48. 争いの無い世界
ライボルグにとっての騎士とはただの職業であり、ただの仕事であり、上に立つ者としての権力を振りかざすには良い道具としてしか認識していなかった。生まれはただの一般人として生まれ育ったが父が一般兵だった為、騎士の権力の強さに惹かれているわけではないが父の様になりたくはないと思っていた。
そんなライボルグにとって唯一戦友と呼べるのがロキ・ステルスヴァインだけだった。彼は貴族のみが持つ事を許される苗字を持ちながらその力を誇示し続けてきた。それでも戦友と呼ぶ程の任務に就いた事もなく、ただロキの隣にいる事で自らの地位が上がり貴族になった気分でいた事も正直な気持ちである。
彼にとって初めての戦争。本当に短い時間ではあったが背中を預けられる仲間が幾数人。共に同じ道を目指し、共に命を賭け、共にここまで来た。初めて上下関係の無い友として見ようとしていたのだった。
「アルビオ……」
ライボルグは胸に拳を当てて黙禱をした。自身が戦い圧倒的な力を前に身を守る事で精一杯だったスクラをあそこまで疲弊させ追い込んだ。その事に対してアルビオに対してライボルグは心から尊敬出来たのだった。
「貴様がスクラ様を殺した侵入者だな!」
「我らタング兵が相手だ!始末して首を晒してくれる!」
黙祷しているライボルグの周囲に続々と集まるタング兵に呆れたライボルグは自身の周囲に展開したアブソリュートでタング兵を一掃した。その時に感じたタング兵の魂がどこにもなくただの植物の様な存在となっている事に気付いた。
「ふん、こんな穢れた魂を僕様は喰わない。どこまでも人の魂を弄ぶ馬鹿共め、お前たちの魂をぐちゃぐちゃに食い潰してやる」
遅くはなったがライボルグの中に騎士としての誇りが芽生えている事に気付いたのは今回が初めてだった。
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ククリは急いで破城都市バルベルドにある大きな城を目指すがその道中にある巨大な工場群が行く手を阻んでいた。ここへ来て既に10分近く経過しているがルメイヤのいる大きな城内部から戦闘の様子は見られない。
「間に合ってくれよ……!!」
周囲にいる兵士たちを次々に乗り越える様にして進んで行くが全ての建物が入り組んだ形をしていてどういうルートを進めばいいか分からなくなったククリは一度建物の上に上がる事にした。
路地裏から壁と壁を蹴り上げながら建物の上へと進み屋上へ登るとそこはもう現実とは思えない場所となっていた。
「んだよ、これ……」
大量の工場から黒い煙がどんどんと昇り大きな荷物を運ぶドローンが大量に飛んでいた。そのドローンが運ぶ鉄柵で出来た荷物中に入っているのは全て魔物であり城の中へと消えて行った。
「あれ全部アダムが人間を魔物に変えた……ってのか。一体どんだけいるんだよ……」
「そうですわ。私達バレンタイン家は1に戻された時間を0へと返し、運命を変える為に動いていますの」
背後に立っていたのはメルルヘス・バレンタインだった。戦う姿勢は全くなく優雅に紅茶を飲んでいた。
「どういう事だ。テメェらの目的は一体なんだ!!」
鼻で笑いながら紅茶の入ったティーカップを皿に乗せたメルルは髪の毛を掻き揚げて余裕そうな表情を見せる。どうやら前回戦った時はアイリお婆ちゃんの予想外な事態で苦戦を強いられたが、ククリだけと知ったメルルにとって敵ではないという認知なのだろうか。
「貴方様のお爺様が全ての元凶ですわ。私達は死んだメサイアの遺体から記憶を抽出して過去の全てを知った。かつて人間と魔物で冷戦を続けてきた世界こそが真の平和的な秩序が保たれた世界であると。だから魔物を作り郁々は野に放ち世界を取り戻さんとする計画に出ました。でもかつての魔王は人間と魔物の融合体って知った私達はそれを作る工程を進めているのですわ」
「………ッ!?」
コナミが運命を変えた戦い、そしてアルテウスを封印し魔物を消し去った事で生まれた人間同士の戦争。どちらが正しい運命を辿っているのかなんて分からない。だから魔絶の書がこの世に存在している。それを遺体から情報を得るなど人徳に反している。
「人と人とがぶつかり合うのは言葉で分かり合えなかったせいだ。言い争いになり喧嘩になって、それでも最後に分かり合えるのは言葉だ。もうお終いにしよう。こんな意味のない戦争を続けているよりみんなで平和になった方がいいに決まってる!!」
「分かってないですわね。禁魔目録のシリーズと同様に人間には七つの大罪が存在します。憤怒、強欲、色欲、暴食、怠惰、傲慢、嫉妬。どれもが戦争を紐付ける火種となって存在しています。これは他の動物にはあれど限りなく少ないもの。人間同士が分かり合う世界を結ぶにはどうすればいいと思うかしら?」
メルルは静かに笑ってこちらを見た。危険を察知したククリはラースを発動させて支配の種子を侵入させない様にした。
「それは目的。かつては魔王の討伐及び魔物被害に対するギルドとしての運動。そのギルドを支える為に多くの魔法や武器が生産されてきました。そのどれもが人間同士で扱われる事は滅多にありません。更にはシガレットという魔王の子が復活する可能性があった頃はより結束力が強く育まれていました。それも今は見るに堪えず国家間だの権力だのとくだらないもの。こんな世界はもう一度ゼロへ戻すのが一番だとあなたも思わないかしら?」
「あの頃だって大勢の人間が魔物によって殺されていただろう。人間同士が争ってないだけで世界は平和なんかじゃない!怯え苦しみもがいた先に武器を持って魔物と対立していただけだ!今と何も変わらないじゃないか!」
「うふふ、まだまだお子様ですわね。さっき貴方様が言いましたわよね、分かり合えるのが言葉だと。分かり合えない今の私達は一体どうすればいいと思いますか?答えは単純明白だけど」
ふっと消えたメルルは既に背後へと回っていた。以前の様な余裕さや能力による誇示は一切なくバレンタイン家としての剣のみで戦うつもりなのだろう。
これ程までに本気なメルルを相手にククリは落ち着いた様子で剣を抜いて背後に回っていたメルルの剣を受け止めた。メルルは連撃を放つもククリは全て受け流し剣先は皮膚1枚を掠め取る事は出来なかった。
「……この短期間で貴方様は、一体!?」
「一気にケリを付ける。探り合いは無しだ。ラース、今こそお前の憤怒を見せる時だ。この世界の運命、全てに決着を付けてやる」
【『行くぞ相棒』】
心の奥底から声が聞こえる。メサイアの怒りの炎は天高く舞い上がり、工場から昇る黒煙など容易く掻き消してしまった。
「雷光抜刀撃!!!!」
メルルにぶつける全身全霊を込めた雷光抜刀撃が放たれこの戦争における最も負けられない戦いが始まった。




