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15. 【無限の暴食】


 奥まで到着すると大きなテントに煌びやかな装飾品まで付いている。その周りにいた兵士は全てルナが来ているのか倒されていた。もうテントの中にいるかもしれないとククリは慎重に覗いてみる。


 「………ッ!?どういう事だ、これは!」


 「げーっはっはっはっはっは!!上手い上手い!!もっと身体を舐めて洗え!!げーっはっはっはっはっは!!」


 そこには大きなソファーで寛ぐマーロックと先程連れてこられた女が身体を舐めていた。マーロックは酒樽のまま持ち上げて酒を器用に飲んでいる。


 ルナの姿はまるで見えなかった。それどころか武器らしいものも全く見えないし、戦った痕跡一つ残っていない。テントの入口を開いてもマーロックは姿勢一つ変えないままこちらを見ていた。


 「なんだ坊主。外でのドンチャン騒ぎは飽きちまったのか?わりぃな、弱っちいのばっかりで小物しかいりゃしねぇ。げははは!!」


 戦闘していた事も知っているのに余裕そうな表情で酒を飲んでいる。女もこの混乱に乗じて逃げればいいものをずっと舐め続けていた。


 「ここに女の子が来なかったか?」


 「ああ、来たよ。ちびっ子が俺のテントに侵入してきたなぁげはは!」


 マーロックは素直に答えた。ククリは色んな悪い考えを頭によぎらせながら息を飲んで心を抑えた。話せる以上まだ情報を聞き出せるかもしれない。


 「その女の子はどうした」

 

 「その前によぉ小僧。その前におめぇ玄関で話すなんか礼儀がなってねぇじゃねぇか。ママに習わなかったのか?マナーをよぉ!!入って話せ馬鹿野郎!!」


 ククリは相手のテントの周囲をよく観察したがマナの痕跡や隠れた兵士や武器など全く見られなかった。


 「あ、あ……ああ……」


 舐め続ける女がうめき声らしき声をあげている。


 「どうしたよ小僧。話す気あんのか無いのかどっちだ」


 どの道この男を仕留めない事には始まらないし、話す気がある以上まだ情報の方が優先される。そう思ってククリは安全と見て中に一歩入った。


 「入っちゃ駄目ェああ!!」


 その瞬間舐め続けていた女が奇声をあげると同時に何かヤバい予感を感じたククリはテントの外に飛び退いた。瞬発力であれば誰よりも早かったククリだから出来た事であり、その他の誰もが不可能だろう。それはロキだとしても、だ。


 テントの内部は一瞬にして黒く染まり尽くしていたのだ。そして中にいる人物は女も樽もソファーも全て飲み込まれて消えてしまい、テントを丸ごと飲み込むと消え去ってしまい黒い球だけがそこに残った。そして溶ける様に黒い球が消えて行くとそこには首をゴキゴキと慣らしてこちらを睨むマーロックがいた。


 「あのクソ女が!!あと一歩をバラしやがって!!食い損ねたじゃねぇか!!」


 「食うだと?一体お前何をしたんだ!!」


 「禁魔目録【無限の暴食】。それが俺の能力だ。テント自体が俺の胃袋として機能していたってのにお前なかなか素早いじゃねぇか。げはははは!」


 「禁魔目録だと!?」


 マーロックの腹から血の色にも似た赤黒い触手が飛び出してきた。そこには四方八方に大きな口が付いていて牙は鋭く噛みつかれたら肉まで削ぎ落されるだろう。そもそもビジュアルが気持ち悪すぎる。


 「げーはっはっは!!どうだ小僧。この膨大な力は全てを食らい尽くし飲み込む!!避けられるものか!!」


 襲い掛かる触手を剣で受け流そうとするが途中の口が噛みついて鞭の様に軌道を変えた。すかさず襲い掛かる触手を避けるが噛みつかれた剣が離れない。


 「くそっ!!雷鳴剣!!」


 雷が剣に向かって落ちると同時に剣に強烈な雷が収束する。その勢いで離れてくれるかと思いきや触手はマナを飲み込んで食らっていた。 


 「芳醇なマナをありがとうよぉ!!まだまだ食いたらねぇぜ!!げははははは!!」


 剣がギチギチと嫌な音を鳴らしていた。このままでは剣を破壊されかねない。だがマナを使っても飲み込まれてしまう。


 「ずあああああああああ!!!」


 ククリは雷のマナを足に溜めて触手を蹴り飛ばした。しかし痛覚が連動していないのか痛がる素振りも触手が剣を離す事もなかった。更には触手はククリのマナを感知したのか足に向かって噛み付こうとしている。


