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31. 教会都市ジンライム

 やっとの思い死の森を抜けて目的地へと到着したコナミだったが教会都市ジンライムは以前来た姿とはまるで別物だった。


 中央に位置していた大きな宮殿にも似た教会は解体されたのか無くなっており、代わりに見た事もない人の何者かの銅像が建設されていた。銅像の後ろには大きな十字架と集中線のようなあり、よほど信仰深い人でもいるのだろうかという様子だ。


 1人は全裸にマントのカラト族、1人は腕が折れて憔悴しきった顔付き、1人は意識不明の背負われた少女。誰がどう見ても不審者であった為、人の目が気になる所だったがどうにも街の様子はコナミ達に関心が無い様子だった。


 「なんじゃこの人間共は。吾輩達が見えておらんのか?」

 「なんか不気味な街になってしまったな。とりあえず教会へ急ごうていうかお前、人間人間ってあんま見下した事言うなよ」


 「ふん。お主は認めた男じゃし仲間のアイリも許す。じゃが人間が吾輩の故郷を滅ぼした事に変わりはない」

 「だからそれは説明しただろ……」


 闇の使者についてアルマに説明したがどこまで理解しているのかわからない。

 兎に角シガレットの頃よくお世話になった街の奥にある教会へ急いだ。元々その教会は【大司祭】レイテの実家であり、慈善活動の一環と称して街の人を治してくれる街にはかけがえのない親切な病院のような所だ。


 しかしあるはずの教会は消え去っていた。燃え朽ちて暫く経過した様子の教会を目の前にコナミは言葉を失った。


 「無くなっておるではないか。どういう事じゃコナミ」

 「わ……わからない。何があったんだ」


 シガレットが過去にここを襲い、各都市を破壊した時に同じく教会もろとも攻撃されて破壊されたのだろうか。それにしては破壊というよりも教会の骨組みは残っていて放火された様な跡だった。


 「おやおや旅のお方、この教会に用かい?」


 近くを立ち寄ったである街のお婆さんが話しかけてきた。身体中に数珠を付けたような変な格好をしている。


 「あ、ああ。なあ、この教会なんで燃えたんだ?」

 「ここはかつて魔王シガレットの一味であるレイテという穢れた人間の住まう教会だったからねぇ。燃やされて当然だが戒めとして残してあるのよ」

 「穢れた……人間?」


 街の人間からすればシガレットが世界を破壊してから仲間もそう思われても仕方ないはずだ。そもそも冒険都市ビルダーズインにいたイヴもコソコソと生きていた。メサイアも王宮内に匿う様な形を取っており、コナミ達が都市を出る時も遠くから手を振る程しか出来なかった。レイテも同じ様な境遇だったんだろうか。


 ここは話を合わせるべきか。


 「そうですよね!あはは」

 笑え。作れ。顔を作れ。


 「そのレイテというのは」

 笑え。作れ。顔を作れ。


 「どこにいるんですか」

 コナミの顔は怒りでいっぱいになっていた。目の前にいるお婆さんに向けていいものかどうかは不明だがそれでも怒りを抑える事が出来なかった。


 「オホーホホホ!その表情、相当レイテを憎んでいらっしゃるご様子ですね!この街には救いがございます。是非そこにある中央教会(セントラル)にいらっしゃいますフリューゲル様にお会いなさるといいでしょう。きっとお救いくださいますオホーホホホ!」


 急にお婆さんが気が狂ったように笑い出したせいで怒りを忘れてしまった。フリューゲルなんて司祭は聞いた事ない名前だ。コナミはこの街で一体何があったのか知る必要があった。


「ありがとうお婆さん。その方に会いに行ってみます」


 頭をペコリと下げて中央教会(セントラル)とやらに向かう事にしたが、人間の街を知らないはずのアルマですらその異変に気付いていた。


 「この街、異常だぞ。何か嫌な予感がするわ」

 「ああ、わかってる。でもアイリを救えるなら背に腹は代えられない」



――――――――――――――――――



 中央教会(セントラル)は過去に建造されていた巨大な宮殿教会と同等の大きな教会として建設されていた。その手前に置いてあるピカピカと輝く銅像の胡散臭く笑う奴がフリューゲルなのだろうか。


 中央教会(セントラル)の入口まで伸びる階段には大きなレッドカーペットが敷いてある。階段を登って中央教会(セントラル)へ向かう人の顔は死にそうな表情をしているが、対照的に降りてくる人は恍惚とした表情をしている。


 「あらまぁどうなされたのです。毒に蝕まれているご様子ですわ」


 階段を上がっている途中で話しかけてきたシスターはアイリを見てそう言った。


 「そうなんです。フリューゲル様に見て頂こうかと思いまして」


 「フリューゲル様は私達の心の癒しはお与えになりますが肉体の癒しはされませんよ。死は心を世界の架け橋として結ぶ大事な物なのです。この子はもう時期死を以て救われる事でしょう。是非フリューゲル様にお会いになって天へお送りいたしましょう」


