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25. 魔絶の書


 静かな海。波の音だけが気持ちよく聞こえている。空気も澄んでいて心地がいい。そんな中、晴れ渡った空の波打ち際で3人は重苦しい空気を放っていた。


 「俺はかつてこの世界の運命を変えて世界を救った。そして今の世界が出来たが昔とある神様が言った通り、均衡が崩れたこの世界では確実に戦争が起きてしまうのは分かっていた。今の神様も色々と根回ししてくれたみたいだが人間の業は抑える事が出来なかったみたいだ」


 世界を救った?神様?一体どんな作り話が始まるのかと思ったら意味不明にも程がある。それでも爺さんの顔は昔を思い出して懐かしんでいるかの様子で噓偽りを吐く姿には見えなかった。


 「戦争を止める為に各地に俺たちの仲間を配備させて力の均衡を示そうともしたが全てを管理する事はまず不可能だった。昔の時も先に死んだのはお前の爺さんのフィルスだった。正義感が強すぎるんだ、あいつは」


 ロキは沈黙を保ったまま黙ってコナミの話を聞いている。それでも右手の拳は震えていた。この話を遮るつもりはなさそうだ。


 「やはりどこかで大きな力を作らねば戦争は終わらないと考えたメサイアは禁魔目録を作り、魔絶の書を完成させた。ま、ここまではみんな知ってる内容だろうがこの話には裏がある」


 コナミは立ち上がって遠くの空を眺めた。その美しい景色に対して瞳に映る色は黒く淀んでいた。


 「俺は魂をマナに変換出来る知識を持っていた。それをメサイアに伝えて生まれたのが禁魔目録。禁魔目録は7つの大罪から生み出した魂を消費する事で得られる能力だ。魂を吸い取る力は禁魔目録を呼んだ時の副産物であり、本来は自らの魂を消費する事が発動条件の魔法なんだ。禁魔目録を読んだ読者は禁魔目録の全てを魂に刻まれる。ただし禁魔目録の持ち主が死んだ場合魂から剥がれて何処かへ消えてしまう」


 「馬鹿な!それでは永遠に無くならないではないか!」


 「無くなったら駄目な理由があんだよ。次に魔絶の書だ」


 ゴクリッ。ロキとククリは息を飲んだ。

 まだ世界で数名しか知らない魔絶の書の本当の能力を聞ける。


 「魔絶の書ってのは世界中全ての魂を以て発動出来、この世界そのものを一巡させる魔法だ」


 「つまり、過去、現在、未来全てをやり直す為って事なのか?」


 「そうだ。魂を魔絶の書に封印したまま次の世界へ持ち越す事が出来る。だから次の世界では戦争の無い世界を作り出す事が出来るってわけだ」


 ハッキリ言って現実味が無かった。世界中の人間の魂を許可なく勝手にマナに変換して発動する大魔法、それが魔絶の書の正体だった。考えただけで吐き気がする内容だ。


 「そんなもの、戦争云々じゃない。この世界が終わるじゃないか!!それじゃあ魔絶の書なんかあったって意味がない!誰がそんなものを発動して得するっていうんだ!」


 「それがそうでもない。魔絶の書の所有者は神となりこの世界の未来を守る権利を得る魔法でもある」


 次の世界を統治して好きに世界を作り出す事が出来る魔法。もうスケールが大きすぎて話が全然分からない。こんな魔法を発動して戦争を終わらせるだなんて誰がしたいのか。


 いや、待て。誰がしたいってそりゃ。


 「もしかして……。王都ブレイブのハイデリッヒ王は神になる為に魔絶の書を狙っているのか?」


 「ククリは昔から勘がいいな。正解だ」


 ククリは剣を落としてしまった。騎士は魔絶の書を持ち返って戦争を終わらせる為に作られた組織。だが魔絶の書をハイデリッヒ王に献上して発動した場合、世界が終わってしまう。


 「はぁ……はぁ……だけど、魔絶の書は現に開く事が出来ない!だったら誰にも発動は出来ないはずだろ!」


 「それがそうでもない。俺は魔絶の書を誰かに発動させない為に条件魔法を行使した。その条件は禁魔目録の全てを1つの魂に集約した者しか開く事が出来ない」


 ロキも先程まで驚いて立ち上がっていたが深呼吸して身体を落ち着かせた。


 「ふん。ならば所有者が死んで世界の何処かへ消えた禁魔目録をまた探してを繰り返すわけか。途方も無い話だな。つまり結局どうあっても誰にも開く事は出来ないってわけか。なかなかに考えたな」


 「違う。禁魔目録は死ねばディバインズオーダーの何処かへ消える。だけどな、殺した場合は殺した本人の魂と結合する仕組みになってるのさ。だからこの世界は一部の人間がこの情報を得ているからこそ戦争が終わらない」


 「つまり……全ての禁魔目録の所有者を1人の人間が殺した場合、全ての禁魔目録を以て魔絶の書が開かれるという事……」


 コナミは黙って頷いた。


 何処かへ消えては拾ってを繰り返すなら国境がある限り回収は難しいだろう。だが殺すのは簡単だ。今までも宗教都市では見逃したが、暴食の所有者は――――。


 この事にロキも気付いたのだろう。その視線はゆっくりとライボルグへと向けられる。


 「最後に殺したのはライボルグだ。そうだったよなロキ」


 「……そういう事か」


 ロキは黙って倒れているライボルグへと近付いた。剣はブルブルと震えている。


 「ライボルグ、俺はずっとお前が怪しいと思って一緒に任務へ着いていた。この話をお前知っていたな?」


 ボンッ!!!


