28. 【大魔導士】メサイア
3日も経つと身体の具合は良くなってきた。
付きっきりで王宮のヒーラーたちが面倒を見てくれたお陰からかねじ切れた筋肉や内臓や骨に至るまで全て完治している。かつて最高のヒーラーが仲間にいたが魔法の力はやはり偉大だと深く感じる。
「コナミ、身体は……大丈…夫?」
「ああもう全然元気さ!ありがとうメサイア」
「そう……。それならリン王女が…お待ちだから……着替えて王室まで……来て…」
「コナミさん、ここ着替え置いとくデスから。先に行って待ってるデスよ」
そう言い残すと二人は扉を閉めて部屋から出て行った。
アイリにも聞きたい事は山ほどある。ハーベスト戦で繰り出した【剣聖】フィルスの大技である秘剣・聖光斬。アイリも神様から選ばれたのだろうか。それとも―――。
コナミは首をぶんぶんと振り着替えて王室へと足を運ぶ。
「んなわけ、ないよな」
――――――――――――
魔法都市プライベリウムの王室は今も昔も魔法都市と言う名に恥じない内装だ。
本来は部屋のはずなのだが魔法の効果でまるで空に浮いているような背景をしており、部屋自体がとてつもなく広く感じる。光輝く玉が宙を舞い、魔法で造形された鳥が通り過ぎていき、更に机や家具、水や炎に至るまで全てが空中に浮いている。
王室中央には大きな椅子に座ったリン王女。その隣にはメサイアが浮いている。コナミは浮けないので地べたを歩いていた。シガレットとして訪れた時はちゃんと浮いていたというのになんて情けない。
「まだ浮けないだなんて!才能ないデスね、コナミさんは!」
そう生意気な口を叩きながら浮いていたアイリは降りてきて隣に並ぶ。ぶっきらぼうな顔をしているがそういう優しさがアイリのイイ所なんだとコナミは強く思う。
「「整列!!」」
大きな声と共に近衛騎士が長蛇の整列を成す。リン王女へと向かうレッドカーペットのようだ。
「ここへ」
リン王女に言われるがままコナミとアイリが緊張しながら近衛騎士の間を進む。リン王女はキラキラと輝く白いドレスに包まれており、誰がどう見ても王女の品格や風格がオーラで伝わる。そのオーラを前に自然とコナミとアイリは膝を付いた。
「コナミさん。アイリさん。王室まで足を運んで頂きありがとうございます。早速ですが此度は闇の使者の討伐、ありがとうございました」
「え?あ、いや、その」
実際は滅多打ちにされた挙句、能力を使っても倒す事すら出来なかった。アイリの馬鹿力と機転、メサイアの魔法が無ければ勝ち目なんてどこにも無かった。
「コナミ…。あなたとアイリが、血塗れでも勇敢に戦ったのを……私は知ってる。この国を守ったのは……あなた達だ」
「「敬礼!!!」」
その声と共に近衛騎士団が光を纏った魔法剣を胸にかざす。
「あなた方は、紛れもなくこの国の英雄です!」
リン王女のその言葉と共に魔法剣を宙にかざし光を空に飛ばす。それは花火の様に綺麗に光を放ち、その光から多くのコックが現れる。
「コナミコナミーーー!会いたかったよーー!」
その中のコック長であるリゾットが目を輝かせてコナミ目掛けて飛んできた。
「今日はね!今日はね!コナミの為にいーーーっぱい料理作ったの!」
「本当か!ありがとうリゾット!」
満足そうな顔をするリゾットは他のコックと共に指揮者のような手ぶりをさせると豪勢な料理がそこかしこに現れた。これにはアイリもヨダレを出しながら空を見上げている。
この後はシガレットの頃に魔王を倒した時並みに盛大な宴だった。賑やかで楽しくこんな時間が永遠に続けばいいと心の底から感じた。そう感じたからこそ不安と重圧が圧し掛かる。こうしている間にも闇の使者は力を強めているのだ。
「コナミさ~~~ん。飲んでますか~~ウヘヘ!」
