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27. 土下座しろ!

 「世界を……救う」


 厨二心溢れかえるようなワードに感慨深い気持ちになったがその答えは唐突に我へと帰らせた。これだけの闇の使者への対抗手段としてのチート能力を持っておきながら闇の使者であるハーベスト戦では惨敗。結局の所メサイアが倒したに過ぎない。


 そう思い出したコナミの心は現実を思い知った。


 「ウラノス達が見てたかどうか知らないがついさっき俺は闇の使者に負けたばかりなんだ……。能力使っても身体が持たなかったしこれで他の闇の使者に勝てるかどうか」


 ゲームみたいにレベルアップが出来るなら別だ。小さなモンスターを狩ったりしてコツコツと身体強化をすればいずれ【英雄】の能力も使いこなす事が出来るだろう。


 だが大きな問題が時間が無い事。

 レベル上げをしてる間に闇の使者は言霊を集めてシガレットに近付いていく。能力を使いこなせるようになるまでにシガレットが復活した場合、恐らくもう一度世界は崩壊してしまう可能性が高い。


 「アァ?そんなもん知るか。こんだけ能力貰っといて使いこなせねェってのはテメェが弱いのが悪いんだよ」


「そんなの暴論過ぎるだろ!世界中のみんなと協力してシガレットを迎え撃つ方がいいんじゃないか」


 デストレイズが立ち上がってコナミの顔を覗き込む。燃えるような瞳の奥は冷徹な目というより単純にコナミを破壊したいというただの餌や玩具(おもちゃ)を見る目に過ぎなかった。


 「どの道テメェが逃げ出してシガレットが生まれたらよォ。責任取って俺たちがテメェをぶち殺すだけだぜ?闇の使者にぶっ殺されるか、俺たちにぶっ殺されるかそれとも闇の使者全員ぶち殺すかのどれかしかねェんだよ分かってんのか、アァ?」


 「え………」


 逃げ道なんてなかった。

 神様のミスを全部押し付けて、脅して、丸投げする。もしこれが社会におけるサラリーマンならパワハラで訴える所だ。ニートなので知る由もないのだが。


 ストレスで胃が痛くなってきた所にウラノスはコナミを抱きしめた。豊満な胸が身体中に溶け込むように柔らかく、神の慈悲を感じる様に優しかった。まず女性に抱きしめられた経験すらないコナミは心臓が口から飛び出るかと思ったが、それ以上に優しかった為その母性に身体を委ねる他なかった。


「君には本当に申し訳ない事をしていると思っているよ。だけどこれは神様からのお願いなんだという事も分かって欲しい」


 そう言いながら頭を撫でる。デストレイズというイジメっ子にイジメられたからママが優しく慰めてくれているようなそんな気持ちだ。


 だがウラノスは笑顔で口を開く。


 「君はある程度特別だから許可されているけれどこの件については口外禁止。神の存在を下界の人間や魔物が知る事は秩序を逸脱しているから知られるわけにもいかないんだ。それにこの話は闇の使者に対して言霊として結合してもおかしくない情報だからね。だから口外禁止。これって話ちゃいけないんじゃなくて、話したら君にはもう生命の保証がなくなるから禁止なの」


 優しく抱きしめたウラノスの顔は笑っていたがその目は実験動物を見る目だった。どこまで行っても神様からすればコナミは代わりの効く人間なのだ。


 「そうだな、俺は」


 コナミが今まで頑張ってきた自分を誇れる事で唯一あるのがディバインズオーダーだけだった。その美しい世界と人間社会ではハブられていたコナミを必要としてくれる仲間達。そして信じた仲間と一緒に魔王と戦い、世界中の人から称賛された。


 「もう一度この世界の英雄になるよ」


 アイリやメサイア達がいてくれる。まだ終わっちゃいない。それにみんなは闇の使者を倒す為に協力してくれている。だからもう一度初めからリスタートすればいいんだ。


 「目覚める時間がきたようだ」


 音も無く現れたおかっぱ頭で短パンの少年はそう話す。じっと骨董品のような時計を眺めながら佇む少年にアルテウスは興奮を抑えきれず抱き着いた。


 「モルモル~~~。可愛いね~~~モルモル~~~!」

 「うわ!やめてよアルテウス!ボクは時間だと教えにきただけ!」


 アルテウスに抱き着かれながらモルモルと呼ばれる少年は顔色を一切赤らめてはいなかった。照れる様子も嫌悪する様子も無く日常風景に近いのだろうか。


 「紹介するわね。この子は夢と現実を司る神モルフェウス」

 「モルフェウス……。この世界は夢なのか?」


 「コホン。違うね。君の魂のみをこの世界に留まらせているんだ。つまり君の本体は魔法都市プライベリウムのベッドで眠っているよ。ウラノスが魂を神界へ引きずり出し、ボクは君の魂に干渉してそれを実態に変えている。簡単に言えば夢を現実に出来る能力なんだ。夢を見せている様で実は現実。そんな所だよ」


