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3. アイリッシュ・ステルスヴァイン

 シガレットの名前がギルド名簿にない。

 つまりは自分の名前が抹消されている。

 

 コナミにはいったい何が起こっているのかさっぱり理解できなかった。


 「ここは、本当に俺のいたディバインズオーダーのなのか?でも街並みもそこまで大きく変わってなかったし、それにイヴもいてシガレットを知っていた。なのにどうして……?」


「もしもし」


 机で考えながら頭を抱えていた所に、突然見知らぬ女の子が話しかけてきた。

 

 恐らく中学生くらいだろうか。金髪のロングで、小さな身体には似合わない程大きな青いマントと長い鉄で出来たような杖を持っている。黒の組織に薬でも盛られた直後とでも言えるような不釣り合いな装いだった。


 「あの~、ずっと隣でもしもしって話しかけてたんデスが何してるデス?」


 少し語尾のイントネーションがおかしい女の子は首を傾げながらこちらを見ていた。


 「ああ、ごめん。ちょっと考え事しててな。俺はシガ……、いや、コナミっていうんだ。さっき冒険者ギルドに登録してきた所だ。君は?」


女の子の綺麗な青い目はキラキラと輝き始め、興奮したまま椅子の上に立ち上がった。


 「よよよよくぞ聞いてくれたデスよコナミさん。ワ、ワタシはアイリッシュ・ステルスヴァイン!その名の通り【剣聖】フィルス・ステルスヴァインの娘なのデス!どどどうデスか!」


 鼻息を荒げて興奮したままドヤ顔で自己紹介をしてきた。その表情とは裏腹に手足は有り得んばかりに震えている。興奮状態なのか、もはや混乱している様にも見えた。


 ステルスヴァインと言えば一緒に冒険していた仲間に【剣聖】で名が通るフィルス・ステルスヴァインという名前でプレイヤーがいた。


 その通り名は伊達ではなく剣の腕はこのディバインズオーダーの中では最も強いともされていた。更にこの世でただ一人聖属性のマナを使用する事が出来、その威力は世界最強とまで言われる男だ。


 「まさか……その名前.フィルスの娘か~~~。娘にまでディバインズオーダーをさせるとは!」


 コナミはテンション全開で抱きかかえて高い高いをするとアイリッシュはすぐに顔を真っ赤に赤らめた。


 「あいつも悪い奴だな~。こんな可愛いキャラクリさせちゃって!趣味全開かよ~!」


 「ななななななななにをするデスかこのアホー!」


 次の瞬間、紫色の玉のついた杖を振ったかと思うと魔法を唱えるのではなく、それを物理技で頭に殴ってきた。普通ゴンっと音がする所がグシャっと鈍い音がした。


 「あわわわ……つい、ごめんなさいデス。あ、あれ死んじゃった?あわわわどうしようデス…」


 「何してるんですか!コナミさん!?大丈夫ですかコナミさーん!」


 途切れ行く意識の中でアイリッシュの慌てる声とフェイが走り駆け寄ってくる声が聞こえた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 「実は娘が出来たって女房に聞いてよ。それで、もしかしたら度々実家に戻るかもしれない。悪いなみんな」


 遠征で遠出していた俺たちはダンジョン前でキャンプを立てていた。

 焚火を囲みながら【剣聖】フィルスは子供ができた事を告白する。


 「おめでとうフィルス。気にしなくても大丈夫よ。いいな~子供か~」


 羨ましそうに話すのは【霊剣】イヴだった。

 クールで澄ましている【大司祭】レイテは小さく乾杯をする。


 「おめでとうフィルス!すげーな大人だなぁ。でもリアルの方が大事だ。なんかあったらまた教えてくれればいいよ」


 子供どころか彼女もまともに作った事のないシガレットは祝いの言葉を持ち合わせてなかったから雑な祝辞になってしまった。そう言いながらシガレットも乾杯を送る。


 「おめでとう…フィルス。今まで数々の冒険を……ずっとみんなでやってきたし……これからはスローペースでも……別にいい……かも」


 おどおど話すのは【大魔導士】メサイアだった。コミュニケーション能力が欠片もなかったけど魔法の知識欲だけはずば抜けて高く世界最強の魔法使いと言われている。


 フィルスは泣くエモートをしながら「みんなありがとう」と言って酒を交わした。


 シガレット含む五人のパーティは朝まで宴会した。


 これからの話、リアルの話、その中でコナミも自分の事を素直に話せた。

 本当の友達だと心から思えるのはこのパーティだけだと心から思えたものだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 懐かしい思い出が頭を巡らせていたが目を覚ますとまた見知らぬ天井。

 

 まさかこれよくある死んだら初めからやり直しの無限ループものとかじゃないよな、と疑いたくなる気分だった。包帯を巻かれているけどさっきの一撃を食らったせいか頭が酷く痛む。どうやら死んだわけではなさそうだ。


 「痛てて……ここは?」


 「さっきはごめんなさいデス。ここはギルドの二階の小部屋デス。コナミさん、大丈夫……デスか?」


 心配そうな目をしながらアイリッシュはベッドの隣の椅子に座っていた。

 さっきまで輝いていた青い綺麗な目は涙に滲んでいる。


 「ああ、大丈夫。俺、こう見えても頑丈な方だから……多分。俺もごめんな。デリカシーなかったな」


 「そんな事ないデス。事実デス……」


 アイリッシュはしょんぼりしながら答えた。

 さっきの威勢はどこへいったのやらと思う程の感情の波が激しい子供にコナミには見えていた。


 「ワタシは王都ブレイブからちょっと事情があって離れてきたのデス。毎日パパが剣の修行修行ってうるさかったのでずっと自分の部屋に籠っていたのデス。そのせいで人とどう接すればいいかわからないデスし、新規のギルド登録者ならパパの名前を出せばどうにかなるかと思ったのデス。……調子に乗ってごめんなさいデス……」


 つまりは引きこもり、コミュニケーションレベル皆無、ここの冒険都市に来たばかり。

 同じ境遇の人に出会えた事で俺は感動のあまり涙が溢れ出てきた。


 「わかる……。わかるぞその気持ち……!ニート歴が長い俺にはよーくわかる。それに俺もここに来たばかりなんだ。全くフィルスは修行修行って何やってんだか。こんな可愛い娘をなんだと思ってんだ」


 恐らく可愛いという単語にアイリはまた顔を真っ赤にして俯いた。

 アイリッシュは手をゆっくりと動かすとコナミはまた杖で殴られると思ってガードしたがは手を差し出した。


 「わ、わかるならお友達になってほしいデス。ワタシの事は特別にアイリって呼んでもいいデスよ……」


 震えた小さな手をコナミは取った。

 すると太陽が昇り始めたようにアイリッシュは満面の笑みになる。


 「よろしくな。アイリ」

 「よろしくデス。コナミさん」


 コナミもここに来て初めての友達に嬉しくなって二人で笑った。


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