20. 死の覚悟
「おめぇさん顔色悪いぞ?一体どうしたんだ?コナミ」
バレてはいけない。バレたら殺される。
もし今殺された場合、成り代わってメサイアもみんなみんな殺される。
脳裏に過るその言葉にコナミもニッコリと笑顔を見せた。
「ハーベスト!昨日はありがとう。おかげでスッカリ元気。ほら、ピンピンだぜピンピン」
上手くやれているだろうか。笑顔は引き攣ってないだろうか。汗ひとつかけないこの状況でコナミは必死に演技をした。
しかしハーベストはこちらをじっと見つめている。こういった状況に慣れていないコナミにとっては緊張のあまり身体が自然と強張ってしまう。
死への恐怖のあまりか、ハーベストの目があまりにもおぞましく感じたコナミは反射的に目を逸らしてしまった。
「嘘だな」
バレた―――――――!?
手が震える。目は右往左往と動き回る。思考は止まる。そして、死を、悟る。
ハーベストはコナミの肩をガッシリと掴んだ。死を悟ってしまった影響からかそのまま声が出てしまう。
「あ………」
「そらみろ、無理するな。おめぇさん、まだ全然よくなっちゃいねぇ」
ハーベストはニッコリと笑顔で手を取って立ち上がらせてくれた。
「昨日の今日で元気なフリしてそんな風に装うのは身体に毒だぜ。ちゃんと食ってちゃんと寝る!それが元気の秘訣ってもんだ。じゃねぇと強くなんねぇぞ?だから客間に戻れ、な?一緒に行ってやっから」
「いや、一人で行ける……から」
「そう言うなって。早く行こうぜ」
今はハーベストから離れたかったが力強く手を引っ張られたコナミはそのまま着いて行く事になった。この後殺される危険性もある。だが振りほどけばそれでも殺される危険性もある。
もうどうしようもなかった。
「あ、いた!!!コナミさん!!どこに行ってたんデスか!!」
諦めかけていたその先に光はあった。目の前には腕を組んだアイリ、そしてハーベストとアイリは目が合うがハーベストはニッコリと笑顔を見せた。アイリはズンズンとこちらに向かってくる。
「ワタシはお腹ペコペコでいい匂いに釣られてやってきたわけじゃないデスが、やっぱりコナミさんは釣られてやってきたわけデスね。抜け駆けは駄目デスよ。一緒に来てちょっと分けてもらうデス」
クスッと笑ったハーベストは「またな」と言いポンと肩を叩いてそのまま立ち去って行った。
後を追う事で動向を知る事もできる。しかし何かしらあと一歩間違えれば殺されていた。そもそもアイリがいなければどうなっていたのかわからない。そう思ったコナミは後を追う事ができるはずもなかった。
「なんなんだ、あの化け物は………あまりにも平常過ぎる……。確実に疑われてたに違いないのに、それを全く意に介していないような平常。怖い……怖い怖い怖い……」
コナミはそのまま崩れ落ちてしまった。死への恐怖を人一倍植え付けられているコナミにとって簡単に足を崩すまでに時間はかからなかった。アイリは情けない姿のコナミに手を差し伸べた。
「何か、あったんデスね」
「はは、お前は本当に頼りになるな。全部話すよ」
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魔法図書室へ到着したコナミとアイリは中央の席でメサイアと合流し、先程のハーベストの死、そしてハーベストに会った出来事全てを話した。
「なる……ほど。つまりハーベストは今城内に……潜伏していて、この3人は恐らく"白"だと……そして疑われている可能性があるから……誰かが死ぬ危険性がある……と」
メサイアはいつもの魔女風な黒いローブに着替えていた。ボサボサの髪も丁寧にふんわりと下ろされている。恐らく客人が来たからリン王女に指示されたか、強制的にやられたかだろう。
頭を巡らせているのだろうか、メサイアは軽く親指を噛んでいる。
「話からするにハーベストは城内にもう1週間以上はいる事になるデスね。でも未だにハーベスト本体のままで動きもないとすると一体何を目的としているのかわからないデス。王女が狙いというわけではないのも気味が悪いデスね」
