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26. 世界最強の男

 まだ戦いは始まってもいない。ただ膨大なマナを放出しただけ。なのにも関わらず既に勝てるはずのない戦いに身を投じている事をビリビリと感じてしまう。


 「こいつは魔女との戦闘中に急に現れて僕様のアブソリュートを抜けて攻撃してきた。気を付けろ。超スピードでは説明不可能だ」


 「アブソリュート?」


 「馬鹿なの?新入りにも見せただろう?自らの結界内に入ったものは如何なるものも切り刻む。更に結界は液体状になっており自由に動かす事が可能な異質魔法だ。通常なら切り刻まれてるはずだったが魔女に攻撃を向け過ぎたか」


 魔女とはルメイヤの事だろう。ここから一瞬にして消えて5秒ほどで帰って来た。移動自体もあり得ない話だがあの結界を抜けて攻撃なんて考えられない。


 「どうした。作戦会議中か?なんならそのまま帰ってくれていいんだぜ」


 「ナメるなよ」


 キィィィィィ!!!!


 ロキは聖属性のマナを一気に剣へと集め始めた。剣が音を放ち鳴り響き地面が揺れ始めている。


 「10秒だ。聖属性を全開で溜めて当ててやるから時間を稼げ!」


 「いいよ。待ってやるから」


 余裕そうな表情を見せるコナミはマナを手に集束し始めた。その瞬間を見てライボルグは一気に黒い粉をコナミに集中させた。黒い粉は塊となりコナミを押し潰す形となった。


 「余裕ぶるなよおっさん!!僕様の力があれブァ!!」


 ズドォ!!!


 コナミは既にククリ達の背後にいたライボルグの頭を掴んで地面に叩き付けていた。ククリは反射的に雷のマナを溜めて攻撃すると同時にルナも剣をコナミへと仕掛けていた。


 「ずあああああああ!!!」


 相手が親族だからといってこのマナ量を見せられて冷静でいられるはずもなく、ククリは全身全霊を持ってコナミに斬りかかっていた。だが触れる事すらなく紙一重で回避されている。それもルナの剣も同時にだ。


 「こんな、こんな遠いのか。世界最強ってのは……!」


 呆気なくコナミはどちらの剣も両手の指2本でキャッチするも、その力は異常に強く全く離れてくれない。コナミはそのまま奪い取ると遠くへと投げ捨ててしまった。


 「離れろ!!」


 ロキの声と共にククリはライボルグを掴んで遠くへ投げ捨ててルナと共に退避した。ロキの剣は光り輝きいついつでも発射可能だ。


 「来いよ」


 「秘剣・聖光斬!!!」


 ズボオオオオオオオオオオ!!!!


 目の前が真っ白になる程の巨大な光線は海を切り裂いて進んで行った。一瞬たりとも見逃さなかったがコナミが避ける動作は全くなかった。確実に当たったはずだがあんな威力の技を当たれば即死してしまうかもしれない。


 「はぁ……はぁ……ステルスヴァイン家をナメ過ぎだ。この秘剣・聖光斬はククリに放ったものよりも練りに練り上げて全てのマナを使い切る程の威力を込めた。確実にコナミをやったに違いない……」


 砂も巻き込んだせいで砂煙が酷く前が見えない。しかしその中に影が一つ。


 「ナメてるのはお前だろ?この程度で秘剣・聖光斬とか」


 そこに立っていたのは無傷のコナミだった。砂煙が目に入ったのか擦りながら現れた。


 「馬鹿な……有り得ない……」


 「全盛期のフィルスの1/3程度だしな。ロキのマナルテシス量が聖属性とマッチしてないからこうなる。もう少し驕りを捨てて鍛え直した方がいいかもな」


 ロキはそのままマナ切れで意識を失ってしまった。悔しさの余り涙を流している。これ程の力を前にどうやって勝てばいいんだ。そんな中でルナはロキの傍へとやってきて耳打ちした。


