表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/208

38. 再開


 「僕様には君たちに足りないのは何かがハッキリと分かっている」


 会議が終わったあと残った5名はどのように行動すればいいのかを話し合っていた。そんな中ライボルグは全員に発現したが、実際それはその通りである。


 「見えないな。さっさと話せよ」


 「ロキ君ととあろうものがバカなのだけは止めてくれよ?結論、君たちに足りないのは必殺技だ!!」


 ドヤ顔で更にキメポーズをしながら話すライボルグに対して会議室にいる全員は冷めた目で見ていた。

 

 「俺には秘剣・聖光斬があるし、ククリには殺戮の憤怒がある。何が問題なんだ」


 「ロキ君の秘剣・聖光斬はコナミに弱すぎると言われていた。それに見ただろう?剣聖の一撃を。あれと比べると本当に足りない事を実感したんじゃないのかな?ククリの殺戮の憤怒に至っては全然ダメ。能力値自体はあがるが決定打が足りない。つまり二人ともパッとしないんだ」


 何となく言いたい事は分かるがロキから殺気が零れている事にライボルグは早く気付くべきだ。だが事実その通りで殺戮の憤怒の炎を活かしきれては全くいない。その上から火力の上がった雷光抜刀撃を放ったとしても大した一撃にはならないのも事実。


 「確かにあの秘剣・聖光斬は凄まじい一撃だった。ファイアスによる非難が完了していたからといっても王都の1/4を消滅したのだからな。だが各個人でマナルテシスの貯蔵には限界がある。俺は全部振り絞ってもあの一撃は出せないからな。だが———」


 ロキはライボルグの胸倉を掴んだ。遂に殺気が零れている事に気付いたライボルグは冷や汗をかいてロキの目を見る。


 「俺が【不滅の強欲】を手にしてマナ出力を上げる事が出来れば問答無用で秘剣・聖光斬の威力は跳ね上がる。当然ファイアスの狙いはそこだろう。その時俺はお前のアブソリュートをパッとしない技だと罵倒してやるから覚悟しておけ」


 ゴクリと生唾を飲んだライボルグを押しながら手放すとロキは部屋から去って行った。それを追い掛けるように情けない声で謝りながらライボルグも出て行った。


 静まり返った会議室の目の前に居たのは新騎士のアルビオとエリスだった。二人は喧嘩していた様子を黙って見ていた。


 「……っふー!こわっ!マジびびったっすよ!ロキさんこえ〜!マジ顔がいいからって近付いちゃダメっすね」


 「作戦前にこんな調子で大丈夫なのか」


 二人は少し不安そうな顔で扉の方を見ていた。このままでは士気に影響が出ると思ったククリは自ら二人に声をかけた。


 「あいつらはいつもああだよ。俺はククリ。よろしくなエリス、アルビオ」


 両手を出すと二人とも快く握手をしてくれた。そこで気付いたのは明らかに二人ともある程度の修羅場を潜った手をしている事だった。そして人間とは少しだけ肌触りが違う事も感じていた。


 「感謝するククリ。先程は警戒した目をしていたから睨み返してすまなかった。我が名はアルビオ。鬼の魔物との混血種であり人間だった頃の記憶はしっかりある。恐らくスクラ・バレンタインと呼ばれていたあの怪力女とは我が対峙する事になるだろうが任せてくれ」


 「おいすおいす!改めてわっちはエリスっす!妖狐との混血種で人間だった記憶はないっす!やば〜い所からアルビオさんに助けられてここまで来たっす!マジ破城都市バルベルドには戻りたくないっすけど王都にはお世話になったし頑張るっすよ!」


 二人とも気さくな感じで挨拶してくれた。仲間が出来たというより友達が出来た感覚がして今まで友達と呼べる友達が大していなかったククリには嬉しく感じた。そして我ながら情けなくも感じるが仕方ない。


 「さっきは必殺技がどうとか言ってたな。ククリの殺戮の憤怒は基本能力をあげるだけなのか?」


 「いやそれ以外にマナを使いまくる事が出来るのと対象を燃やしたり傷の回復くらいかな。あと魔法は得意だから通常時でも魔導も使う事は可能だし別々の属性を混ぜずに放つ事も出来る」


 「やば〜!めっちゃ強いじゃんククリっち。それでも必殺技はない感じなの?」


 雷光抜刀撃は確かに強力だ。他の剣撃も強い技が揃っていると感じる。だがルメイヤやアイリお婆ちゃん、そしてコナミの爺さんに対してあまりにも無力過ぎた。


 メルルもベルとの戦いも殺戮の憤怒のゴリ押しでしかなく、そこに多少の剣撃や技を加えた所で大きく戦況が変わる事はないだろう。


 「二人はあるのか?」


 「ある」「あるっすよ!じゃなきゃ今も生きてねっす!」


 即答されて少し凹んだククリは、そうか。とだけ言い残して会議室を出た。


 「明日は朝から出発なんで送れないでくださいねー!」


 今は既に日が落ちようとしている時。ここで無理に頑張っても見つけられないだろう。それならとルナのいる王都の医療施設へと足を運んだ。もしかすれば青い炎で治せるかもしれないと考えたからだ。


 病室自体は通常ではこの時間からは面会謝絶となるが騎士である事を話せば簡単に通してくれた。こういう特権を維持するのは大変だが使い道自体は便利であるし使い道がある。


 病室に着いたククリは髪型と衣服のズレだけ鏡で確認して部屋に入ろうとした。身なりを意識した理由はククリには分からなかったがなぜか心臓の鼓動が早くなる。そして開ける勇気がなかなか入らない。あの時直さずアイリお婆ちゃんを優先したから重症なのか、それとも放った事で嫌われたのか、色んな不安要素が頭をよぎってしまう。ククリは顔をぶんぶん振って中へと入った。


