13. 新たなる任務
王への報告の為に王都に戻り作戦会議室にて報告を済ませた。ハイデリッヒ王からは特に何も言われなかったが騎士ファイアスに後に呼び出しを受けた。ファイアスは王の側近や補佐監督、秘書等もこなしており、城の中に特別待遇として部屋が設けられていた。
「ククリさん、お疲れ様でした。どうしたか初めての遠征は」
作戦内容に基づき秘密厳守を守り抜いたかという質問だろうか。実際は起きた事は全て記憶を抹消したが実際右手左手の死体や破壊された建物や内装も少なからずあった。
「全て上手くいきました。ルナさんのプロの仕事に後ろから付いて行っただけです。ですので自分は特に何もしていません」
実際の動きは全てルナが指示した内容に従っていた。それは紛れもない事実ではある。
「そうですか」
ファイアスはコーヒーを一口飲んで一息付くと手を前に組みながら顔を覗き込んでこちらを見た。
「本当の事を言え、と言っているのですが?」
騎士ファイアスの眼鏡の奥に見える本気の目は完全に疑っていた。事実を知っているのか、それとも単純な質問なのか、何をどう答えていいか分からない。嘘を付いたとしても感知魔法なんかが存在しているのであれば直ぐにバレてしまう。
ククリの素直な心なのか、それとも嘘がバレるのを恐れたのか、自分でも分からないまま全てを話した。報告した内容は禁魔目録、魔絶の書の現持ち主の話まで。それに加えて祭司ファダルによる悪逆非道な貢ぎ物、禁魔目録所有者との決死の戦い、謎の炎、そして記憶の消去。全てを話した。
「ルナは悪くないんです。多分一人だったらもっと上手くやっていたと思います。だからこの責任は自分にあります」
驚いた表情を見せているファイアスは手を組んだまま下を向いた。報告内容を隠し通した事がやはり間違いだったか。だが記憶を消しているのだから事実上は作戦成功ではある。
「ふ……ふははははははははは!!!!」
ファイアスは一言漏らした後、これまでに見た事もない表情で大きく笑いだす。
「ああ、いやすみません。そこまで苦労した情報収集になっていたとは驚きです。それに何より君は彼女に選ばれたようですね」
「選ばれ……?どういう事ですか?」
「ルナマイアさんには今まで何度も新人騎士を一緒に連れて行かせました。そして記憶を保持したまま帰って来たのは今までロキさんだけです。私自身彼女と一緒に行ったと報告書にはありましたが何も覚えておらず……」
ファイアスは少し寂しそうな表情を見せていた。
「とにかくククリさんは優秀な事はよく分かりました。しかし謎の炎とは一体?」
「自分でも分からないんです。無我夢中で出したんですが危険過ぎてもう使っちゃ駄目な気がしていて……」
「大丈夫だよ」
「「え?」」
気が付いたらククリの背後にルナが立っていた。目の前にいたファイアスですら気付かなかったその隠密スキルだからこその諜報作戦向きなのだろうか。
「いつの間にいたんですか?」
「実はずっといたよ。君たちが忘れていただけ」
はーっ、と頭を抱えたファイアスは書類をトントンと叩いてこちらに渡した。その中には地図にいくつかピックアップされた点が書き込まれている。
「これは過去に集めていたコナミさんの目撃現場の場所です。王都も諜報部隊を作って10年程探していますがなかなか足取りが掴めていません。しかし23日前にあった最後の目撃情報はここです」
地図に指差す場所の名前は王都より南下した場所にある元魔王城の付近だった。
「ここにはロキとライボルグさんが行ってるはずでは?」
「そうです。新勢力を抑える為とコナミさんの情報を得る為に向かわせました。しかし既に7日が経過していますが帰還していないのは妙です。ここにルナマイアさん、ククリさんの二人を派遣します」
そして更に資料が渡される。そこには超機密文書である作戦内容が記載されていた。これは読み終わったら燃やさなければならない。
「ここに書かれている内容を全て頭に入れ、明後日には現場に到着する事。ではお願いします」
新たな任務の為にルナとククリは部屋を後にした。その姿をドアが閉まる直前までファイアスはこちらを見ていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
作戦内容は至極単純だった。敵勢力の確認及びロキとライボルグの生存確認。両者2名が現在も戦闘中の場合は加担せず中心となる大元へ向かいコナミと魔絶の書に関する情報を得る事。但し両者2名が既に死亡が確認した場合と大元が既に死亡した事を確認した場合は直ぐに帰還する事。
新勢力がどれくらい強いのか分からないがあのロキが苦戦するのは考えにくい。そもそも秘剣・聖光斬を放てば勢力の一つや二つも吹き飛ばせる威力だ。更には戦闘を見たわけではないが騎士に選ばれている以上ライボルグも強いのだろう。
「もしかしたら禁魔目録の所有者がいるかもね」
ルナは現場への道中歩きながら話した。既にアルケニオン砂漠を超えて魔の森の中まで入っている。あと半日も歩けば現場に到着するだろうといった場所だ。
「祭司ファダルの無限のマナもかなり苦戦させられたからな。無くは無い話だけどあのロキが苦戦だなんて」
「ククリはロキとは仲が良いの?」
「随分昔にね。今ではどうも嫌われてるみたいだけど」
「ふうん」
