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18. 尾行


 日は落ちて闇が近付くとグロウヘッド街は大きく明かりがいくつも灯りその周囲は常に厳戒態勢を取られている。昼間に一度見回りしていた兵士に見つかったが記憶を消して別の場所に運び込ませた。


 ルナの双眼鏡を持つ手が少し震えているのを見たククリはテントの中で休むよう説得したが頑固にも断られた。仕方なく中から毛布を持ってきてルナの背中にかけてあげる。


 「これであったかいだろ」


 「うん」


 礼は特になかったが別に気にもしていなかった。ククリは食料を食べながら周囲に兵士が来ないかだけを警戒していた。


 「ロキ達はいつ頃作戦命令を受けるんだろうか」


 「分からない。そもそもロキが何か裏があると私は思ってないからこの作戦は無駄だと思ってる」


 信用してそうな口ぶりを見せるルナにククリは疑問に感じていた。あんな不振な行動や報告をしていたのに何故信用出来るのだろうか。ただ一緒に任務に出て記憶を消されなかったのはロキだけだとは聞いている。


 「前に一緒に任務に出たって聞いたけどその時に信用出来たからって事?」


 「多分、そう」


 「多分?」


 「……本当は覚えてない。けど信用出来る人だって事は何となく覚えてる」


 騎士になったのも何年も前の話で、騎士になってから同行したからそんな昔の事は覚えていないという事なのだろうか。それ以上聞くのもしつこいと感じたククリは止めた。


 「ルナにとってロキはどういう人?」


 「ちゃんと任務をこなす人。報告は雑だし勝手な所も多いけど任務は必ず期日通りにやってきた。だけど相手が禁魔目録持ちだったから時間がかかった可能性がある。私たちを囮にして不意打ちのチャンスを待ってたとか」


 随分な信用のされ方だが何年もの間任務を確実にこなしてきたのだから信用もあるのだろう。それにテントから出さない事には勝負するのも難しかったからルナの意見も一理あると言える。


 だがそれならルナがテントに入る前に一言声をかけてもよかったのではないかとも思う。お陰で危険過ぎる場面もあったし、自分自身が途中で危険な場面も常にあった。それでもこれ以上ククリが不振に思っている事を伝えるのも心象が悪いと感じて止めておいた。


 「とにかくこれも任務だしロキがちゃんと任務をこなすのかハッキリするはず………ん?」


 話をしているとグロウヘッド街に駐在している兵士が持つ炎が動いているのが見える。ククリは急いで自分の双眼鏡を覗き込んだ。


 「……来た」


 そこにはロキとライボルグがタングと話をしているのが見えている。担いで持ってきていた支給品を渡しているのだろう。急いでククリはテントを片付けて尾行の準備をした。ロキの動きはルナがしっかりと追っていた。


 「魔法都市プライベリウム方面へ真っ直ぐ歩いて行く。ククリ、追うよ」


 「ロキの勘は半端じゃないから気を付けていくぞ」


 宵闇に紛れながら二人はロキ達の足取りを慎重に追った。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ロキ達はテントは使わず野宿をしているがその前に必ずライボルグが何らかの魔法を使っている。そして二人が眠りについている所を見るに強力な結界魔法だろうか。双眼鏡で位置取りが把握できる位置に陣取っていたククリ達は見つかる事なく足取りを追う事が出来た。


 宗教都市ミレシファドーラを通り過ぎて進み、また野宿をした際の事だった。槍を持った賊2人に夜襲を受けているが不思議な事が起こっている。


 「おいおい何やってんだ……!」


 二人が完全に眠っているのにも関わらず賊が直ぐ傍まで来ているではないか。結界魔法ではなく完全に寝込みを襲われかけている。


 賊が槍を振り下ろしたその瞬間だった。


 「ああ……ああぎゃあああああああ!!!手が、手がああああ!!!」


 賊の手は槍と共に床に落ちていた。双眼鏡で遠くからであったが全く何が起きているのか分からない。ゆっくりと起きたロキは何もせずに様子を見ているだけで、ライボルグが静かに起き上がった。


