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44. 鬼怒愛落


 ラースの憤怒は世界を燃やし尽くす。


 これは元々メサイアの怒りそのものを体現した存在だ。どんな気持ちで禁書目録を作成したのだろうか。誰に向けてこの怒りの炎を燃やし続けたのだろうか。


 『「ずあああああああああああ!!!!」』


 剣と剣がぶつかり合うたびに赤と黒の炎が燃え広がりこの場所は既に誰も近付けない危険地帯と化していた。怒りに任せて剣を振るうラースの姿は非常に醜く、怒りと悲しみ、そして深い絶望が心の奥底へと流れ込んでくる感覚があった。


 「教えてくれ!ラースはそこまでの怒りをどこから生み出したんだ!メサイアの怒りって何なんだ!」


 『この世界は救済されない。だから全てを終わらせる必要があるのだ!!この怒りの炎によってな!!』


 「質問の答えになってねぇんだよ!!」


 ガギィン!!


 なんとかラースを跳ね飛ばすが魂の消耗が想像以上に早い。今の状態はただの【ラース】を発動させたわけではなく全身にくまなく力の炎を纏わせている。


 すると周囲に浮いていた黒い炎が大きくなっているのが見えた。つまりこれは殺意を空中に浮く黒い炎に集められて今も正気を保てている状態なのだ。いずれこの炎が全て自分に戻って来た時の反動は凄まじい事になるだろう。そう考えただけでもゾッとする。


 『オマエは生命と秩序を司る神・アルテウスを知らないからそう惚けていられるのだ。あれこそが世界の蛆でありながら、あれこそが戦争における蓋となっていた。ウラノスは自分の能力に驕りを見せて多次元を見渡す中でこの世界をコナミに任せ過ぎた。そのツケがこの怒りなのだ』


 「アルテウス……」


——————————————————————


 「ああ、分かってるよウラノス。魔絶の書は最終手段だ。今はギリギリ安定してるがアルテウスの復活だけは阻止してみせるよ」


——————————————————————


 確かコナミの爺さんがそんな名前を口にしていた。復活を阻止という事は魔王にも近しい恐ろしい存在なのだろうか。


 「アルテウスってなんなんだ」


 『世界の均衡を正しく統制していた神だ。だがそれは幼きアルテウスにとって正しい世界であり世界は崩れ去った。それをコナミとウラノスが解決したが結局新しきこの世界でも新たなアルテウスは生まれた。戦争が起きる以上必ずアルテウスは現れて世界の均衡を正そうとする。コナミはアルテウスを封印したが戦争は起きてしまった』


 「それならアルテウスを説得すればいいじゃないか!話し合いで解決できる問題じゃないのか!」


 『その為にオマエがいる』


 「え?」


 ラースが言った運命に導かれし子供という言葉が何度も頭の片隅によぎる。何か大きな使命を背負わされている可能性がある。それもコナミの手によって。


 『何も知らぬ愚かな運命に導かれし子よ。オマエが勝てば全てを話してやる。ただし俺が勝てばオマエの身体で世界を滅ぼす』


 「分かった。王都の騎士として決闘してや—————ッ!?!?」


 次の瞬間ラースは既に襲い掛かってきていた。たった一度の瞬きの瞬間だった。既にラースの剣は側面から抜刀する様に向かってきている。だというのにククリはまだ構えてすらいない状況だった。


 時間がスローに感じるそんな中でククリの頭は絶望感でいっぱいになっていた。


 どうすればいい。防ぎ切れない。無理だ。何でもいい避けてくれ。こんな瞬殺だなんて有り得ないだろ。あ、もう剣が向かって———。


 ドウッ!!!!