デロデロに酔っぱらったアイリはウザ絡みをしながら酒をラッパ飲みしている。これはヒロインの姿では決してない。ただの呑兵衛だ。その後ろにはメサイアの姿もあった。
「コナミ……ちょっと話が…ある」
「なんレスか~~?ワタシも聞くデスよ~~~」
するとメサイアは口元に手を当てた。
「秘密……二人で話が…したいの……」
そういうとコナミの手を取りそのままドロドロと床に消えていく。コナミもまた足元がぬかるんだかに感じそのまま落ちていった。
――――――――――――――――
気が付くとそこは王宮の頂上にある天文台。
心地のイイ風が身体を通り、目の前には美しい都市と光輝く星空だった。先程まで王室内は晴れ渡るの空の上にいたが、実際は夜だったのだ。
「ここにはね……昔みんなで来た事が……あるの。思い出の場所……」
確かに昔ここには来た事があるが、あれは魔王討伐前の旅の途中で魔法都市を探検してた頃にたまたま通りかかったに過ぎない場所だった。
「そうなんだ。でも話って?」
「コナミを見て…なんでかわからないけど……シガレットを思い…出したの」
ドキッと心臓が鳴る。カタカタと手が震えだす。
言いたい。本当は自分がシガレットだって言いたい。
いいや、抑えるんだ。
コナミは大きく深呼吸した。
「あいつは敵だろ?この世界を滅ぼした」
「うん……。けど昔は英雄だった……。なんであんな事したのか……わからないけど……それでもまだ……シガレットを信じてる…」
コナミは涙が溢れかけた。抑えるんだ。
コナミは喉から声が出かかった。抑えるんだ。
ぐっと唇を噛んで拳を握った。
「闇の使者……全部倒したら…シガレットは帰ってくるかな……。それとも……闇の使者がシガレット自身なら……その一部を私が殺しちゃたの……かな」
メサイアは星空を見ながら泣いていた。どれだけの想いを乗せた涙なのだろう。コナミは涙を抑えきれずにボロボロと泣きだしてしまった。
「……本当は俺が、俺がシガレットなんだ」
つい言葉が出てしまった。我に返ったコナミは口を塞ぐ。メサイアは口をポカーンと開けたまま聞いている。
「コナミが、シガレット…?」
サーッとコナミから血の気が引いていく。その瞬間メサイアは大きく笑い出した。
「この街の英雄……だもんね。うん、コナミはシガレット…なのかも…。だけどコナミは……コナミ…だよ。慰めてくれた…んだよね」
コナミは顔が熱くなって頭をぶんぶんと縦に振る事しか出来なかった。
「闇の使者は……まだいる……と思う……。だからこそ…リン王女の側からは…離れられない」
「そうだな。侵入される方法も分かったしもっと用心しないと」
「うん……だから、ね。コナミに闇の使者を……全部倒してきて欲しいの」
メサイアはお願いしてコナミの手を握った。その時神様であるウラノスが手を握った時の感覚を即座に思い出した。だけど明らかに違う。この期待にはどうしても応えたくなる。
「メサイア、俺はこの街を救った英雄だぜ?俺が何とかしてみせる。約束だ」
メサイアの手を強く握り返す。
ちょっと臭い言葉を言ってしまったように感じたコナミは若干恥ずかしくなったがそれ以上にその意志は強く重かった。
「ありがとう……私の英雄……」
メサイアは今までに見た事のないくらい可愛い笑顔を見せるとコナミに抱き着いた。アタフタしたが一旦心を落ち着かせてコナミはメサイアの頭を撫でた。
「うう……うぐうう……」
メサイアにとってこれがどれ程の苦渋の決断だっただろう。闇の使者がシガレットである以上、友を殺してほしいと頼んでいるのだ。
この先苦悩や痛みが待ち受けているのだろう。
闇の使者から受けた痛み。神様と話した死の約束とその現実。
その全てが脳裏にこびり付いて離れない。
それでもみんなを守りたい。コナミは英雄への一歩目を駆けだした。




