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29. バレンタイン家の女


 メルルの申し出を普通であれば飲むはずはない。

 そう、普通であればの話だ。


 王に忠誠を誓い任務や護衛を行う騎士として任命されたククリにとって破城都市バルベルドに行くなど有り得ない話であり裏切り行為だ。それに戦争中でありながら敵対する破城都市バルベルドの人間が王都に入っている時点で極刑である。これが普通の反応だ。


 だが今は全く普通ではない。記憶を消されていないククリにとって今の状況は王都への信憑性がまるで無くむしろここに居た方が危険とさえ感じてしまう。だが破城都市バルベルドへ行くとしてもどの程度安全が保障されているのかさえ不明だ。慎重に物事を進めなくてはならない。


 「メルル、さん。あんたの目的と望む結果はなんだ」


 「わたくしたちの目的は武力拡大による戦争終結を目的としています。魔絶の書などという在り処も不明な物に頼らず即刻この戦争を終わらせる唯一の手段だとわたくしたちは思っております」


 ニッコリと笑う可愛いその仕草から完全に見逃すところだった。バレンタイン家はステルスヴァイン家に並ぶ最強の剣客の名家であり、メルルから漂う剣士としての才覚は剣を交えずともハッキリと伝わってくる。


 詰まる所スカウトという言葉と戦争終結を目的とする事は本当の事だろう。こちらとしてもそれが可能なら何よりの話だが見えてこない部分が多すぎる。


 「なぜ俺なんだ」


 「貴方様の戦いぶりは幾度となく確認しておりました。その過程で貴方様の強さや判断力、対応力、何より複数使用可能なマナ属性に惹かれここに参上した次第にございます」


 魔法都市プライベリウムとコナミとの戦闘はルナ以外誰も見ていないはずだ。つまりマーロックとの戦いで見られていた可能性がある。


 「スパイとは気に入らないな」


 「戦争中ですから」


 ふふっと笑うメルルは口元を抑えて軽く笑うがその仕草さえも可愛く見えてしまう。戦争中ではあるがこれ程に簡単に国への侵入を許していいものかと疑ってしまう。だが戦争は国土より王や頭首の首が最重要である事は明確だ。だからこそ王都の周囲は固く守られているはず。


 「2つ聞かせてくれ。どうやってここに入ったかと俺がそっちへ行くメリットデメリットだ」


 「うふふ。こちらへは途中の街で護衛に当たっていたタングさんに案内して頂きました。メリットについてはwin-winの関係を持ちたいので貴方様の協力次第でお婆様の身が保証される事をお伝え致します」


 ざわっと心の奥底が動いてメルルを横目に部屋を飛び出した。あの言い分だとアイリお婆ちゃんが人質になっている可能性が非常に高いからだ。階段を転げ落ちそうになりながらアイリお婆ちゃんを探した。


 「お婆ちゃん!!」


 「どうしたデス?そんなに慌てて」


 アイリお婆ちゃんは普通に椅子に座って編み物をしていた。異変どころか外にすら誰も居ない。メルルは本当に一人でここまで来たのだと確信した。


 「メルルさんがククリに会いに行ったはずデスが何かあったデス?」


 「あ、いや、何も」


 「何もないですよ。お婆様」


 階段をゆっくりと降りてきたメルルはにっこりとアイリお婆ちゃんへ笑顔を見せる。そうデスか、とアイリお婆ちゃんも納得して編み物を続けていた。


 「アイリお婆ちゃんはメルルを知ってるの?」


 「さっき会ったばかりデスよ。例え戦争中で国を超えてきたとしても個人と戦争してるわけではないデス。それにバレンタイン家とは関わりもあるデスから」


 アイリお婆ちゃんの仲間にイヴ・バレンタインも存在していた。だからこその信用といった所だろうか。それにしては安直過ぎる気もしなくもない。


 「それで、ククリ様は如何致しますか?」


 行くわけがない。仮に保証がどうだと言われてもルナを置いていく事がまず有り得ない話だ。それならルナも一緒に連れて行く以外検討する余地もない。


 「わかった。行こう」


 は?


 自分でも想像を超えていた自体が発生した。心と口が完全に分離して勝手に承諾してしまったのだ。アイリお婆ちゃんは立ち上がって荷物をまとめ始めている。


 「うふふ。ありがとうございます。貴方様のご活躍、とっても楽しみにしておりますわ。わたくしたち破城都市バルベルドはククリ様とアイリお婆様を歓迎致します」


 「ああ。宜しく頼む」


 違う!!!これは意志とは関係ない!!

 

 何かの魔法にかけられたに違いなかったが強力過ぎて解く方法すら見つからない。恐らく外を守っていた騎士タングも同様の方法で案内させられたはずだ。


 ククリも一緒にアイリお婆ちゃんに荷物の整理を始める。自力で動こうにもどうしようもない程に身体が言う事を聞いてくれなかった。


 『助けてくれ!!ルメイヤ!!』


 心の中でいくら叫んでも身体がマナを使わない限り指輪は反応しない。操作系の魔法の中でもこれ程に恐怖を味わう体験は他にない。


 その時だった。


 「どこへ行くの」


 玄関に立っていたのはルナだった。

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