9. 【不滅の強欲】
チーンッ。
エレベーターは最上階へと辿り着きドアが開く。目の前には松明のみで照らされた薄暗い空間の中で3人の黒い服をきた男達が立っていた。祭司ファダルと右手左手だった。
「何をしているのか説明してもらおうか、傭兵ども」
祭司ファダルは怒りの様子を露わにした。それもそのはず、ククリとルナに剣を向けて人質として立っているのだ。ぐったりしたフリをするククリは薄目で周囲を観察していたが右手左手は剣と斧を抜いて今にも襲い掛かってきそうな予感がする。
「俺たちゃ金が欲しい!今まで散々汚れた仕事してきたけどよぉ、一傭兵として金周りが少ねぇと思っててな!周りの門兵たちも言っていたぜ、金が足りないからやる気が失われるってな!あんたらこんないい建物に住んでんだ!上げてもらわねぇと困ると思ってなぁ!!分かってんのかああ?俺たちだって生活があんだよぉ!」
行動自体はかなり派手で大袈裟ではあるが言い分自体は通じる可能性が十分にある。無駄に長く話をしているのもイイ作戦と言える。
「右足左足はどうした」
「俺の薬で眠ってもらってるぜ!なんせ俺の開発した薬の効き目はあんたがよ~く知ってるはずだ!20秒以上吸わせたから今頃夢の中でタップダンスでも踊ってるだろうぜ!半日は起きて来ないかもしれねぇなぁ!それよりもだ!賃上げをどうすんだよ!あぁ?」
「よく喋るチビだ」
祭司ファダルの右手を黒いマナが集まり始める。急速に集められたマナをコビーに向けると真っ直ぐに黒い線にも見える攻撃が飛んできた。
いち早く反応したククリはコビーの身体を蹴り飛ばして回避した。しかしその黒い線が通った先にある壁には丸い穴が開いている程に強力な魔法だった。
「あ、あ、あぶねぇ。兄さんナイス」
「右足左足の検品場所は常に監視しているからこそ我々はこうしてお出迎えが出来るのさ。エレベーターの中もしっかりと見させてもらっていたよ。で、女が起きないようで時間稼ぎといった所かな?右手左手、今すぐ全員殺せ」
「「う”お”お”お”お”お”!!!」」
怒声を上げて右手に剣を持った男と左手に斧を持った男が向かってきた。そのスピードだけでも相当な腕前だとハッキリわかる。ククリは剣を防ぎ切り、タルロスは斧を真剣白刃取りで受け止めた。
重さだけでこの男たちがどれほど強いのかハッキリと分かる。それにまるで操り人形にされているのか最初からマナも全開でその強さは尋常ではない。
「ククク、それでは私の攻撃を受け止めきれないぞ?」
黒い線は真っ直ぐと伸びてこちらへ襲い掛かるが避け切れない速度ではない。しかし視界が薄暗い上に黒い線は見え辛く、この右手の攻撃を凌ぐだけでも精一杯だった。
「クソがっ!早くそいつの剣を奪い取って俺に渡してくれ!それまでは、俺がこいつを食い止めるうおおお!!」
タルロスは真剣白刃取りをしたまま力比べをしている状態だったがかなり重たいのか足の床にヒビが入ってきていた。コビーも短剣で祭司ファダルに向かって近付こうとしているが黒い線を避けるだけで精一杯だった。短期決戦しかないという事だ。
「ずあああああ!!やってやるよ!!!」
雷のマナが部屋中に巻き起こり火花を散らした。
「やったれ兄さん!!」
「はあああ!!雷光抜刀撃!!!」
剣で受け止めた右手だったがそのまま吹き飛ばされて壁に叩き付けられた。左腕から壁にぶつかった事で左半分は血塗れになり腕の骨は砕け散っている。これだけでも高さ20メートルからの落下と変わらない衝撃のはず。
だが右手は何事もなかった様に立ち上がり動き出した。折れた左腕を千切って捨てると新しい腕は生えてきている。
