21. 不意打ち
城内は大きく分けて5つのフロアで構成されている。
王室。2階中央のリン王女と親衛隊2名がいる部屋だ。恐らく最も警備が強い部屋だろう。
客間。1階東のフロアはコナミとアイリの宿泊場所。見に行く必要はあるが優先順位は低い。
キッチン。1階西のフロアはリゾットがいた場所とハーベストの遺体があった場所。
メインホール。1階中央のフロアは中央から分岐した2つの階段が伸びて2階の王室へと繋がっている。
魔法図書室。地下にある先程いた場所でありメサイアがいるから心配いらない。
他にも細かな部屋はあるが、倉庫や武器庫、使用人の部屋等で構成されている為恐らく見回る必要はない。仮に王室を狙うのであればメインホールが危険かもしれない。
「とりあえずキッチンに行くべきデス!」
考えをよそに小さなお口にヨダレが見えるアイリはハキハキと話した。
単純にお腹が空いてきたからご飯にありつきたいだけだろう。だがリゾットの様子も気になるから見に行くべきだと判断したコナミはそのままキッチンへと足を向けた。
「ふふ~~んふんふんふん」
鼻歌を歌いながらリズムに乗ってリゾットは指先を器用に動かしながら調理器具を操っている。ほのかに海鮮も含めたようなイイ香りが辺りを包んでいた。これにはアイリは心を奪われるようにデレデレになっている。
「やや!コナミ~~!魔法の練習は~その様子だとまだしてない~、かな?んん~~?またお腹の空いた可愛い子がいるんだよ!何がいいかな~何がいいかな~~~」
こちらに気付いたリゾットは慌ただしく今調理中の食事を取り繕ってくれた。それはまるで海鮮のあんかけ天津飯といった所だろうか。【シュリンプの深海卵】がいい味を出して綺麗な黄金色を出している。
「ふわわわ……食べちゃってもいいデスか?」
「ひひ!どーぞ召し上がって欲しいんだよ!どうかな~どうかな~」
スプーンで掬って口に入れるとアイリはもう目がハートになっているのではないかと言わんばかりに幸せそうな顔をした。それを見てリゾットも誇らしげに腰に手を当ててドヤ顔を見せる。
「こいつはアイリ。俺の仲間なんだ」
「よよ!アイリちん!私リゾット!よろしくなんだよ!」
アイリは口をもごもごしながら一礼だけしてバクバクと手を止める事無く食べ続けている。なんて貪欲な奴なのだろうか。
「ところでリゾット、この部屋に誰か来たりしなかったか?兵士、とか」
「むむ~?さっき言ってたハーベストとかいう人の事かな?兵士の事は私よくわからないけどここには誰も来てないかな~。キッチンの中に入ってきたのは間違いなくコナミたち2人だけなんだよ!このキッチンにはメサイアとは別の結界が張り巡らせていて入ってきたらすぐわかるんだよ!」
1度目は音で気付いたが、今回はキッチンに入った瞬間気付かれた。結界を張れる程の魔法使いとなるとリゾットも恐らく一流の腕を持っているに違いない。ここは心配いらなさそうだとコナミは判断した。
「ありがとうリゾット。誰か兵士が来たら気を付けるんだぞ」
「ありがとうデス。美味しいご飯を頂いて生き返ったデスよ。また来るデス」
「よよ!コナミもアイリちんもいつでも来るだよ!兵士の件はよくわかんないけどわかったかな~!ふふ~んふんふん」
そう言うとまた歌い出して指先で魔法を使い出した。リゾットは恐らく白。それにキッチンは結界もあれば問題ないだろう。先程まで満足気だったアイリは仕事モードのようにキリッとした表情を切り替えて廊下を見回している。
「急に真面目な顔してどうしたんだ?」
「わかった事があるんデスよ」
得意げにチッチッチッと人差し指を横に振りながらアイリは話す。