 鼻高々に話すモルフェウスは自慢げだった。つまりドヤ顔だ。話が難しすぎる上にあやふやな表現の様にも聞こえたコナミは頭を傾げた。つまり魂が具現化して人間の形を保ってるだけって事だろうか。


 「モルよォ、後どんくれェなんだ?」


 「コナミ君が目覚めるまであと3分弱って所だね。君は疲労で眠りについて夢を見てるだけだけど

起きてしまったら向こうの世界に強制移動させられるのさ」


 「ディバインズオーダーにいるのも夢の世界なのか?」


 「コホン。違うね。時間を凍結させられていた君はウラノスによって肉体ごと魂をこちら側へ移された。だからこの世界は現実で夢ではないね」


 あ、なるほどね。とコナミは手で相槌を打つ。つまりは死ねば本当の意味で終わるという事だ。ウラノスはコナミに近付いてそっと手を握る。


 「君はもう時期目覚める。いつまたここに来て話せるかは神の気まぐれだからわからないけれど、それでも私たちは君に期待してる」


 優しい声で話すウラノスはそう言い聞かせるようにコナミに伝える。どれだけ優しく話そうが結局はモルモットであり最終的には強制だ。


 「わかってるよ。俺だって死にたくなんてないしな!ただ俺からも条件がひとつ!約束してくれなきゃやってやらねぇ!」


 「ア?なんだお前言ってみろよ」


 コナミは声が震えながら手も震えながらそれでも言ってやると決めていた。ウラノスたちに人差し指を向けて言い放つ。


 「もし俺が世界救ったらお前ら全員土下座して謝れ!!!!」


 「えぇ……」「あァ?」「ん~~~?」「ふふ」


 色んな声が聞こえたがそれでも言ってやったんだ。

 それにゲームプレイが効率厨のコナミは3分弱という言葉を聞き逃してはいなかった。あと3秒。2秒。1秒。視界が暗くなり足元から床が崩れ落ちる感覚。闇の中に急に引きずりこまれていく。


 夢の終わり。そんな暗闇で少しだけ声が聞こえた。


 「土下座してあげる。君が勝てたらね…」


 口約束だが約束だ。その言葉を噛みしめながらコナミは落ちていく。


 そして次に感じた感覚はくすぐったいような、いや、顔に違和感が。

 何かが動いている?これも夢から目覚める感覚なのだろうか。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ハッと目が覚めるとアイリの顔があった。異常な程近い。


 「うひゃぁあ!ビックリしたデス!起きる時は今から起きるデスと声かけて貰わないと迷惑デスよ」


 起床1秒でアイリは既に怒っているが肩は揺れている。メサイアも涙を浮かべながら肩を震わせてこちらを見ている。待っててくれたのだろうか。心配かけさせただろうか。


 「みんなごめんな。俺、ぶっ倒れちゃって。それでも俺もっと頑張るから、強くなるから!」


 口外禁止と言われたワードを気を付けながら寝起きの頭ではこの言葉が精一杯だった。


 「ぶふぉ!!!」


 メサイアはなぜか吹き出す。顔を隠しながら全身が痙攣するレベルで震えている。そしてアイリは笑いながら転げまわっている。惨敗して弱いくせに頑張るとか言ったからバカにされているんだろうか。


 「なんだよ!なんで笑うんだ!俺だって頑張るって!」


 ついにメサイアは堪え切れずもう一度吹き出す。馬鹿にされた怒りより純粋に笑うメサイアの顔がとても可愛くどうしてもその表情を見て怒る事なんて出来なくなった。


 ふと目をやると大鏡がこちらを向いている。そこに写っていたのは顔面が2倍くらいに腫れあがった顔の上に大量に落書きをされまくっている化け物がいた。


 コナミだった。


 「俺もっと頑張るから!強くなるから!キリッ!ぶひゃひゃひゃ!その顔で頑張れるのは治療に専念する事くらいデスあひゃひゃひゃひゃ!」


 「ぶふぉ!アイリ……やめて……腹筋がもたな……い!!」


 コナミはこの後3日間は動けずアイリの言葉通り治療に専念した。その間アイリには笑われ続け、今後一生のネタにされ続ける運命を感じた。


 それでもこんな平和な日常に闇の使者は刻一刻と力を付けている。何としてでもシガレットを止めなくてはならない。


 大いなる戦いを心に刻むコナミ。

 しつこく顔面に落書きをし続けるアイリ。

 それを見て吹き出し続けるメサイア。

 このダメそうなパーティにコナミの心は既に折れかけてた。

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