。あのフィルスが立派に育てたものです。本当に無事で良かった」
レイテは亡きフィルスを思い出してなのか、ずっと探していたアイリを我が子を見る様に見つめていた。最高のヒーラーであるレイテが付いているならアイリの容態も安心だ。
「さて、話を戻しますが先程のアルマさんの話で、頭に触れた瞬間"何か"を流し込まれそうになった。それが洗脳というのは正しい情報ですか?」
「吾輩が嘘を言っていると?あれは間違いなくそうじゃった。我がカラトの部族は古来より変わらぬ習慣を持つ為に変化には敏感じゃから違和感という物に対して異常な警戒を持つ。あのまま頭を触れられていたらと思うとゾッとするわ」
レイテは考え込む表情を取りながら悩んでいた。
「街の様子がおかしくなったのはここ一ヶ月ほどですがフリューゲルが来たのは戦争後すぐになるのです。当時から戦争の心の傷を癒す為と言いながら民から金を徴収もしています。元々教会が無くなった故に民から新たな教祖として崇拝もされていますし、今更になって民を洗脳する必要があるのでしょうか」
闇の使者あれば言霊を集めるのが目的とされるが金を集めるのが目的なのだろうか。一ヶ月ほど前から闇の使者が現れたとして、民を洗脳して何がしたいのか。
「ふん、結局金か。何がしたいのかわからんのぉ。あのヘンテコ帽子が闇の使者であれば即狩り殺すのじゃが」
「プライベリウムで出会った闇の使者ハーベストは別人に変化して城内に忍び込んでいた。フリューゲルがここ一ヶ月で闇の使者に入れ変わった可能性もあるけど、戦後からやってる事が変わってないなら目的が不明過ぎる」
「確かにカラトの村に来たあの憎きウロボロスは自身の力を見せつけるような振る舞いじゃった……。本当に奴らは一体何がしたいのじゃ?」
アイツらは言霊を集め力を付けシガレットを復活させるのが目的。神様から口外禁止とされている以上言葉に気を付けないと秩序を逸脱したら神様から殺される。
だが神様から直接聞いた訳ではなくハーベストから直接聞いた内容であれば問題ないかもしれない。
「ハーベストは言だ……」
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ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああ
時間は静止する。
身体は動かない。
脳に誰かの悲鳴だけが響く。
死が近付くのだけがわかる。
寒い。寒い。寒い。寒い。怖い。怖い。怖い。
凍える様な空気と殺気が伝う。
『こんにちは』
一瞬にして全ての声や感覚は消え去る。
『先程ぶりねコナミ君。君にとってはそうでもないかな?私がここに来た理由はたった一つ。警戒心が全くない君に忠告しにきた。レイテやアルマが闇の使者だったら君は余計な情報を与える事になる。あと一言でも話せば口外禁止事項を君は破る所だったわ』
この声は、ウラノス―――――。
耳元で囁くように話すはその言葉に凄まじい殺気を放っている。
ずっと監視されているんだ。
『やめろウラノス』
この声は、ドロドロした【何か】。
『あらあら醜い姿ねシャックス。私はあなたに忠告したはずよ。もう二度とこの地に足を踏み入れないようにと』
『こいつは俺の鍵だ。手を出すな。お前らも分かっているだろう』
『見っとも無い。情けない。救いようがない。自分の部屋で引き籠ってるあなたを誰も神だと誰も認めていない』
『事情も知らぬクソが。前回は会話の最中にアルテウスから不意打ちを食らって遮断されたが今回はアルテウスは不在の様だな。まだ秩序を逸脱していない以上手は出せないだろ?』
『……そうだね。コナミくん、これだけは覚えといて。他の神はそうでもないけど私は常に君を見ている。今後はもっともっと気を付けないとダメだからね。これは忠告、そして約束』
そう言うとウラノスは消えていった。
『悪いな。今の俺にはやれる事は少ない。だがウラノスはこの街に闇の使者がいる事を勘づいているかもしれない。気を付けろよ、英雄』
シャックスと呼ばれたドロドロした【何か】は消え去ったと同時に静止していた時間が勝手に動き出す。
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「あっ……」
アドレナリンが急激に上昇したせいか汗が滝の様に流れ出る。現実では静止した継ぎ目のない0秒の間に起こった出来事が脳の中にインプットされて割れるように頭が痛い。
「コナミよ、どうした?汗がだらだらではないか」
「急に腹痛がっ!トイレトイレ!」
コナミは吐きそうになりながらダッシュで宿を後にした。路地裏に入りゲロを吐いてコナミは言葉には出さず頭の中で整理した。
あのドロドロした【何か】はシャックスと呼ばれる神の仲間だった。そしてウラノスの直観ではこの街に闇の使者はやはりいる。恐らくフリューゲルで間違いない。だが戦後の間は金だけ徴収して急に一ヶ月前から洗脳を始めたって事は、ハーベスト同様の変化の能力を持っていて闇の使者に成り代わった可能性もある。
