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17. 空腹と幸福


 客間のドアを開けてみると普通の廊下。

 ただつい先ほど夢の中で闇の使者であるウロボロスに殺された場所。


 ガタガタガタガタ……


 近くにウロボロスがいるのではないかという恐怖心が未だに消えない。未だに死への感覚は拭う事が出来ず思い出すだけで吐き気と震えが止まらなかった。


 しかし人間とは単純なもので廊下を漂う美味しそうな匂いに死への恐怖より空腹が先にやってきた。


 「腹減ったなぁ……あいつに殺されるよりそっちで死んでしまいそうだぜ……」


 ここに着いてからまだ何も食べていない為か、先程まで強張っていた身体は緩みきりしきりにお腹を鳴らす。


 コナミはキッチンの方へと足を進めた。

 キッチンにいたのはたったの1人の背の小さいコック魔法使いだった。まるで指揮者のようにくるくると指を回して食材や調理器具を自由自在に動かしている。


 ぐ~~~~……


 大きなお腹の音に気付いたのかコックはこちらに気が付いた。身長が低い割に大きなコック帽に青い服の上から大きなエプロン、顔の小ささには合わない大きな丸眼鏡のただの小娘にしか見えない風貌だった。


 「やや!今の大きな空腹音は君かな?いけないのだよ~お腹がすく事は~いけないいけない!いけないのだよ~!ちょっと待っておくれよ~それそれ~!」


 コックは指をふりふりとするとシチュー風なものを用意してくれた。木の器に入れられたシチューは柔らかな温かみのある香りを漂わせ、止めどなくヨダレが溢れてきた。


 「ささ!味見ついでだ、食べたまえ!美味しくいただくのだよ~!」

 「あ、ありがとう」


 そのままシチューを口に入れるとこの世界に来て最も美味しいと言える程に美味く感じた。

 お腹が空いていたから、魔法がかかっているから、と色々考えたが流石は城に仕えるコックなのだろうか。口の中が幸せで満たされた挙句、涙がほろほろと流れ落ちた。


 「美味すぎる……なんだこれ、美味すぎるよ……!!」


 「はは!ドヤドヤ美味かろ~!私は魔法都市プライベリウムに仕えるコック長のリゾットなのだよ!君はなんていうのかな?」


 貧相な胸に手を置いてドヤるリゾットだったが、ドヤっていいと思える程の一品だった為不快感はそれほどなかった。


 「ホントに美味いよ!俺はコナミ。リン王女に客人として通してもらった冒険者だ。よろしくリゾット」


 ハニカミながらリゾットはコック帽を外して握手をする。コック帽を外したリゾットは毛先がくるくるになっており、ピンク色の髪の毛量が多いせいかまるでマントのようだった。丸眼鏡の向こう側には何の疑いも持ったことのないような目の輝きを持っている。


 両手で握手しながら嬉しそうにピョンピョンと跳ねるその姿はまだ幼き少女で、普段遊び足りてないし話足りてないせいかキラキラと目を輝かせて喜んでいる。


 「ふふ!嬉しいな嬉しいな!コナミに会えて嬉しいかな~!リン王女は見かけないし、役付きのみんなもどこか行っちゃってるし、メサイアなんか会いにも来てくれないし!ぶーーっ!」

 「そうなのか?ハーベストとかなら割と暇そうにしてたし来てくれそうだけど」


 キョトンとしたリゾットは首を傾げている。


 「むむ?ハーベストって誰なのかな?」

 

 「兵士だよ兵士!爽やかイケメンの元冒険者の!知らないのか?」


 「ぐぬぬ、わからないかな~……ハーベストハーベスト……ぐぬ~ん居たような~居なかったような~でも爽やかイケメンは居たような~……」


 頭を抱えているがよくよく考えてみたら普段鉄仮面を被った兵士なんてどれもこれも似たり寄ったりで区別もつくはずないといった所だろうか。分からないのも無理はないだろう。


 「ああ!そうだそうだ忘れてた。ちょうどいいやコナミコナミ、さっきのお礼に手伝って!キッチンを出た反対側に具材倉庫があるからそこから【シュリンプの深海卵】を持ってきて欲しいんだよ!この部屋出たら魔法が止まっちゃうからお願い~~コナミ~~」


 はいはい、と言われるがままキッチン部屋の廊下で挟んで反対の部屋にある倉庫へ向かった。


 そこには多くの加工された食材と冷凍された食材等が多く陳列しているが、どれも魔法にかかっていてふわふわと浮かんでいる。この中から【シュリンプの深海卵】を探すのは通常困難だろう。


 だがコナミは【シュリンプの深海卵】が青く光っている食材と知っていた為、案外すぐに見つかったのだが割と上の方に浮かんでいてどうにも手が届きそうにない。


 「くっそマナが使えて浮ければこんな事には……ッ!なんか脚立的なやつないのかな」


 そう思いながら倉庫の中を探してみたが大概の物は浮かんでいて使えない為、地面に設置してあるロッカーを探してみた。ガシャガシャと開けて探してみるが掃除用具入れだったりと、目ぼしい物は見つからない。


 だが、ひとつだけ固く施錠されたロッカーがあった。


 「なんだこれ?施錠されてる?でも鍵なんてついてないぞ?」


 どうやら施錠されているというより何かが引っかかっているようにも感じる。コナミは中身が気になる好奇心に惹かれて全力で引っ張ってみた。


 ロッカーは少しづつだが開いていく。


 ズルリ……ドチャッ……


 嫌な音と共にロッカーからそれは出てきた。

 通常ロッカーから出てくるものとして考え得る限界を超えていた。コナミはガクガクと震えながら尻餅をつく。


 「なん……で……?」


 出てきたのは身体中血だらけの ハーベストの死体だった。

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