 ククリの周りを回る黒い炎が一気に燃え上がりククリの魂を飲み込んだ。ラースの剣を蹴り飛ばしたククリは左手でラースの首を掴んで叩き伏せた。


 『何が、起きた?』


 「く………クハハ……なんでこんな」


 頭の中が情報でぐちゃぐちゃになる。笑いが込み上げてくるのに寂しく悲しい気持ちになり、もうめちゃくちゃに相手を刺し殺したい気持ちにもなる。黒い血の涙が溢れて感情が支配されていくのを感じる。


 ああ、これが【本当のラース】なんだ。


 「鬼怒愛落(きどあいらく)


 黒い炎が身体を包み纏っていく。燃える黒服に身を包み口元も隠れる黒い炎のマフラーがたなびく。更に心は落ち着きを見せて頭の中がスッキリした気分だった。


 「殺意の黒い炎を溜める事で発動できるこの技こそがコナミの爺さんが禁魔目録の殺意の憤怒を改良して作ったラースなんだな」


 殺意の憤怒を使って魂が削れる事で黒い炎が生まれる。その黒い炎を用いて発動できる鬼怒愛落というこの状態ではマナの使用は出来なかった。つまりこのモードが終わった時には魂が修復するまで恐らくしばらく動く事はできないだろう。


 ラースは腕を振り解き距離を取ってこちらを見ると恐れるよりも怒りの炎が爆発する感情の顔を見せていた。

 

 『凄まじい力だ。くそっくそぉおお!!!!ゴミの分際で!!!オマエの様なゴミに俺の怒りは抑えられるものか!!!』


 「無理だ、諦めろ。俺に近付けばただでは済まないぞ」

  

 『ずあああああああああ!!!!』


 また瞬足の一撃を繰り出そうとするが自動的にククリのマフラーの黒い炎が槍のような形をして襲い掛かった。ラースはその攻撃を受け流すが幾本にもなる槍がラースの動きを完全に止めていた。


 『卑怯だぞ!!こんな、こんなやり方で!!』


 「お前も話し終わる前に突っ込んできたじゃないか」


 ククリはゆっくり歩いて近付いていくが槍の攻撃を受け流すのに必死なラースはこちらに対応が全く出来ていなかった。


 ズッ……。


 静かにラースの腹部に刺した剣が静かに決着を付けた。ラースの身体はククリの身体に戻り膝を付いて息を荒げていた。まるで一番初めと違いこちらが黒いククリになっている。


 『俺が、負けた、だと……!?オマエのようなカスに……!?』


 「いいから話してくれ。俺がなぜ運命に導かれし子供なのか」


 ククリは剣を置いて胡坐をかいて座った。攻撃する意志は無い事を示すとラースは悔しがりながらも息を整えて話す覚悟を決めた。


 『ク、ククク。アルテウスは何度殺したとしても追放したとしても秩序を正す為に現れる自然災害の様な存在だ。アルテウスは強大な力で世界の均衡を保つと同時に世界そのものを変化させる力すら持っている……。だからこそ戦争は無くなり世界は秩序を持った世界へと変わる』


 ククリは何も言わずに頷いて聞いた。


 『だが感情の無い世界こそ戦争無き世界こそが平和だの、魔物に感情を持たせて互いに力を高める事で冷戦状態を作り均衡を保つことが平和だのとアルテウスは述べる。そんな世界を認める事が出来なかったコナミとメサイアはアルテウスを始末するのではなく封印する事にした。生まれて間もないアルテウスの記憶を消去する方法でな、ククク』


 記憶、消去。何か引っかかる単語だ。いや、まさか、でも。そんなわけがあるはずがない。待ってくれ。いや、聞きたくない。

 

 『アルテウスはオマエがパートナーと呼んでいるルナマイアだ。オマエはルナマイアを封印した後の10年近くの記憶をコナミに消去され、ルナマイアと接触した際に必ず好意を持ち命をかけて守る魔法という名の呪いを魂に定着させられた。それがラースの中に存在している』


 衝撃的な事実に耳を疑ったが全て真実なのだろう。封印したアルテウスはルナであり、ルナが死ねばまた新たなアルテウスが生まれるかもしれないからそれを守る為にククリが存在していたのだった。




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