興味無さそうな声を出すとルナはスタスタと前に進んでいく。さっきの質問がどういった感情でこちらにパスされたのかすら分からない。
「ロキとの初任務は記憶を消さなかったって本当?何があったの?」
「忘れた」
「え?」
それ以上は言葉を返してくれなかった。本当に忘れてしまったのか、それとも言いたくなかったのかは分からない。それでもルナの顔は全く無表情のまま現場へと向かっていく。
それ以降特に話をする事がなかった。恐らく話したとして無視される事はないだろうが淡白な返事が冷たくあしらわれる様で悲しくなるからだ。心を許している相手はいないのだろうか。気付けばルナの本当の気持ちをもっと知りたいと考える様になってきていた。
「着いたよ」
想像以上に物静かな場所だった。戦地というならもっと轟音が鳴り響いていてもおかしくはない。だというのに崖の上から見下ろしたその場所は戦場はおろか何も起きてはいなかった。
「おかしい。ロキたちがここで戦闘をしていてもおかしくないのに。一体何があった?」
いくつものテントがずらりと並んだその場所は村にも匹敵する場所だった。盗難品の宝石や食べ物がずらりと並べられており近くに流れる川から水を運んでいる様子も見える。
「何も起きていない、といった所だね。もしかして迷子?」
「真っ直ぐ南下してきただけで到着したんだ。そんなわけ絶対にないはずだ」
それでもこの現状をもっと重く見るべきだ。仮にロキとライボルグを超える強者がいてそれらが一瞬にして二人を殺した可能性もある。それならば直ぐに撤退が作戦内容だ。
だが生死不明、更には戦場に紛れて行動するのもこのままでは難しい。この場合作戦内容的な問題でどうすればいいのだろうか。
「ルナは何か妙案はある?」
人任せにしてしまったが現場経験の多いルナの回答が一番いいかもしれないと尋ねてみた。しかしこれにはルナも指を唇に当てて悩んでいた。
「一度様子を見よう。この崖の上とある程度距離も取れているこの場所なら監視するには効率的だから」
そう言うと双眼鏡と寝袋をリュックから取り出して寝ながら様子を観察する事になった。砂漠途中でもテントで野宿したせいか身体が重いが仕方ない。
夜になり敵地は松明が灯されて明るく照らされていた。多くの武器を携えた兵士が声高らかに酒を飲んだり、何処かから戻って来た盗賊が盗品を見せびらかしたりもしていた。
ガラガラガラガラ
そこに馬車が一台運び出されてきた。荷台から降ろされたのは女性ばかりで手首に手錠と鎖が付けられている。
「おお!今日は多いじゃねぇか!」
「こりゃマーロックさんも大喜びだぜ!」
「馬車きやしたぜー!マーロックさーん!」
奥の大きなテントから現れたのは3メートルを超える超巨体だった。バイキングが着ける兜を被り長く伸びた髭に身体の筋肉は膨れ上がっている。恐らくあれが大元のボスだろうか。
「げーはっはっは!やるじゃねぇか、ええ!?どーれーにーしーよーうーかーな!お前に決めたぁ!」
選ばれた女は全身震え出して座り込んでしまった。
「さすがマーロックさん。こいつは魔法都市プライベリウムの近くで捕まえた魔女ですわ!取り扱いには注意してくださいねぇ!」
「げはは!それならマナもたっぷりだ!!この前ぶっ飛ばした二人と魔女ならどっちが多いかな?」
「あの1週間前くらいに襲撃してきたあいつらですか。王都の騎士だってのにマーロックさんに瞬殺ですからね!」
やはりロキとライボルグは死んでいた。マーロックというあの大男によって殺されてしまった。信じられないという気持ちと事実を重く受け止めろという任務への意識が頭を混乱させていた。
「はぁ……はぁ……。そんな、馬鹿な。ロキがあんな奴に負けるわけがない。有り得ない話だ……。任務内容は一度帰還しろと言われているけど、俺はどうすれば……」
「違うよククリ」
ルナの夜空に照らされてキラキラと光る綺麗な目はこちらをじっと見つめていた。無表情でもその顔はあまりにも綺麗で照れくさくて目を逸らしそうになる程だ。
「ルナは生きてるって思うのか?あのロキならきっと生きてるって」
「そうじゃない。任務内容は死亡を確認した場合。私たちはまだ死体を見たわけでもない。だから王都へは戻らずこのまま作戦を実行する」
作戦といってもあのマーロックの所に忍び込んでコナミと魔絶の書を聞き出すというのか。普通に考えて出来るわけがない。
その理由は二つある。一つはテント同士が近すぎるせいで恐らく話し声すらも隣のテントに丸聞こえだからだ。騒ぎにでもなれば全ての兵士や盗賊がこちらへ向かってくるだろう。
二つ目は裏口が無い事。超巨大な岩を掘って出来た場所に村は出来ており、その一番後ろにマーロックがいる。上から降りようともその真下は入口直下だ。侵入経路が正面しかないのも問題過ぎる。
そもそも村というより基地にも近かった。常に高台から双眼鏡を持った人間が4箇所に配備されていて近付いた瞬間バレてしまうだろう。
「作戦実行といってもこれはどうにもならない。結局は正面突破しか無理だ!」
「うん。だから正面突破する」
「は!?」
ルナの考えは全く分からなかった。作戦内容の応用なのだろうか。それとも本当に作戦がないから正面突破するだけなのか。どちらにしてもこの無謀な賭けにベットする以外方法は無かった。