 その瞬間ライボルグの身体から大量の粒子状の黒い粉が舞い出た。危険に感じたククリは剣で振り払おうとしたが全く振り払う事が出来ない。


 3人は何とか距離を取ったがライボルグはゆっくりと立ち上がった。そしてパチパチと拍手している。


 「おめでとうロキ君。【無限の暴食】を奪ったのはこの僕様さ。本来ロキには王女を人質にコナミの元へ向かい、僕様は結界魔法でルメイヤの監視の時間稼ぎを行う役割だった。だが途中からルナマイアが着いてきていると気付いたから殺して【忘却の怠惰】も奪うつもりだったのに王女と一緒に連れ去るなんてねぇ、酷いと思わないのかな?」


 「お前がルナを見た視線は殺気が込められ過ぎていた。暴食を得たせいで殺気が腹の音くらい漏れていたぞ」


 「今奪っちゃあファイアスに殺されちまうさ。まだ奪いやしない。それよりもだ。ロキ君、新入り、お前らこれ聞いても王都へ忠誠を無くしたりはしないよなぁ?騎士として恥ずかしくない選択を頼むよ」


 ライボルグは静かにコナミへと剣を向けた。初めから今回の騒動全ての目的は魔絶の書の回収にある。騎士として目的を果たすのならコナミと対峙する必要がある。だが仮に奪ってしまえばハイデリッヒ王は間違いなく魔絶の書を発動して世界を終わらせる。


 ロキも迷っていた。握る剣がカタカタと揺れている。それでもギュッと剣を握りしめるとライボルグの方へと近付いて行った。


 「怖い顔だなロキ君。本当に味方か?」


 「今はな。それにどの道戦争を終わらせるには魔絶の書が必要だ。仮に発動出来ないとしても王都が所有したと全世界に知らしめる事でも圧倒的な影響力を及ぼせる」


 確かにその通りだが魔絶の書を手に入れたとなると王は維持でも禁魔目録集めに力を注ぐだろう。宗教都市も一度踏み入れた事がある以上今度は情報だけでなくルナが祭司ファダルを殺して――――。


 その時見てしまった。


 ライボルグの後ろにある木陰に立つルナの姿を。そしてルナはゆっくりと歩いてライボルグの近くまで歩いて来た。


 「おはようルナマイア。お前は騎士として王の忠誠に従うよな?」


 「うん。ほらククリ」


 ルナはククリに向けて手を伸ばした。王への忠誠として騎士を続けていればルナもアイリお婆ちゃんも守る事が出来る。もしルナを殺して魔絶の書を発動しそうになってもその時は一緒に逃げればいい。


 それとも今逃げるべきなのだろうか。コナミ爺さん側に着けばきっと守ってくれるはずだ。いや、それじゃあ無理に連れてきてもルナは納得いかずに1人で王都へ戻ってしまうかもしれない。


 「俺は……どうすれば……」


 迷い迷ってククリはコナミの方を見た。今にも1vs4で魔絶の書を奪い取ろうとする状況だというのにコナミは余裕そうな表情をしていた。


 「何を心配してるのか知らねぇけどまずアイリなら心配すんな。ククリが思ってる100倍は強いからな。俺だって1度も勝った事がないんだ。ククリは自分の守るべきものを守ればいい」


 「……ごめん、爺さん」


 ククリはルナの手を取った。そしてククリ以外の3人はコナミに剣を向けた。更に粒子状に散った黒い粉はコナミの周囲を覆い尽くしていく。


 「この粉は【無限の暴食】によって生成された僕様の能力さ。触れるだけでその一部を破壊して食らい尽くす。お前が今すぐ魔絶の書を置いて去るなら見逃してやってもいいぞ?この状況で馬鹿な真似はしないよなぁ?」


 「見逃す?」


 ドウッ!!!!!!!!!!!


 コナミから発せられた大量のマナに反射的にククリも剣を構えてしまう。ククリが限界に発するマナ量の5倍にも匹敵するその圧倒的な力に4人はいとも簡単に怖気づいてしまった。


 「……バケモノか」


 コナミの4人に向ける顔はまるで孤独よりも孤高と言っていい。戦う事自体がまるで間違っているかの感覚に陥ってしまう。


 「誰に向かって言ってんだ」


 武器も持っていないし構えてもいないコナミに対して全員本気で戦わないとここで死ぬ覚悟は出来ただろう。世界の運命を変えたと言われる世界最強の相手との戦いが始まる。

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