 シスターが言っている事は何一つ理解出来なかった。だがわかる事は2つ。1つはフリューゲルでは治して貰えない。もう1つはこの街が狂っているという事だ。死が救いだと何だと宗教染みた話をしてくる時点でもう胡散臭い。


 「そうですか。ありがとうございました」


 他を当たる為階段を降りようとするとシスターは肩を手を掴んで止めてきた。


 「この階段は救われた者のみが降りられる階段なのです。あなたはフリューゲル様にお会いになってお救いして貰ってからでないといけません」


 「お主何を言ってるんだ。そやつではアイリは救えんと言っておるだろう!」


 「いいえ必ずお救いになってくださいます。天使が降りてくるのを感じます」


 このシスターのイカレ具合は異常過ぎる。何を言っても手を離そうとしない。

 その時階段を登る黒いフードを被った者がアイリの頭をぽんと触った。不意な事にコナミは勢いよく振り向いたがそこには誰もいなかった。


 「ん……コナミさん?」


 アイリが目を覚ました。

 階段の上側を見たが黒いフードの者は既に姿はなく、まるで消えたかのようだった。


「アイリ、良かった。本当に。それで大丈夫なのか?」

「よく分かりませんが身体の毒は消えたみたいデス…」


 それでもまだ本調子に戻らないアイリを気遣い、宿を取ろうと階段を降りようとしたがシスターが腕を掴み止めに入る。


 「待ってください!せめてフリューゲル様にお会いになってください。お願いします。どうか……」


 今にも泣き崩れそうなシスターにどうする事も出来なくなり渋々階段を登った。黒いフードの者が何をしたかは不明だがアイリの毒は消えたから一旦は大丈夫だろう。アイリを背負う折れた右腕から傷みを発するが自分の心配は後でいい。


 中央教会(セントラル)の入り口前には小さな十字架を持ったシスターが何人も並んでおり、それを横目に先程のシスターに案内をされるがまま進んでいく。


 「こちらは大聖堂。かつて魔王シガレットがこの都市を襲った後、教会宮殿を取壊して建設された教会になります。創立者こそ我らがフリューゲル様に在らせられます。フリューゲル様は海よりも空よりも広い心で貴方方の心の救済をしてくださいますでしょう」


 大聖堂の中は長椅子が並んだよくある教会の作りをしていて、その前方中央には街でも見かけた銅像がこれ見よがしに立っている。長椅子に座る人は俯いたまま頭の上に十字架を掲げて祈りを取っている。


 「こちらにお座りください。フリューゲル様がもうじき御出で致します」


 案内された長椅子に座って待つ事となったが、歩きっぱなしで疲れた身体にはちょうどいい休憩所だ。アイリは深い眠りについたままだが寝息は安定している為一先ず安心だが、マント1枚のアルマの方が目立って心配だ。アルマは長椅子に胡坐(あぐら)をかいて伸びをしたまま欠伸をする。


 「ふぁぁ……なんじゃこの趣味の悪い部屋は。辛気臭いにも程があるぞ」

 「フリューゲルとかいう奴の話を聞いたら直ぐに宿を取ろう。お腹も空いたしアイリも心配だ」


 そう話しているとアルマのお腹がぐぎゅおおおと鳴る。


 「吾輩は森の子熊を仕留めて食べようと思っておったのに食べる前にお主達に出会ってしまったからな。腹ペコでお腹と背中がくっつきそうだわい」


 アルマが退屈そうにしている最中、長椅子に座っていた者達が一斉に立ち上がる。パイプオルガンの音と共にステージ脇から銅像と同じ顔の男が現れた。大きな長いローブに頭はコック長のように長いクロブークに似た帽子。崇拝していないコナミ達からすればただの目立ちたがり屋にしか見えない。


 「「フリューゲル様ー!」」

 「「我らに救いの手を!」」


 多くの声が飛び交う中、フリューゲルが手をすっと挙げると途端に静寂が訪れる。


 「私は教会都市ジンライムの王にして皆の神フリューゲル。かつて魔王シガレットに心を痛めつけられ、そしてこの街にいた魔王の仲間である【大司祭】と名乗るレイテに騙され続けて病み悔いた心を浄化しましょう」


 「カッカッカッ、なんじゃあのダサい格好は。笑いを堪えるのに必死になってしまうわ」


 小声で罵倒しながら震えるアルマをフリューゲルはジロりと見る。


 「震えているのですね。可哀想に迷える子羊よ。その様なみすぼらしい格好はよくない。さ、こちらに」


 笑いを堪えるアルマを震えていると勘違いしたフリューゲルは目をつけた。下を向いてニヤニヤしているアルマは正面にある神前に連れて行かれフリューゲルはアルマの頭に触れる。


 「神はあなたをずっと見ていますよ」


 そう言うとアルマはハッとしたかのようにフリューゲルを見る。その瞬間バッと離れたアルマはこちらに走り寄ってきた。


 「コナミ、行くぞ。アイリを連れて急げ」

 「え?あ、ああ」


 アルマはコナミの手を引っ張るとそのまま真っ直ぐ教会を後にした。ざわつく教会の中を振り返るとフリューゲルはじっとこちらを見ているだけだった。その目は睨む事も悲しむ事もなく、ただ何を思っているのか不明な感情の無い目だった。



