19. 魔法都市プライベリウム
魔法都市プライベリウムは球状の大きなドームに囲まれている。これは世界最強の魔法使いに送られる大魔導士の称号を持ち、禁魔目録と魔絶の書を作ったメサイアと呼ばれる者が作り上げた最強の結界魔法だ。
如何なる魔法や物理攻撃も通さず王女からの認可のない人間は立ち入る事さえ出来ない代物だ。この最強の結界魔法を攻略する方法は決してない。
「ロキ達はメサイアの作った魔法結界の中に入れるというのか?」
「入れるよ」
ルナは簡単に言うがここへの侵入は絶対に不可能だ。仮に秘剣・聖光斬で壊そうものなら中にいる全ての魔法使いが襲い掛かり戦争となるのは目に見えている。
「どうやって入るんだよ。あの結界は……」
「知らないの?王都ブレイブは魔法都市プライベリウムと友好関係にある。だから認可なしで立ち入る事を許されているの。王都にはメサイアの仲間の剣聖が二人もいたから」
元剣聖フィルス・ステルスヴァインと現剣聖アイリッシュはかつてメサイアと共に旅をしていたとされている。だから友好関係の維持が可能という事なのか。
「でも無防備過ぎやしないか?今は各国で戦争中だぞ」
「知らない。それに今回の任務と関係ない」
言われてみればその通りではあるが、かつてコナミの爺さんやアイリお婆ちゃんと共に仲間だったメサイアに会えるかもしれないとなると心が躍った。それに魔絶の書や禁魔目録について話を聞けるかもしれない。
ロキ達二人は結界内にいる人と話をした後、魔法都市内へと入って行った。ククリ達も急いで後を追ったが門兵に止められてしまう。
「王都からの入場者は2名と聞いているし王都からの紹介状もあった。お前らは入場許可証を持っていないではないか!立ち入る事は絶対に許されない!」
ガミガミと文句を言う門兵を目の前にルナは人差し指をドームに近付けてる。王都の人間は拒絶されておらず指先は結界内に入った。
「お前なにして……はひ」
門兵はゆっくり座り込んで眠ってしまった。記憶消去魔法というより睡眠魔法としても優秀過ぎる。
「さて行こうか、ククリ」
二人は魔法都市プライベリウムへの結界を通り抜けた。
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魔法都市プライベリウムの中は戦争中とは思えないほどに日常が広がっていた。メサイアの結界のお陰なのかまるで戦争など無かったかの様なお祭り騒ぎとなっている。
中にいる人は特殊な魔法結界のお陰か宙を浮いており、店自体も空中に数多く展開されていた。マナを少し放出すれば簡単に浮ける仕様になっているが目立つのを恐れて地上を進んだ。
基本的には魔術書や魔道具が数多くあり、マナを行使せずとも道具自体に込められたマナのお陰で強力な魔法を使えるものもあった。
「いらっしゃい!王都からの招待客かい?お兄さん剣士ならこの剣とかどうよ!一振りするだけで一面を氷漬けに出来る氷剣フロスティアさ!どうだい~!」
珍しい剣に目を惹かれて近付いてみるもルナに首根っこを引っ張られて連れて行かれた。
「任務優先」
「はい……」
厳しい女房を持つとこういう感じかと心の中で笑ってしまった。それにしても人だかりが多くロキ達を完全に見失ってしまった。かといって屋根に登って走り抜けるのも目立ちすぎてしまう。
「ルナはロキ達を尾行できてるのか?」
「王都から召喚された者は王女に会いに行くのが常例」
街を抜けたその先に見える大きな城、そこに魔法都市の王女がいるらしい。アイリお婆ちゃんからの話によればかつてはリン王女と呼ばれる人がいたそうだが、今はその孫娘が王女としているらしい。年齢的には同じくらいだろうか。
「俺たちはどうやって入るんだよ」
「普通に入る」
本当に便利な魔法だよと思いながら進んで行き、いつも通り城の門兵と話し途中で寝かしつけてしまった。話によれば記憶消去の時間が短い程睡眠時間も短いという。会議室でルナが室内に入る際にファイアスと一緒に眠らされていたと考えれば本当に記憶は無いのだろう。
入場したその先は目の間に大階段と左右に大きな廊下が広がっていた。見た感じ王女がいるのは大階段を登った先と考えられる。