 「ル、———」


 ルナはベッドから起き上がっていて沈み行く夕日を眺めていた。怪我は既に無く遠くをいつもの無表情で見ている。それだけなのにククリはどうしようも無く胸がドキドキしていた。この感情は一体何なんだと考えてしまうが自分の中で何となくは分かっていた。それでもこの気持ちを爆発させるわけにはいかないと黙っていた。


 ククリは一度深呼吸してルナに声をかけようとした時だった。扉の背後から剣を向けている何者かの存在に気付く。


 「ゆっくりと部屋の外へ出なさい、騎士ククリ。そしてここには二度と戻ってきてはならないですよ」


 「ファイアス、さん。あんた何を言って」


 剣先で少し突かれてチクリと刺さる痛みがこれ以上はいけないと危険信号を出している。ククリはルナを見送った後、ファイアスを睨んだ。


 「いくら恨まれようが王都を守れればそれでいい。それにこれは君の為に言っている。ルナマイアさんとのパートナーは解消です」


 「この作戦が終わったら必ず聞かせてくれ。約束だ」


 「……分かりまし」


 その瞬間ルナは振り返った。こちらを無表情の顔で向けているがファイアスの顔は冷や汗を頬に流れ出ているのに気付いた。そしてファイアスはククリの肩を掴んで外に追い出そうとした。


 「今すぐに帰れ、ククリ!」


 「ルナ!次の作戦が終わったら必ず会いに行くから!」


 「誰?」


 ルナの声だけが病室に響いた。そしてククリはそれがどういう意味を指している事なのかハッキリと伝わり、ファイアスが何故ククリの入室を止めようとしていたかも伝わった。


 「ごめ……すみませんでした」


 「目覚めてから彼女の記憶は無く、僕は今彼女の記憶を上書きしながら新たな記憶を構築している最中です。このまま能力を発動すればいつか死んでしまう可能性がありますから」


 ファイアスは病室の奥までククリを押して扉を閉めると大きく溜息を付いた。作戦会議に人数補充に王都の再建に民衆の声に、ルナマイアの記憶喪失かつ危険信号まで出ているときてククリの反抗的な態度も見られる。そりゃファイアスは溜息を付きたくなる気持ちもわかる。


 「この王都を守るのが騎士たる役目。それを遵守出来ないとなれば騎士としての役目を剥奪しなければならない。だがそうなればルナマイアさんはどうやって生きていくのでしょうか」


 「だからってこれ以上酷使する必要はない。ルナを解放したなら俺が必ず守ってやるから」


 ガンッ!!


 壁に拳を叩き付けてこちらを睨むファイアスの顔は騎士の目ではなくただの私怨にも近かった。その殺気を込めた目は今にも殺し合いになってもおかしくない。


 「ここからは騎士や役目、立場を全て抜きにして話しましょうか」


 ファイアスは髪の毛を掻き揚げるとその目は隈が酷く腫れ上がり泣き続けた後の様な顔をしていた。その顔はひどく疲れて焦燥しきっていたせいかククリ自身も言葉を出せなかった。


 「僕の生まれは元々魔法都市プライベリウム周辺にある小さな村でした。戦争が始まり魔法都市プライベリウムが襲われている中、行く宛を見失った所をコナミさんに助けて頂きました。そして王都へ流れついたのです」


 ファイアスは窓を開けると心地の良い風が廊下を流れて行った。


 「正直王都がどうなろうとどうでもいい話です。ただ戦争自体が無くなれば僕のような戦争孤児はいなくなると思いました。ただ世界はそう簡単には上手くいかないもので、この都市で大いなる運命の歯車を背負わされています」


 「大いなる運命の歯車……?」


 「そうです。その運命を握る鍵こそが彼女、ルナマイアさんなのです。彼女を生かし続ける為に僕とそしてククリさんが存在しています」

 

 ファイアスはルナの病室の扉を開くとこちらを振り返った。ルナはまだ遠い星空を眺めたまま動かずにいた。


 「これ以上はククリさんもいずれ知る事になると思いますがそれは今じゃない。いずれコナミさんが残した記憶の断片を見る事になるでしょう。ラースを使いこなす事が出来れば、あるいは。では、明日は頑張ってください」


 そう言うと返す言葉を待たずにファイアスはルナの病室へと消えて行った。運命の歯車、記憶の断片、コナミ、そしてルナ。複雑に混ざり合う数々の伏線の先にあるのは間違いなく魔絶の書だろう


 ドアが閉まってしまう。


 ファイアスの気持ちだけじゃなく自分自身の言いたい事は言わなければならない。それが今だとハッキリ分かる。


 「待ってくれ!」


 ファイアスの閉める扉が止まった。聞く耳を立てているのか扉は動かない。


 「この戦いが終わったらもう一度ルナとパートナーとして隣に居させて欲しい。お願いします」


 正直言ってククリにとっても戦争なんてものはどうでも良かった。単純明快な回答とするならばルナを守りたい。ただそれだけだった。


 「……記憶が消えていたとしても?」


 「構いません」


 「いいでしょう。そこまで守りたいというのならば、明日5人誰も死なさずに貴方が守り抜きなさい。誰か1人でも死んだ場合、その願いは永遠に叶わない。それでもいいと誓えますか?」


 「分かった。俺が全員守る」


 「……約束ですよ」


 扉は閉まった。決意を胸にククリは祭司ファダルを殺して禁魔目録【不滅の強欲】を奪取する為、宗教都市ミレシファドーラを潰しに向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