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25. 世界最悪の神様

 欠伸(あくび)をしながら話すそいつは衝撃的な事を告げた。今回の件の首謀者?犯人?何を言っているのかさっぱり分からなかった。


 「ま、待ってくれ。状況の整理が追いついてないんだ。君は誰でここはどこだ」


 「面倒だな~~~。わたしはアルテウス。生命と秩序を司る神様だよ~~。それでここは私の部屋というか~~。そんな感じ~~~」


 神様と名乗るその女はやっと起き上がった。

 眠いのか目を擦りヨダレも垂らしている。低身長のくせにLLサイズのような服装で女版ニートを見た事はないが実際にいたらこういう感じなのだろうといった様な雰囲気だった。2つに括ったおさげの髪はふわふわと浮いたり沈んだりしている。


 「ぶはは!お前みたいなだらしない神様がいるか!」

 「そ~だよ~。だらしないから魔王の身体と~勇者の魂を~合体させちゃったわけ~」

 「は?」


 ここでコナミの脳内は急激に思考を早める。古い話になるがあれはディバインズオーダーに来たばかりの冒険者ギルドで聞いた話だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「魔王勇者―――!?」


 ガヤガヤとしたギルドの酒場で酔っぱらったシガレットは叫ぶ。

 フィルスは酒を飲みながら話を続けた。


 「そうだ。今の魔王ってのは人間の勇者の姿をした魔王らしい。どうやら随分昔に魔王パーシヴァルを討伐に出かけた当時世界最強と言われていた勇者エンメイは激闘の末相打ちとなってしまうんだ。そしたらなんと魔王の魂と勇者の肉体が合体しちまったらしいんだ!どうだ面白いだろ!」


 「なんだよそのくっだらねぇ設定。今時アニメでもそんな事しねぇよ」


 ゲラゲラと笑うシガレットは酒をぐいっと飲み干した。


 「アニメ?でもま、それはそうと俺たちが戦う事になる魔王ってのはその魔王勇者パーシヴァルらしいぞ。何せ更には巧妙に人間の肩入れなんかして騙してくるって言うからな。知性もあって力もあって恐ろしい野郎だぜ」


 「それってもしかしてよ、魔王の力も勇者の力も両方使えるってのか?チートじゃねぇか!」


 「……そんなの……どうやって倒す……の」


 酔っぱらって机に伏せていたメサイアはのろのろと起き上がった。

 正しくその通りで本当ならば世界最強の勇者と世界最強の魔王が合体した化物を倒す術はない。


 だが何故だろう。この沸き上がる思いは気持ちは。VRだって言うのに心がざわついている。ワクワクって気持ちはいつの日か分からない場所に置き去りにしてきたからこれがそうなのだろうか。


 「とにかく強くなるしかないってわけだ。打倒魔王勇者!!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 古い話をふと思い出したせいか寂しさもありセンチメンタルな気持ちになった。

 だがそれよりも魔王勇者パーシヴァルを作ったのがこの小娘ことアルテウスだっていうのか。


 「何か~思い出した~?君が倒してくれた~魔王勇者パーシヴァルは相打ちになった日にわたしが魂を入れ替えちゃったんだよ~。まさか~~~魂と肉体が綺麗に分離するなんて~思ってなかったし~~~。都合イイ所にイイ魂と~肉体があるな~~くらいの気持ちで~~くっつけちゃった~キャハ!」


 頭をコツンと叩いて下を出すアルテウスに見ていてイライラしていた。イチイチ言葉を伸ばすせいか癇に障る。だが一旦落ち着く為にコナミは大きく深呼吸をした。


 「それで平行世界の俺がVR機を使って操り人形にしたシガレットはで戦ったってのか」

 「正確にはちょっと違うけど~~。ま~~だいたいそんな感じ~すや~」


 伸びをして花畑の中眠りにつこうとするアルテウスをコナミは怒りの限界を感じつい胸ぐらを掴んでしまった。ハーベストはここまで知っていたんだろうか。それならシガレットを救いたいという気持ちは頷けるというものだ。


 だが救って復活してしまった場合、シガレットは当然ながらもう一度世界に対して復讐するだろう。イヴやメサイア、世界中みんなの命が危ないからそれだけは出来ない。


 「なに~~?こわ~~いキャハキャハ!」


 そんな事態を作った張本人であるアルテウスはこの態度だ。英雄の能力を使ってこいつを殺してやりたいという気持ちすら思えてくる程だ。


 その瞬間だった。

 顔は花畑に沈められ大きな手が後頭部を握り締めている。アルテウスは隣で笑っている。


 「誰……だ」


 「今すぐ死にたいか、それとも苦しんで死にたいか選べや餓鬼。神様なめてんじゃねェぞ」


 「ダメだよ~デストレイズ~~。その子はもうディバインズオーダーに干渉しちゃったから~~。私たちが裁いていい対象ではなくなっちゃったよ~~~秩序は守らないとね~~」


 「アルテウスの言うとおりだ。離してやれデストレイズ」


 チッと舌打ちをして手を離したそいつは黒いコートを着た白髪ロンゲの大男だった。身長は2mは余裕で超えている。大きな鎌を背負っていて刃が禍々しく空気が揺らいでいる。


 もう一人の声の主は青白い髪が透けて見える程透明度が高く、天の使いかという様な格好で羽衣から大きな胸が零れそうな絶世の美女という者だった。


 「失礼したねコナミくん。私は次元と空間を司る神ウラノス、この大男は創造と破壊を司る神デストレイズ。説明されたか分からないがこの子は生命と秩序を司る神アルテウスだ。他に3人神様がいるけど皆が皆癖が強くてね」


 「チッ!こんな貧相な餓鬼によぉ、頼っちまった俺たちが最高に馬鹿ってェだぜ」


 「そういうなデストレイズ。コナミくんは実質本件の被害者なんだ」


 「待て待て。もしかしてまさかお前らが起こしたこの事件を解決する為に選んだのが、俺って事なのか」


 ウラノスはニッコリと笑い頷いた。デストレイズやアルテウスもニヤニヤと笑っている。


 「なんなんだお前ら、人の人生をなんだと思ってやがるんだ……狂ってるよ。だいたいなんで俺なんだよ。他にもいっぱいいただろ。俺みたいな何も得意もないような奴が選ばれたってんだ」


 「私は平行世界である君の世界へ行って探したんだがそもそも下界については別の神様が管理している分けだしどうでも良かったんだ。たまたま降りて直ぐに見つけた暇そうで人生に意味を持たないようでありながら、それでいて若い人間がいたので選出しただけだよ。それが君だったって、本当にそれだけなんだ。許してもらえるかな」


 「どうして許してもらえると思ってるんだ。お前には人の心ってのはないのかよ」


 「あるわけねェだろぉがよォ!テメェら人間と一緒にするんじゃァねェ!」


 デストレイズはコナミの首元を掴んで軽々と持ち上げる。手が大きすぎるせいか人差し指と中指しか首にかかっていない程だ。


 「やめろデストレイズ。代わりと言っては難だが、噓偽りの無い全ての真実を君に話そう」


 コナミはついに真実の扉を叩く。

 だがそれは想像を遥かに超えるこの世界全てを賭けた戦いの始まりを意味していた。



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