もしリン王女を狙っているのならもう殺されていても不思議ではない。だが、城内に進入するのが目的としてその後リン王女を狙っていないとすれば一体何をしているのか。そもそも奴は一体何者なのかすらもわからない。
特殊な能力、読めない思考、不気味な存在感。
それを考えた時頭に過ったのはウロボロスだった。
「闇の……使者、とか?」
その言葉にガタッと立ち上がったメサイアは大きく動転した。
「なるほど……!ハーベストが闇の使者なら……全て納得が行く……。奴の狙いは私……。私を殺す事を目的としている……。シガレット復活を考えたら……姫を狙うより……私を消したいはずだから……。だけどまだ能力が全て戻ってないとして……正面からの戦いを避けているなら……誰かに成り代わる必要があった……が、それができなかった……」
「つまり、不意打ちを狙っている!」
コクリとメサイアは頷く。
メサイアは両手を広げると机の上に光の線と点が浮かんできた。それは魔法都市プライベリウム城内全体の地図であり、入り組んだ地図の中で点が動いている。
「これは城内の地図で魔法結界でマナの干渉を受けている人は……全て位置がわかってる……。点はマナ干渉を受けている人……。ただコナミのようにマナ干渉を受けずに浮いてない人は……私の結界に干渉されてないから……わからない……」
「ハーベストは床を歩いて行動してた、って事は魔力干渉を受けてない。それってリン王女が危ないんじゃないか?」
するとアイリは地図のリン王女のあたりを指さした。
「大丈夫デスよ。ほら、リン王女の隣には2名の親衛隊が付いています。それよりもワタシやコナミさんがメサイアさんと関わりがあるとバレた時点で狙われる可能性のがよっぽど高いデス」
「だけどそれなら昨日やさっきの時点で俺が殺されてもおかしくないんじゃないか?」
「そこがわからないんデスよね。ワタシやコナミさんが成り代わりされていたなら余所者の侵入者で処理されるのがオチなんデスが……」
色々答えが見つからないまま全員は頭を抱えていた。どのようにすればいいのかもわからないが、やるべき事というのはすぐに見えてきた。
「理由はどうあれ、今すぐハーベストを叩くってのはダメなのか?今ならまだハーベストの姿のままだし倒すにはもってこいじゃないか」
「それが……場所が掴めないから……どこにいるのか……」
「ならメサイアさんはリン王女の安否確認の為の監視、ワタシとコナミさんで城内を歩いて調べるっていうのはどうデス?コナミさんの場所が掴めなくてもワタシの場所はわかると思うのデスよ。何かあればワタシたちで騒ぎを起こすので来てほしいデス」
完全にメサイア頼みになっているがこれならなんとかハーベストを捕らえる事が出来るだろう。メサイアは納得した後その場に残して、アイリとコナミは魔法図書室を後にした。
「アイリの案、凄い良かったよ。それに俺はアイリがいてくれて安心してるんだ。メサイアにも見つけてもらえないから死んでも分からないし。ってアイリ?」
アイリは静かに俯いて小さな身体を震わせている。コナミは心配になって両肩に手を置いた。
「あ………ッ。ごめんなさいデス。なんか闇の使者が目的で今まで旅してきましたのでいざ目の前に現れるとなると急に緊張しちゃってデスね。柄じゃないデスよね」
笑ってごまかしているがその小さな肩には重すぎる父親の仇を背負っている。その気持ちに少しでも頼りになるべくコナミは親指を立てた。
「お前は俺が守ってやる」
キザが過ぎただろうかと事後ではあるが恥ずかしくなってきた。馬鹿にされるのではないかと恐る恐るアイリの顔を見てみると涙目のままニッコリと笑顔を見せた。
「頼りにしてるデスよ」
「ああ。必ず闇の使者を倒そう」
死だって今は怖くない。アイリを守ってみせる。
男・コナミ。覚悟を決めた。




