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47. アルビオ


 アルビオはハッキリと自覚していた。このまま戦えば勝ち目がない事に。


 先程の一撃が頭部に命中していれば確実に殺されていた。なのにも関わらず自らが最も信用していた腕が見るも無残に潰されたのだからガードすら不可能だ。


 つまり今のアルビオに出来る事はただ一つ。ククリがアダムを殺すまでの時間稼ぎだけだった。


 「さあ来いスクラ・バレンタイン!我はアルビオ。この身この力でお前をこの先へは行かせない!!」


 「何言ってんだ?バーカ!アダムの兄貴が作ったこの聖典目録の力以上に強いなんて有り得ないんだよ!!」


 ハンマーを避け続ければいいという考えは浅はかだった。スクラは更に能力を底上げしハンマーを片手持ちに切り替えた。


 「そら!行くぜおっさん!!」


 スクラは身体を回転させながらハンマーを打ち込むもやはり両手の破壊力よりは落ちていた。だがスクラが片手でハンマーを手にしているのには理由があった。


 ドゴォ!!!


 蹴り技だ。回転しながらハンマーを叩き付けると同時に蹴り技も追加された。更に回転数を上げながらハンマーを手にしていない拳での殴打、蹴り、そして恐るべき力を持ったハンマー。


 「うぐあああああ!!」


 一撃一撃が身体の芯から痛みを伴っていく。肉体を復活出来る身体に対してこの鈍痛はアルビオの体力を奪うには十分過ぎた。スクラ・バレンタイン、想像以上に場数を踏んだ戦士だった。


 「ならば全身全霊をもってお前に応えよう!!"豪鬼"!!」


 肉体にある魔物としての記憶を呼び覚まし、人間性を失う代わりに戦闘力を底上げする能力。身体は闘争を求めその相手は今まさに目の前にいる。


 『ゴアアアアアアアア!!!』

 「うおおおおおおおおお!!」


 スクラも突然現れた魔物に油断したのか一瞬の隙が出来た。アルビオはスクラの顔を握り潰す勢いで掴み掛り地面へと叩き付けた。地面は大きな亀裂を走らせて建物を次々と破壊していく。


 「ははははは!!痛いじゃないかよぉ!!こっちも全開だあああ!!」


 アルビオの腹を蹴られた一撃は肋骨をバキバキに砕いて身体は宙に浮き吹き飛んで行く。だがそれでもアルビオはスクラの顔面を掴んだ手を放す事は無かった。


 『フンガアアア!!!!』


 スクラを地面に叩き付けた後、振り上げた槌をスクラの胴体に振り下ろした。確実に当たっているにも関わらずその目は闘志に満ち満ちた目をしている。


 「がぼっ」


 スクラが多量の血を吐き出す様を見るにダメージは入っていた。だがその時アルビオが見たものは明らかに人知を凌駕していたのだった。


 「最終奥義・武神剛殺弾」


 音速を超えた時に発生する衝撃波。それが目の前に広がりソニックブームとなり大きな破裂音を生む。そして腹部の風通しが良くなったかと思いきや、生温かで鉄にも似た味をした液体が口いっぱいに溜まっていく。


 「お終いだよおっさん。この奥義は音速を超えたその先に辿り着く。これをまともに食らって立ってた奴はいない。あたしに最終奥義を出させた事、誇りに思うがいい」


 アルビオの腹は貫通したというより破裂していた。皮で繋がっただけの上半身は重力に耐え切れず沈む様に落ちていく。アルビオは深い深い自らの意志という名の湖に落ちて行った。


 『これで終わるのか?我は友に任せろと伝えたのにこれで終わるのか?魔物と生まれアダムに人間と融合させられた。戦争の道具として生まれた我であったが後悔の無い道を行く為に王都へ亡命したのではないのか?我が後悔の無い生き方、それは———』


 崩れゆく身体でスクラの身体を抱擁する様に抱き締めた。その力に全身全霊を込めて動かなくさせる。


 「おいおい、そんな見っともない事までしてあたしをさっきの小僧の所に行かせたくないのか?そうしている間にもあたしの体力は徐々に戻りお前を振り解いて小僧を殺しに向かうぞ?」


 『……我は……仲間を信じている。頼もしい仲間だ……』


 「だから!!その仲間を殺しに行くって言ってんだよ!振り解け!このっ!!」


 スクラの怪力による力で足蹴にされても半身となったアルビオは全く振り解こうとしなかった。アルビオは全力を込めて捕まえているつもりだが感覚が全く無く掴んでいるのかさえ分からなかった。


 『お前の……体力ではもう逃げられん……諦めろ……』


 「だからぁぁぁああ!!このまま体力を回復させて殺しに行くって言ってんだ!!お前の仲間を全て殺しになぁ!!」


 「馬鹿なのかな?」


 直ぐ近くにライボルグが来ている事にアルビオは分かっていた。だから今の体力まで削ったスクラを絶対に逃がさない為に捕まえていたのだった。


 「スクラ・バレンタイン。お前は本物の馬鹿だ。信じた仲間が僕様を信じてお前に諦めろと言っているのに僕様を殺せる道理がどこにある」


 「ライ……ボルグ。すまない、後は……頼んだ」


 「どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。僕様が信じてあげたというのに、ここに来てまだ5分も経たずに死ぬ奴があるか。本当に……馬鹿なのかな」


 ライボルグは手を前に出すが顔は背けていた。あれだけ口の悪いライボルグが自分の為に死を悔やんでくれている事に嬉しくなった。


 「我の人生に一片の悔いもなし!!!楽しかったぞ!!はははははは!!」


 「やめろおおおおおおおおおお!!!」


 「アブソリュート」


 放たれたアブソリュートはアルビオとスクラ諸共飲み込み消し去ってしまった。ライボルグの新たに手にした力である【無限の暴食】の能力によって二人の魂はライボルグの糧となった。


 「アルビオ、馬鹿は僕様の方だ。遅くなってすまなかった。ゆっくり眠ってくれ友よ」


 悔やんでも悔やんでも仲間の命の重さはどれ程も重い。ライボルグはこの戦争を終わらせる為に次の敵を探しに走って行く。


 鬼の魔物と人間の融合体であり正義感の強い腕っぷし自慢の男アルビオ、そして聖典目録【戦争】の所有者スクラ・バレンタイン、共に死亡。

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