「この魔法都市で魔法をわざわざ使ってなくて不便に歩いて動いている人なんてハーベストか魔法が使えないコナミさんくらいデス。ということは足跡は2人分しかついていない事になるって事デスよ」
いつも通り嫌味を含んだ言い回しでアイリは話したが、かなり的を得ている。
ハーベストと会って連れて行かれそうになった際、キッチンから客間へ抜けていくメインホールの途中でアイリがやってきた。そしてそのままコナミとアイリはキッチン方向へ、そしてハーベストは客間の方向へ去って行った。
つまり客間へ向いた足跡を探ればハーベストの位置へと辿り着く。
「アイリやるじゃないか!いつの間にそんなお利口さんになったんだ?」
「馬鹿にしないで欲しいのデスよ、馬鹿コナミさん。さ、行くデスよ!」
絨毯で造られた床は薄らではあったが、確かに客間へ向かう靴の形をした足跡が残っている。それを確認すると二人は頷いて行き先を慎重にアイリとコナミは進んでいった。ハーベストの歩幅は変わりなく歩いているようだった。
この先へ行けばハーベストとまた出会う。よくよく考えてみればハーベストと会ってからの事を考えていなかった。いきなり斬りかかっていいのだろうか、闇の使者かどうか尋ねるべきだろうか、目的を聞いてからのがいいのだろうか。そう考えれば考える程コナミの心臓の鼓動が緊張のせいか大きくなる。
慎重に、それでも確実にその足跡を辿って行った。
そして足跡の終点へ辿り着く。
客間。
それも足跡からしてハーベストは客間の中へ入っている。
扉の前で2人は緊張感が限界まで高まった。全身から鳥肌を立つ。
コナミを連れて行かなかったのにどうして客間へ入る必要があったのか不明すぎる。二人は息を荒げながらドアを半開きにして中を覗いた、が変わった所はなかった。
「びびびびっくりしたデスよ。そそそんな怖がって開けるからワタシもちょっぴり怖がってしまったじゃないデスか」
強気にドアを開けて部屋の中へ入ったアイリはドヤ顔をしている。怖がってはいるがアイリなり勇気づけようとしてくれているのだろう。
「おま、危ないぞ。開けた瞬間襲い掛かってくるとか無くて一番ホッとしてるよ」
胸を撫でおろしたコナミはまずは客間へ入った理由、そして部屋で何をしていたのかを知る必要があった。コナミはそれでも恐れながら客間へ入ろうとした。
バタン。
「―――――え?」
その瞬間突然扉は勢いよく閉まった。
「アイリ!!!!!」
コナミは急いで扉を開けようとするがビクともしない。鍵がかかっているとかいう話ではない。ドアノブが全く動く気配がない。
「うわああああああああああああ」
勢い余ってそのまま剣を振るうがまるで木の扉は鋼で出来ているかの硬度を持った扉へと変化していた。剣の振動が腕に伝って手が震えてしまう。
「アイリ!!聞こえるか!!!返事だけでもしてくれ!!!」
全く返事もないアイリにコナミは動揺を隠し切れなかった。
どうすればいい!
どうすればいい!
どうすればいいんだ!!!
間違いなくハーベストから攻撃を受けている。1秒でも遅れたらアイリの命が危ない。
その時頭に思い浮かんだのはメサイアの顔だった。頼るべき人はもうメサイアしかいない。藁をも掴む勢いでコナミは魔法図書室へ走り出していた。
「一体なんなんだ畜生。何が起こってるんだ」
コナミは急いでメサイアの元へ走った。地下への階段を駆け下りて真っ直ぐ魔法図書室へ。そして扉を壊す勢いで魔法図書室へ入る。
「メサイア助けてくれ!アイリがハーベストの攻撃で客間に閉じ込められたんだ!」
「そりゃ大変だなコナミ。手を貸してやろうか?」
魔法図書室中央のテーブル。椅子に座って本を読む人間。
そいつはゆっくりと立ち上がる。
「どうしてお前が、ここに……」
ハーベストはニッコリと笑う。