 剣を捨てて急いで下がるが触手の速度は異常だった。そこでククリは足に込めたマナを解除すると触手は止まりゆっくりと辺りを探している。


 「見失ったのか追ってこない……。まさか、この触手はマーロックとは別の生き物として成り立っているのか!」


 「げははは!!素晴らしい洞察力だ。よく気付いたな!ご褒美に教えてやる。そいつらにゃ痛覚がねぇし斬られても問題ねぇんだ」


 マーロックは自慢げに話すがその会話には不自然な事があった。


 「そいつら……?」


 つまりこの痛覚の無い触手は複数体で構成された物と言える。口が複数ついているのは口と同じだけの生き物がいると仮定してもいい。


 その時嫌な事を思い付いてしまった。後味の悪い最悪な仮説だ。しかしそれは確信とも言える確実的な答えでもあった。


 「マーロック、あんたその触手。何人食ったらそうなった」


 その時のマーロックの顔は死んでも忘れられない程に邪悪そのものだった。ニヤついた笑みに涎を垂らしドス黒いオーラを放っている。


 「大正解だ。何人か覚えちゃいねぇが、この触手は俺が食った人間共の魂から連なっているんだぜ!げはははは!!」


 宗教都市ミレシファドーラでも人の魂を使い、不滅とも言える程のマナを会得していた。だからこその仮説はいとも簡単に正解に導かれてしまった。


 「っざけんな……。禁魔目録は人間の魂を食らえば食らう程に強くなるとでも言いたいのか!!!」


 「げはははは!!当然だ!!人の魂はエネルギーとしてマナへと変換される。禁魔目録は魔絶の書の失敗作と言われているが、一体魔絶の書はどれだけの人間の魂を食らえば発動出来るんだろうなぁ!!欲しくて欲しくてたまらねぇ!!魔絶の書は一体どこにあるんだろうなぁ!!!」


 禁魔目録は魂を食らって強くなる魔法であると同時に、魔絶の書の根幹となる失敗作と言われていた。だとしたら魔絶の書は禁魔目録を超える魂を食らう事で発動可能とも言えてしまう。


 だからこそ倫理的に発動出来なかった、その魔絶の書は爺さんであるコナミが誰にも渡さない為に持っているのか。


 「……何が魂だ。何が魔絶の書だ。人の命を何だと思っているんだ!!!」


 「あーあーあーあーあー。うっせぇなぁマジで。人の命だのどうでもいいだうがよぉ。盗賊に金を奪わせて金で兵士も雇って要らなくなったら食う!拾ってきたイイ女も抱いてそいつも食う!俺が満足できりゃそれでいいんだよ。げはははは!!」


 「テメェだけは許さねぇぞ!!」


 ククリは身体中に雷のマナを溜めると触手は俊敏な反応を見せて襲い掛かる。しかしその速度を遥かに上回りククリはマーロックの懐へと入った。拳による渾身の一撃を繰り出そうとした瞬間にククリは見たのだった。


 ニヤァ……。


 相手を馬鹿にして見下すニヤけた目だった。テント内の事が頭の中によぎりククリは急なバックステップでその場から離れた。


 足元から広がる急速な黒い影は球体となりマーロックの身体を包み込んだ。その直径は5メートルで小範囲ではあるが飲み込まれたら一貫の終わりだろう。先程テント全体を食らった攻撃がまさにこれだ。球体はゆっくりと剥がれ落ちてマーロックの不敵な笑みが顔を見せる。


 「こいつぁ俺の胃袋みたいなもんだ。食らったもの全てを俺に吸収する。つまり攻防一体の最強技だ!どうやったって勝ち目はねぇぞげははははは!!」


 「なるほどな」


 その瞬間、マーロックの背中から血のしぶきが吹き飛んだ。一瞬遅れて黒い球体を出すが背後にいた男は余裕で避けて見せる。その男はまさにククリが思う絶対的な強さを持った者だった。


 「やっぱ生きてたかよ、ロキ」

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