 すると風切り音と共に賊の身体がバラバラの肉片へと変わり果てた。


 「僕様が野宿で我慢しながら眠りについているってのに邪魔するのはどうなのかな?君も眠りたいならそう言ってくれよ。永遠の眠りにつかせてやるから」


 「ああ……すみませんすみませんすびっ!!!」


 土下座をする前に一瞬にしてバラバラに切り裂かれた攻撃も全く見る事は出来なかった。それにライボルグの手には何も武器らしい武器は持っていなかったのである。


 「きたねぇな。起きたついでにもう少し進むか」


 ロキがそう言うと二人はまた歩き出してしまった。こちらとしては丸二日以上まともな睡眠を取ってなかったせいか疲労は蓄積していくばかりだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 宗教都市ミレシファドーラと魔法都市プライベリウムの途中には大きな森が存在する。死の森ジグフォレストと呼ばれる場所だが、なぜ死の森と呼ばれているのかは分かっていない。


 高さ10メートルを優に超える木々が立ち並ぶ場所での追跡はかなり困難を極めた。草木に紛れる事が出来ない以上、背を追うにはリスクが高いと踏んだククリ達は木の上から後を追う事にした。


 「止まれェ!!ここは俺たちダーカス賊の領地だ!通りたかったら食料か武器を渡しやがれ!」

 

 突如現れたダーカス賊と呼ばれる集団は原始的な武器を持った集団だった。10メートル四方を20人以上の人間が囲い込んでいる。更には木の上には弓を構えた者まで見えた。


 ククリ達は直ぐ近くに弓兵がいるのは分かっているが応戦せずにその場を見守る事にした。


 「は〜うざ。僕様の道を邪魔するって君達は何様なのかな?5秒あげるから死にたくない奴からここを失せろ。ご〜よ〜んさ〜ん」


 「この人数を相手に舐めてんのか?ああ?殺されてぇのか!ああん?」


 「に〜、いちっ!!!」


 ザンッ!!!!!!!!


 20メートル以上の円状に広がった謎の攻撃はロキを除いた全てを飲み込む様に切り裂いた。その瞬間も指を折って秒数を数えていた動き以外ライボルグに至って変化はなかった。どうやって攻撃しているのかすら全く分からない。


 「行くぞ」


 ロキとライボルグの歩みは全く止まらなかった。途中またしても襲い掛かるダーカス賊もまるで無視しているのにも関わらず切り裂かれて死んでいく。


 「何が起こってるんだ……ルナ知ってるか?」


 「ううん、知らない。ライボルグと一緒に行ったことないから」


 切り裂かれた場所は超鋭利な刃物でえぐられた形をしている。遠目で見ると円状にえぐって見えるが近くで見ると細かく切り裂かれた跡がハッキリと見えている。


 ナイフを広範囲に広げたにしては傷跡が小さく細かすぎるし、何よりそんな素振りも見せる事もなく見えない速度でナイフが飛び回る事は有り得ない。


 「もしかしてライボルグは禁魔目録を持っているとか?」


 「それはないよ。王都で禁魔目録を所有している人はいない。情報がないせいで王様は小さな情報でも欲しがっている」


 そうなると異質魔法としか考えられない。しかしライボルグはマーロックを仕留める際にナイフを投げた後に炎で燃やして見せた。炎属性魔法を使えるのに異質魔法が使えるはずはない。謎が謎を起こしながら二人の後を追った。


 魔法都市プライベリウムが見える手前でロキ達は足を止めた。何かを双眼鏡で確認している様子だがどうやら野宿する様子にも見える。


 「一旦休もう。木の上だけどルナから寝ていいから」


 既にウトウトとしているルナはぶつぶつと何かを言い残して眠ってしまった。どうせ頑固な性格だから否定した言葉でも吐いていったのだろう。


 ククリもかなり睡眠不足で眠気に襲われていたがダーカス賊の生き残りがいる危険性や、ロキ達が動き出す可能性もある。迂闊に眠る事は許されない状況にあった。


 「こういう時に俺も結界魔法とか使えたらよかったけど……」


 睡魔に襲われ続けたまま4時間が過ぎ、夜が明け始めた頃にロキ達が起床し始めた。頭も痛いし眩暈もする状況でルナを起こしてククリ達も出発した。


 そして眼前に広がるのは大きなドーム状の結界に守られた4大都市の一つ、魔法都市プライベリウムが姿を見せた。


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