「おやおや旅のお方、どうなされたのです。中央教会のフリューゲル様にはお会いになられたのですか?」
突然話しかけてきたのは教会前にいた街のお婆さんだった。
「ご気分が悪いので?さ、これを食べなさい。元気になりますよオホーホホホ!」
そう言って渡してきたのはドルケットというディバインズオーダーではマナを回復するのに効率のいいお菓子だった。コナミは有難くもらってそれを食べた、が、そもそもマナが無いコナミには味気ないクッキーだった。
「ありがとうお婆さん。元気になったよ。あ、所でお婆さん、フリューゲル様は一体何者なんだ?」
「フリューゲル様は王都ブレイブ出身なのです。わかるでしょうこの意味が。当時僧侶として冒険者をしていたフリューゲル様は王都を離れていた時に惨事は起きたのです。それでフリューゲル様は全てを失ったのですが冒険者の時に作ったお金全てを使い中央教会を建設したのです。その時に資金援助したのが今は亡き夫と私なのですよ」
魔王シガレットが一番初めに襲い、アイリの目の前でフィルスを殺した始まりの街。その惨事はレイテから聞いていた以上に恐ろしい物なのかもしれない。間接的とは言えフリューゲルもその被害者なのだろう。話している途中でお婆さんは泣き始めた。
「私は知っているのです。あの中央教会は教会都市ジンライムの民をお救いになる教会とは別に魔王シガレットに対する憎悪が込められた教会である事に。本来お救いになるべきフリューゲル様がまだお救いになられていない……」
「そうだったのか……。ありがとうお婆さん。あ、そうだ。この街の様子が変なんだがそれも知らないか?」
「旅のお方は知らんかったですかえ?闇の使者なるおぞましい者が現れるそうで皆が恐怖しておったのです。しかしフリューゲル様は1ヶ月ほど前からお救いの手を恐れる民全てに触れる事でその恐怖を和らげておられるのです。そのおかげか皆は死を恐れず希望に満ちた表情をしておられるでしょう?私はそのような将来長くは無い為、死など恐れる事はないですがの!オホーホホホ!それでは旅のお方も元気が出たので失礼しますよオホーホホホ!」
甲高く笑うお婆さんはそのまま去って行った。お婆さんはフリューゲルに手を触れられていないから洗脳されてない可能性が高い。だから誰も気にも留めない民と違ってボロボロになったコナミにお婆さんは気にかけてくれた。
「コナミくん」
後ろから声をかけてきたのはフードを被ったレイテだった。
「君は腹痛と言って嘘を付いていたので心配で来てみましたがイイ話を聞けました。1ヶ月前からフリューゲルが洗脳の様な動きを始めたのは間違いなさそうですね。恐怖を和らげているというのは一体どういう事なのでしょうか……」
「ああ。一旦アルマの言う洗脳の線で行くのが正しいかもしれない。ただ何が起こっているのか正確な情報が必要だ。そうだレイテ、民の洗脳を解除する魔法とか使えたりしないのか?」
「何度か試していますがマナの干渉が無く怪我や呪いの類では無い為か解除どころか本当に洗脳されているかすら怪しいレベルなのです。一体闇の使者とはどんな能力を持っているのか……」
闇の使者ハーベストは物質や空間、何もかもを別の物に【変化】する能力。マナを使う魔法とは異なる異能を闇の使者が持っているのなら頭を振れただけで洗脳する能力を持っていてもおかしくはない。それに治癒魔法に出来るのは傷等や魔法による呪いの解呪の類。つまり能力による可能性が高いからフリューゲルは闇の使者である可能性は高くなった。
「そうか…。試しに洗脳されてみて直してもらうってわけにもいかない、か」
「いっそ襲撃してみる、というのはどうじゃ?」
振り返るとニコニコとしているアルマがいた。音も無く近付いてきた事に二人は気付かず驚いて尻もちを付く。
「カッカッカッ!何をそんなに驚いておるか!軟弱じゃのぉ」
「アルマ、お前いつの間に来た!てかアイリを置いたままだぞ!」
「大丈夫じゃ。民と呼んでおるあいつらは吾輩が勝手に宿を出ようが服を引っぺがそうが見向きもせんだわ。カッカッカッ!」
冗談ぽく笑いながらアルマは話すが冗談ではないのだろう。野生児を一人にしておくのも危険が生じるかもしれない。
「それより襲撃というのは一体どういう事ですか」
「おかしな帽子男が闇の使者なんじゃろ?じゃが尻尾は出さん。それなら襲撃してみてその反応を探るのがベストじゃろうて。もし闇の使者なら殺してしまえばいいし、違った場合はごめんなさいすればいい」
殴るのを寸止めしてビビる様を面白がる子供のような発想だが、もし本気で殺しに来た相手に闇の使者ならどう立ち向かうのかそれも気になる。
「やってみますか……!」
「やるなら今夜襲撃だ」
「カッカッカッ!!」
決行は今夜。時が止まった教会都市ジンライムが動き出す。