 「ロキとライボルグが戦闘不能になった。これにより私とククリがその任務を引き継ぐ。ククリ、魔絶の書を奪い取るよ」


 「でもどうやって!」


 「炎を使えばきっと」


 ラースは制御不能の恐ろしい力だ。あの殺意に塗れた力をここで振るえばコナミに向けた殺意になるか、それとも他の誰かに向けるかも分からない。


 ラース。ラース。ラース………。


 あの夢を思い出してしまった。あの時もこんな海辺にいて誰かがラースを教えてくれた。確かメサイアと名前を出してもいた。


 「もしかして、ラースを教えたのは爺さんか?」


 「おお、上手くいっていたか。もう死にかけちまったとはちょっぴり情けないけどな」


 やはりあの時夢に居た顔がモザイクの男はコナミだった。


 「ラースってなんなんだよ……!殺意が頭を支配して使うだけで敵味方関係なく殺しそうになっちまうじゃないか!」


 「そうだな、もう少し先だと思ってたが説明するか。あれは【殺戮の憤怒】という禁魔目録の一つだ。だがそれを俺が昔使っていた技と似せて発動条件と発動内容に手を加えさせてもらった」


 やはり禁魔目録の一つだった事に衝撃を受けた。だが逆に言えば自分自身が死ななければハイデリッヒ王は魔絶の書を発動できない事にもなる。


 よっこいしょ、とコナミはまた座って説明する姿勢になった。ルナも剣を収めてコナミの話を聞きに近付いた。


 「【殺戮の憤怒】は発動内容通り全てを皆殺しする能力が得られる。強制的に魂を削り身体能力を限界まで底上げする。こんなものが誰かの手に渡ってはいけないと俺が持っていた。昔お前に読んで聞かせていた事がある本は禁魔目録だ」


 「っざけんな!そんな危ないものをなんで俺に読み聞かせた!」


 「お前は昔から誰より優しいからだ。だから自動発動しない様に工夫を重ねてラースと叫ばない限り発動しない。それに本来は周りのみんなが死ぬまで自らの魂を食らい尽くす魔法だったが、それを炎の力に変更させてもらった。お陰で能力自体は弱くなったが使い勝手もいい」


 コナミは棒を拾って砂浜に落書きを始めた。人間の身体と炎を3つだ。1つの炎は胸側に、1つの炎は身体全体に、1つの炎は目の付近に矢印が向けられている。


 「赤い炎。それは魂を燃やしてマナを生成する炎。燃やせば燃やす程マナの威力を底上げ出来るし、抑えれば長時間ラースを持続できる。青い炎は回復だ。基本的には何でも治るが怪我の度合いで魂を大きく削るから注意が必要だ」


 そして最後の炎に棒を向ける。目の付近に矢印が向かった炎だ。


 「最後に黒い炎。燃やした魂の分だけ出る煙みたいなもんで、これが殺意の元となる。擦り減らした魂の分だけ黒い炎が殺意として定着を始める。だから魂をより頑丈にして精神力を高める訓練をした方がいいだろうな」


 「そういう事だったのか……。爺さんは精神力をどうやって鍛えたんだ?」


 「俺は――――……根性だ」


 何か言えない理由があるのか言いたくない恐ろしい訓練でも受けたのか定かではないがとても口に出せそうにない顔をしていた。使いようによっては永続的に使う事も殺意に飲み込まれる事もないという事だ。



 その言葉を聞いてククリは息を大きく吸って大きく吐いた。



 「……会えてよかったし色々話を聞けて良かった。でもごめん、爺さん。俺は守りたいものがあるし爺さんには帰ってきて欲しいんだ」


 「そうか。だが今のお前に魔絶の書は渡せないし魔絶の書を俺が持ってる限り王都には戻れない」


 「爺さんがアイリお婆ちゃんを守ってやれよ!!」


 「アイリは守られなくても大丈夫だ」


 「【ラース】!!!!!」


 ククリは魂を燃やして炎を身体中に纏った。ルナとアイリお婆ちゃんを守る為にこの使った魂は意志の力で殺意を押さえつけた。やれやれと言わんばかりにコナミは立ち上がった。


 「俺が勝ったら爺さんには魔絶の書を渡して王都へ帰ってきてもらう!!」


 「生意気な孫に少し説教してやるか。【英雄】!!!!」


 コナミが発動した力は今まで見せた膨大なマナを遥かに超えた力となっていた。ルナが戦意を失って座り込んでしまう程だが、それを前にしてもククリは引く事は出来なかった。


 「勝負だあああああ!!!!!」


 世界の運命を変えて世界を救った最強の男との戦いが始まる。

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