――――――――――――――――――――



 宿に着いたコナミ達はアイリをベッドに休ませて一息ついた。アイリの容態は苦しむ様子はなく眠っているように感じる。


 「どうしたんだよアルマ。あいつに何かされたか?」

 「うむ。頭に触れた瞬間"何か"を流し込まれそうになったわい。もしかしたら他の者も同じようにされて洗脳されているのかもしれん」


 アルマの野生の勘が働いただけなのかもしれないが、それはこの異常な宗教性から確かな真実なのかもしれない。フリューゲルが闇の使者の可能性、それも有り得るがハーベストやウロボロスの戦闘スタイルとは異なるタイプであり目的が不明だ。


 「とりあえず一旦街に出て装備を買いに行こう。ここには服屋があったはずだ」


 「え~~~~~!嫌じゃ!村ではカラトでは着ておる者のが少なかったぞ!」


 「ダメだ。俺に着いてくるならこれだけは譲れない」


 嫌がってはいるがマント一丁のアルマをこれ以上外に出すのは目立ちすぎる。それに街の様子をもう少し確認する必要があったし腕の痛みも限界が来ていた。能力で治す事も出来たがいつ闇の使者が突然現れるか分からないし、能力の使用回数も不明なままでは無暗に使えない。



―――――――――――――――――――――



 リン王女から頂いたお金である程度装備を整える事が出来た。

 

 アルマは腕や足が強化される度に服が破けてしまう可能性がある為、柔らかいタンクトップに短めの伸縮性のあるパンツ。それに上からコナミが渡したマントを羽織っている。渋々着ていたが慣れてきたのか今ではニコニコとしていた。


 コナミもボロボロになった冒険者装備を新調し、動きやすく軽い鎧に魔除けの効果がついたマントを買った。


 「ほ~お主には鎧が似合わぬな。ひょろいからか?」

 「うるせぇ!どいつもこいつも俺をイジりやがる」


 装備を整えるアルマとコナミはだったが街の様子を注意深く周りを警戒していた。まるで人格の無いNPCみたく全く意志を持っているように感じない上にコナミ達をチラリとも見る気配はない。


 「改めて変わった街じゃの。人形が歩いておる」

 「さすがにおかしい。俺は街を散策してみるがアイリも心配だ。アルマが付いてやってくれないか?」

 「目覚めんのも吾輩のせいじゃしな。よかろう。だがこの様子じゃし何かあったらすぐに戻れ」


 コナミは頷いて街を歩きながらメサイアの言葉を思い出す。


 『私たちは……その後世界中の人間に嫌われた……。シガレットを討ったとは言え、仲間が世界を…滅ぼしたから……。だから各都市で償っているの……。私達に出来る事は……闇の使者を殺す事と……みんなを守る事だから……』


 つまりレイテもこの街で償いをしているはずだ。だが街を見る限りフリューゲルがレイテを悪魔の使いのように話す様子から償いすら許されていないのかもしれない。


 コナミは気が付いたら先程の焼け落ちた教会の前に立っていた。会えるかもしれないと期待半分だったが周囲に人の姿はまるで見当たらなかった。


 「君はなぜここにいるんですか」


 先程まで全く人の姿は無かったのに突然黒いフードの男が目の前に現れた。絶妙に離れた位置で剣のリーチが届かない距離を見計らっている。闇の使者の可能性もあるし、言霊の影響が生じるから不用意な言葉は危険。それでもコナミは藁をもすがる勢いで言葉がどうしても出てきてしまった。


 「ここは俺が信頼してる人の教会なんだ。お節介で不器用な癖に偉そうな奴だけど本当にイイ奴なんだ。今はどこ行ったのかわからないけど」


 黒いフードの者は一歩だけ近付いてくると、いつ攻撃されてもいいように剣を握る。しかし折れた右腕は尋常ではない程膨れ上がり強い痛みを放っている。


 「君は、闇の使者ですか?」


 不意に言われた言葉に驚き首を大きく振った。また一歩近付いてくる。


 「名前の名は何と言うのです」

 「俺はコナミって名…ま」


 その瞬間黒いフードの者は後ろに立っていた。速い等と言った次元ではない。初めからそこに居たかのような。黒いフードの者が右手をギュッと握り締めてきた痛みで剣を握る事すら出来ない。


 「いってぇ…!」

 「コナミ君、僕は君を知る必要があるようです」


 その瞬間足元に大きな時計の様な紋が現れて周囲は白黒へと変わっていく。

 この魔法は―――!!!


 「お前、レイテ……か?」


 黒いフードを外した男は黒い伸び切った長い髪の毛に荒くれ者のような強い目。元のレイテはパッツンに優しい目をしていたはずだ。だが紛れもなくその男はかつて共に旅をした仲間【大司祭】レイテだった。


 「確かに僕はレイテです。しかし僕は君を知らない。何者ですかあなた」

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