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35. メサイアの記憶


 コナミの爺さんは今でも若々しさは残っているが、この頃のコナミはククリと同じくらいかそれより年上かくらい年頃に見える。コナミは目の前にある椅子に腰かけると疲れた顔をして髪の毛を掻き揚げた。


 『やっぱり……駄目だった…の……?』


 自分の口が勝手に動き出して話し始めた。どうやら自分が見ているこの光景は女性のようだ。途切れ途切れの話し方は少し独特で視界はコナミを見たり見なかったりとどうやら人と話すのは苦手らしい。


 『ああ。どうやら世界というか次元的なバグに近いらしい。どう足掻いても世界は世界線を通りたがるようでズレの修正が必ず発生するみたいだ』


 『そう……。神様は何て……言ってたの?』


 『ウラノスは多次元宇宙を管理してるからな。そうそう話す事は出来ねぇけど芽が出る前に潰せって事らしい』


 ククリには何を言っているのかサッパリ分からなかったが、分かる事は一つだけある。これは過去の出来事を見ているのだという事。つまり魔法図書館にいてルメイヤではないこの女の人は間違いなくルメイヤの姉であり初代【大魔導士】であり魔絶の書を作ったメサイア本人だろう。


 『やっぱり……戦争は起きるのかな。私達に……出来る事は……無いの?』


 『原因どうなるかは分からないけど戦争は起きる。均衡が崩れて初めて"種"が目覚めるだろうからな。どの道その種がどこで現れるか分からない以上、戦争になる前にメンバーを散らして配備させるしかねぇ。それまでに何としてでもそいつを生かしながら殺す方法を考えなくちゃならねぇ』


 『アルテウス……。神様の話だから3人だけの秘密だけどそんなおぞましい生き物をもう一度生まれさせるわけにはいかない』


 アルテウスという言葉は誰か分からないが以前にコナミの爺さんが世界を救ったと言った時に対峙していた敵だろうか。黒い靄が少しづつ霧のように視界を包んでいく。


 そして視界は魔法都市プライベリウムの王室の謁見の間にいた。そこにはマリア王女ではなくそれ以上に美しい女性が座っていた。本で読んだ事があるがこの人はマリア王女の先代、リン王女だ。


 『コナミ様の言い伝え通り本当に戦争が始まってしまいました。私達は何としてでも国民を守らねばなりません。更に言えば私達は人を傷付けてはなりません。なので最強の防護壁を常に張り続けるのです』


 『メサイア様の教え通り常にマナを循環させております。大勢の人間が押し寄せて攻撃してきていますが、暫くは持つでしょう。交代でマナを送っていますので問題ございません』


 ククリ達が王都へ入った時は同盟の効力があったからすんなり侵入出来たが、通常であれば如何なる攻撃も全て弾き返すドーム状の魔法結界が存在している。後々世界を大きく変える魔絶の書を作り上げる事になる世界最強の魔法使いが作った防護壁を突破するのはまず不可能だろう。


 バンッ!!


 急に扉が開くとそこには魔法使いが息を切らしながら立っていた。一呼吸を終えて背筋を伸ばすと紙を広げ始める。


 『何事だ!リン王女と謁見中であるぞ!』

 

 『申し訳ございません!マナ通信による情報がきた為ご報告致します!!暴徒によって教会都市ジンライムが陥落致しました!!』


 『レイテっ!!!』


 メサイアはリン王女の顔を見ると静かに頷いてくれた。そして瞬間移動にも似た魔法を唱えると身体がズブズブと沼に落ちていき、急速に景色が変わっていった。そこはまさに戦場だった。


 『レイテ!!』


 教会に通う信徒達をめった刺しにして殺しまわる暴徒達をレイテと呼ばれた男が回復し続けている。凄まじい回復力で一瞬にして傷が塞がっているが死んだ者は直せないようで山のように死体が転がっている。


 『メサイアさん!来てくれたのですね!ヴァイパーズパンクの連中が急に襲い掛かってきまして収拾がつきません!ご助力願います!』


 『その為に……きた』


 メサイアは空中に浮いて空から見下ろすと大量に虐殺をしている人間たちと怯えながら逃げ纏う教会都市ジンライムの民が見えた。そして光のマナを貯めてメサイアは空へと放つ。


 『ホーリーレイン』


 降り注いだ優しい光に触れた暴徒の腕はそのまま貫通する威力を振るった。光に触れた部分を消滅させる魔法だなんて恐ろしすぎる。


 『まずい!大魔導士が来た!!逃げろ!!』

 『光に触れるな!!撤退だ撤退!!』


 あっさりと暴徒は逃げていくが空から見渡す都市は都市と呼べる物ではなくなっていた。ほぼ全ての建物は倒壊し、人と呼べるものの方が少なく他は既に生き物の姿をしていないものすらあった。


 メサイアが地上に降りてくるとレイテは走って近付いて来た。


 『よく来てくれました。本当に、よく来てくれました』


 『この都市は……再建は難しそう……だね。生き残った人たちを……魔法都市へ連れて行こう……』


 その後魔法都市への異動を希望したのは誰一人いなかった。この土地を捨てるわけにはいかないと言って動こうとしなかった。神を信仰する者とは一体何に救いを求めているのだろう。


 崩れた家々を魔法で少しずつ修理しながらメサイアは防護壁の魔法を展開した。


 『この結界も……2週間程度しか……持たない……。それにここに回してるほど……余裕も無いから……コナミを呼んだ方が……いい』


 『それがコナミさんが去った後突然襲撃がありました。やはりフィルスさんかアイリさんを呼んだ方がいいでしょうか』


 『そうだね……。私が呼んで来る……。レイテも気を付けて……』


 そう言うと景色はまた霧となり世界は暗転し、そしてまた明るくなっていった。目の前は以前と全く変わらない王都ブレイブの街並み。そして住み慣れた家にメサイアはいた。


 トントンと階段を下りてくるのは小さな女の子だった。綺麗なサラサラの金髪を靡かせて歩いて来る。


 『お久しぶりデス。メサイアさん』


 まだ若い頃のアイリお婆ちゃんだった。

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