19. 名探偵コナミ
遺体の顔が青黒くなっているとはいえこの顔に見間違いはない。
昨日会ったのも今死んでいるのもハーベストだ。
だがメサイア曰く死んでから既に1週間以上が経過しているというのであれば、昨日会ったという話は辻褄が合わない。つまり答えは一つしかない。
「―――変装?」
「多分……そう。……成り代わりの魔法や能力を……使ってると思う。城外にいたのは……私の魔法結界で入れなかったから。リン王女が認可して入城させた者は……その人に触れながら入る事が可能……」
「それでも辻褄が合わない。それならどうしてハーベストの遺体はこのロッカーにあるんだ。もしハーベストを殺して入城した後、ハーベストに成り代わってたなら死後1週間以上前にはここに入城していたはずなんだ。俺を使って入城する必要がない」
例えば何らかの方法で入城した後、ハーベストを殺して成り代わった。その後外に出たら入れなくなったというケース。だがそれなら再度入城した目的がわからない。それなら入城した時点で行動を起こしていたはずだからこの線はないだろう。
ならば外でハーベストを殺して成り代わった後、遺体を隠す為に操作やテレポートをしたならどうだろうか。だがそれもない。なぜならまず操作なら遺体の傷が深い為、城内を歩かせるのはまず不可能。テレポートさせるのも結界によって外からのマナの干渉が受け付けられないからそれも不可能だろう。そもそもテレポートが可能なら簡単に入城出来てしまうだろうが。
「行動についてはさっぱりわからないけど一つだけ答えがある。今ハーベストに成り代わっている奴が犯人だ。そういう事だろ、メサイア」
コクリと頷くとメサイアは魔法を唱え始めた。すると細かな粒子状の光がハーベストの遺体を包み込み、文字通り消滅させた。この魔法は死者を天に送るという消失系魔法の一種でゾンビなどアンデッド族に有効な魔法だ。
床の血や飛び散った返り血も一滴残らず消えていった。まるで光の糸が空へ消えていくようだ。おやすみ、本物のハーベスト。
「私たちは……何も見ていない。それにこの遺体は元々なかった……。あと成り代わりが……成立しているならまた別の誰かに……成り代わっている可能性もあるから注意して……。私は城内を調べて…みる」
そう話すとズブズブと床に溶けていくようにして消えた。この城内全ての人間を疑え、という事だろうが一体誰かもわからないのにどう疑えというのだろうか。疑い始めた時点で気付かれたら殺されて成り代わりをされる危険性もある。
魔の手はすぐそこまで来ている事にコナミは実感した。これがウロボロスならと思うと心臓が跳ねるようにして鼓動を打つ。怖い、けど平常心。メサイアが死なない限りもしかしたら勝てる可能性だってあるはず。
顔をパンパンと大きく叩き深呼吸した。平常心。
まずはここに来た目的、リゾットの依頼【シュリンプの深海卵】の調達をこなそう。
キイ………
幽かではあったが倉庫の扉が開く音がした。ハーベストに成り代わった奴とするなら死体がないのがバレた時点でアウト。手足が震えだす。その扉はゆっくりと開いた。
「むむ!!!おそーーーーーーーーーーーーい!!コナミ遅すぎるかな!!!卵取るくらいで時間かかり過ぎてるから心配して見に来たんだよ!!」
扉を開けたのはリゾットだった。ぷりぷりと怒ったまま宙に浮いた【シュリンプの深海卵】を取る。
「ごめんごめん、実は飛べなくて困ってたんだ」
「よよ?コナミ飛べないの?それは無理なお願いしたかな。こちらこそごめんごめんだよ。ならマナの練習しながら夕食も楽しみにしてて欲しいかな!」
リゾットは大きなコック帽が落ちないように押さえて頭を下げて倉庫を後にした。
「まずは整理しよう。この城に常駐している兵士の人数まではわからないが見た感じ少ない。あとはリン王女、メサイア、リゾット、そして俺と、アイリ……。そういや今朝アイリと会ってないな。大丈夫なのか?リン王女は多分メサイアが守ってるとしてアイリが心配だ」
アイリの顔が浮かぶたびに心配で仕方なくなってきた。もし兵士のままで話しかけられて疑わず殺されてしまう可能性だってあるはずだ。その前にアイリに説明しないといけない。
先程まで力が抜けていた身体が嘘のように起き上がり、アイリを探しに倉庫の扉を勢いよく開いた。
「あれ?コナミじゃないか。おめぇさんそんな所から出てきて何かあったのか?」
開いた扉の真横にそいつは立っていた。
まるで出てくるのを待っていたかのような絶妙なタイミング。
「ハーベスト……」
ニッコリと笑う爽やかな笑顔は今のコナミには不気味に映った。