「中は全然人がいないのな。不用心にも程があるだろ」
「そもそも結界内に入る事が出来ないから中の警護なんか必要ないんじゃないかな」
こんな簡単に侵入出来たというのに不用心では話にならない。そう思っていた時だった。
ドサッ
ルナが急に倒れてしまった。そして目の前が急速に回転してククリも吐き気と眩暈が襲い掛かる。
「が、あ……。何がどうなってんだ」
目の前が真っ暗になり床が抜けて落ちていく感覚がする。睡眠不足を疑ったがそういったレベルではない。何らかの防御結界が働いたのかと考えたがそれも考えにくい。なら一体―――――。
「起きるのじゃ」
「はっ!!」
目を覚ますと真っ暗な部屋にテーブルの上に一つの蠟燭の炎。何か分からないが手足が椅子に引っ付いたままどれだけ力を入れようと離れる事が出来ない。隣ではルナもこちらを見て身体を動かしているが全く動ける状況じゃなかった。
そして何故かマナを行使する事が出来ない。身体から全てのマナを吸い取られたかの感覚に落ちて視界がぐらぐらと揺れている。酔っ払いに似た症状と同じだ。
「目が覚めたな」
テーブルの奥に座っていたのは背は小さくただの少女とも呼べるような姿の子供だった。
「だれ……ぐっ」
老婆が指を上げただけで口が開かなくなった。この張り付けの魔法を使っていたのもこの子供なのだろうか。
「ワシの名はルメイヤ。大魔導士メサイアの妹じゃ。メサイア亡き今この城を守っておる。さて、侵入者共よ。ワシの質問以外に話せば死ぬが口先にかけた魔法を解いてよいな?」
この小さな幼女にも見える姿の者こそが魔絶の書を作ったメサイアの妹のルメイヤだった。何が起きているのか全く状況が理解出来ていないが首を縦に振る以外出来なかった。するとゆっくりと魔法は解かれて口の自由が利くようになる。
「ワシは魂の色を判別出来てその者が善人か悪人かを直ぐに見分けられる。男の方はとても澄んだ色をしておる。じゃから殺さずに生かしてある。じゃがそこの女はまるで透明過ぎて魂の色を見る事すら許されん。貴様らは一体何者じゃ」
魂の色が透明?一体何を言っているのか分からなかったが質問以外に話せば死ぬと言われたので聞く事は出来なかった。
「俺たちは王都ブレイブから任務で来た者だ。今王女様と謁見している騎士ロキ・ステルスヴァインと騎士ライボルグの監視を行っている。前の任務で怪しい動きをしていたから上の者に尾行する様に伝えられた」
「ステルスヴァイン家の者が来ておるのか。ではお主たちはどうやってこの結界内に侵入した?」
「隣にいる騎士ルナマイアは異質魔法が使えて相手を眠らせる力を持っている。王都からの入城自体は認可無しで入れるけど門兵は眠らせてもらった」
ルメイヤは腕を組んでう~~んと悩んで見せている。
「やはりメサイアの魔法結界の様に上手く人を選ぶ事は出来んか。ワシもまだまだ修行不足じゃの。理由は分かった。しかし帰れ。王都からの招待状無しで侵入なんぞ敵対行為にも匹敵するぞ」
実際敵対行為の何者でもない。認可されてない人間の侵入が門兵を眠らせて更には王女がいる城まで入ってしまった。
「わかりま―――」
「ダメ」
言葉を遮って口に出したのはルナだった。
「任務は絶対」
「お主、ルナマイアと言ったか。今どんな状況で誰に向かって口を聞いているのか分かっておるのか?」
「うん。でも任務は絶対」
ルナの目は真っ直ぐにルメイヤを捉えていた。マナが行使出来ない以上ルメイヤを眠らせる事は絶対に出来ない。
「ふざけるな!死にたいの……か?」
バタリッ
眠るように倒れてしまったルメイヤは意識を失っていた。張り付けの魔法は解かれており手足も自由になった。
「ルナがやったのか?でもマナがほとんど無かったはず」
「分からない。けど何故かいつも通り出来た。とにかくロキ達を追おう。任務優先」
「行かせるわけないじゃろうが」
むくりと起き上がったルメイヤの身体からは目に見える程に凄まじいマナが放出されていた。どうやら場所は図書館だったのかマナの出力により本が吹き飛んでいく。
「ワシは大魔導士メサイアの後継者、大魔導士ルメイヤじゃ。お主の事を何も知らぬわけないだろう、のう?【忘却の怠惰】」