「残念だったな。右足左足はただの人間だがこいつらは殺戮マシーンとして私のマナで作った人造人間だ。私のマナが枯渇しない限りこいつらは死ぬことは絶対にない」
「だったらよぉ!テメェをぶっ殺せばいい話じゃねぇのかよ!ああ!?」
「喘ぐな傭兵崩れが。私をどうやって殺すというんだ?」
「こうやってだ!!!」
右手に見せていたナイフは囮で本命は左手に隠していたクナイだった。それを投げつけると祭司ファダルは一切防御姿勢を取らずに顔に突き刺さってしまう。右目からえぐられて入ったクナイから大量の出血を始めた。
「馬鹿がよぉ!イキがるからこうなんだ!兄さん今のうちに右手を!」
「馬鹿はお前達だ」
カラーンッ……。
クナイが落ちる音がする。じゅるじゅると音を立てながら祭司ファダルの肉体は回復していった。目を復活させるとその瞬間黒い線がコビーの右腕に貫いた。動揺していたコビーは瞬間的に動く事が出来なかったのだ。
「が、があっ!!」
「私はね、永久不滅なんだ。マナも肉体もその存在がね。【禁魔目録】というものを知っているかな?それはかのメサイアが完成させた神にも匹敵する最強の魔法が7つ書かれた本だ。その中の【不滅の強欲】を私は手に入れたのだよ。人間の魂を吸い上げ自らの魂に上書きする力。その吸い上げた魂が枯渇するまで私は永久の命とマナを保持出来る。全く恐ろしい魔法だよそう思うよな!!」
体中から発せられた黒い線は何十本もの線となり部屋中に広がっていった。その力は右手左手すらも貫いてコビーの腕を引き裂き、タルロスの足を切り刻んだ。ククリはルナを守りながら線の横を捉えて弾き返していたが肩や足先など至る所に穴が開いてしまう。
「右手左手の回復を含めて今のでざっと40人分の魂を使ったといった所か。いくら使おうが勝手に増えて勝手に養分となり、貯蓄として現存するこの民全てが我が命としてあり続ける。私は神のお告げを聞く祭司ファダルであり、唯一神アジタートでもあるのだよ」
「命を、命をなんだと思ってんだ!!」
「命ぃ?そもそも命とはなんだ。この黒い線自体も魂をマナに変換して作られたものだ。私の命すらも命によって補填されている。つまり命とは私の為にあり命を不滅たる為の贄に過ぎないんだよ」
ククリは足先の回復を終えて爆発的な速度で祭司ファダルへと攻撃に向かった。しかしファダルの身体中から黒い線が何本も生える様に現れて近付く事すら出来なかった。
その間に背後から右手が剣を振り下ろしてくる。コビーは多量の出血でぐったりしたまま動けず、タルロスは左足を失っているがそれでも左手の斧を抑え込んでいた。
「お前も私の贄として加えてやろう。10秒も静止していれば肉体全てが私のマナとして生き続けられるのだ。素晴らしいと思わないか?」
「黙れ!!!」
「言う事を聞けないか。ではこうしよう」
放たれた黒い線はルナへと向かっていく。ククリは瞬時に雷のマナで追い付こうとするがもう防ぐ術はない。更にマナを足して体の一部が雷へと変化する程に速度をあげた。
ズッ……
背中で受け止めたククリは身体のど真ん中に黒い線が通っている。それをマナで補強した手で黒い線の進行方向を無理やり捻じ曲げた為、ルナに当たる事は無かった。
「君……」
ルナが目を覚ました。生きて守りきれた最高の瞬間でありながら人生が終わる最悪の瞬間でもある。黒い線を無理やり引き抜かれると力がまるで入らず床に大量の血をばら撒いた。
「ルナ……逃げろ……」
意識が薄れていく中でルナの悲しそうな表情が見えた。自分が死ぬ事でそんな表情もしてくれるんだ、そんな事も考えていた。もっと生きていたかった。もっとルナの事を知りたかった。なんて―――――――。




