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16. コナミ、死す

 コナミは恐る恐る客間のドアを開ける。

 中ではアイリは凄まじい寝相のせいか髪の毛はまるでメデューサのようになっていた。それを見てコナミは今までの不安が馬鹿馬鹿しくなるくらいにどうしてだか分からないが安心した。


 「待ってろよアイリ。俺が全部終わらせてやるから」


 決意を固めたコナミはそう告げてアイリを撫でた。

 するとアイリは目をばっちりと開いた。急な事にコナミは悲鳴をあげる。


 「うおおお!起きてたのか!」

 「待ってろよアイリ。俺が全部終わらせてやるから。キラン。なーに臭い事言ってるデスかコナミさんは。……うえ!臭い!ホントにゲロ臭いデス!」


 そう言いながら鼻を摘まんで手をぶんぶんと振り回すが、アイリはため息を一度付くと布団の上に体育座りをした。ローブに身を包んだ姿は肌けており、見る所を間違えたらまた殴ってきそうな姿勢だった。


 「それで、全部終わらせるって何を終わらせるデスか」


 アイリは明確にコナミの変化に気付いていた。コナミの瞳の奥底を覗く様にアイリは真剣な眼差しを向けている。


 「……メサイアから全部シガレットの事聞いた。アイリのお父さんの事も。本当に知らなかったんだ、全然。だから闇の使者を倒してみんな平和にして全部終わらせようって決めた」


 「そう、デスか。パパについては大丈夫デス。でも闇の使者ってどんなのかもわからないんデスよ。どうやって倒すつもりなんデス?」


 確かにイヴもメサイアもどのような奴なのか知らない様子だったし、雲を掴む程にどこに向かえばいいかも、何をすればいいかもわからない。そもそも情報源も乏しい駆け出し冒険者のコナミが見つけられるような相手ではないし、コナミが見つけ出して倒せる相手ならイヴやメサイアがとっくに見つけて片付けている。口先ばかり先行したコナミは自分の馬鹿さ加減に頭を抱え込んだ。


 「……でも気持ちは嬉しいデス。私も闇の使者を倒す為にここまで来た身デスから。旅の目的も一緒なら旅もしやすいってものデスよ」


 励ましのつもりかわからないけどアイリと話すと勇気を貰える。コナミは小さく頷いてそのまま眠りについた。


 まだ旅の始まり。

 あの頃ディバインズオーダーに来た時と全く同じと考えたらいい。色んな事が山積みのようにやるべき事として降り積もっている。


 1つずつやって今度は【英雄】コナミになってみせる。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 「キャアアアアアアアアアアアア!!」


 子供の悲鳴が聞こえてコナミは飛び起きた。


 ベッドを飛び起きて大窓を覗くと魔法都市プライベリウムは燃え盛っている。

魔物に襲われ逃げまとう人々、魔物に立ち向かう兵士たち、なぶり殺しに合いながら食われて死んでいく。


 以前見た悪夢と全く同じだったが、見た場所の位置が全く違う。あの時は高所から見下ろしていたが、この状況は先程までアイリといた場所と同じ客間だった。


 「なんなんだ、これ。まさかシガレットがやった厄災の追体験をしてるって事なのか?」


 「……フレット……嫌……嫌アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 外でリン王女の大きな悲鳴があがる。恐らくフレットが殺されたあの瞬間だろう。

 客間のドアを開けると既に城内にも火が点いていたのか燃え盛っている。それでもコナミは裏門へと全力で急いだ。


 力強く裏門を開くと、眼前に広がるのは血の海。

 リン王女が惨殺されたフレットの手足や色んな臓物がそこら中に飛び散っていたのをかき集めている。更にすぐ側にはフレットを殺した大型の魔物がいて既にリン王女を狙って腕を振り上げていた。


 「リン王女逃げろおおおおお!!!!」


 リン王女はハッとこちらを見る。目は涙は流し過ぎたせいか腫れあがっている。綺麗な白いドレスだったものは血塗れで赤く染まっていた。


 悪夢が歴史の追体験なら時期にメサイアのバリアとホーリーレインが来る。になるはず。だが考えが巡るより前にコナミの身体はリン王女を助けるために剣を持って魔物に突っ込もうとした。


『―――何をしようとしている』


 背後に何者かが立っている事に気付かなかったコナミは急に手が伸びてきて首根っこを掴まれる。そのままコナミの身体は持ち上げられて、引きずり回されるように引っ張られた挙句、裏門から城内へと投げ飛ばされた。


 とてつもない力で客間のドアの前に衝突したコナミは血を帯びた咳をゲホゲホと吐き出す。


 「ゲホッオエッ…なん……だ?」


 コナミは足を引きずりながら立ち上がるが左足に重い痛みが走る。骨を折った経験はコナミにはなかったが、折れていると直感できる程に足は思うように動かない。


 目前には燃え盛る城内の中を進んでくる"そいつ"の姿が見えた。まるでヴァンパイアを思わせるような風貌。大きな黒のマントに白いスーツに蝶ネクタイ。白くて長い髪の毛は全て後ろで纏められている。


 「何邪魔しようとしている。この闇の使者・ウロボロスが善意で行っているというのに」


 闇の使者――――――!!!

 その言葉にコナミの目に殺意の炎が灯り、興奮状態のせいか頭は真っ白だった。

 コナミは剣を抜いて上に振り上げる。


 「一体なんなんだお前は。だが急がなければ。フィナーレは近いから急ぎ足忍び足で質問するぞ。お前は言霊(ことだま)をいくつ集めた?」


 「十文字斬りィ!!!!」


 一心不乱に大きく振ったコナミの剣をウロボロスはひらりと避けていく。質問の意味も理解もする必要がない。足の痛みなんて知った事か。今ここでこいつを殺してしまえば全てが終わる。コナミは続けて剣を振り続ける。


 「どうして質問に答えない」

 「闇の使者!お前を殺してやる!」


 その瞬間、ウロボロスはコナミの頭を掴んで壁にめり込んで押し付けた。コナミは頭中から血を流してそのまま倒れ込んだ。あまりにも力の差があり過ぎる。


 「質問に答えろと言ってるのがわからない?どうしてなんだ!?」


 そう言うと血だらけの頭を何度も踏みつけてくる。踏まれた拍子に鼻の骨が折れて今まで味わった事がないほどに血が飛び散った。


 「こ……これだけの人を殺しておいて、シガレットは何がしたいんだ…!!」


 「さてな、それもどうしてだろうな。あの方は高貴で偉大で選ばれし存在。だが何故お前の様な何の力も持たないゴミがこれ程豊潤な能力を得ている。答えろ、答えろぉぉぉオオ!!」


 支離滅裂な発言を言ったウロボロスはイライラしているのか頭を掻きむしった。


 「何言ってんだっ……てめぇえええええ!!」


 シュッ


 コナミはそれでもウロボロスに立ち向かったが、剣を持っていたはずの右腕は文字通り無くなっていた。遠くで物が落ちる音と金属の落ちる音がする。振り向くとそこにはあるはずの右腕と剣だった。


 「うわぁああああ、お、お、俺の俺の俺の手がぁぁあああああああああ!!」


 今までに見た事のない量の血と想像を絶する痛みと絶望が身体中を駆け巡った。


 「早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!!あああイライラがあああ!!血ィ血ィ血ィ血ィ血ィ血ィ!!!」


 そう言うとウロボロスは切れ落ちた右腕を拾い上げてそこから血を飲み始め、更には腕を食い千切り食べ始めた。コナミはウロボロスの異常行動と激しい痛みと圧倒的な恐怖で床を転げまわった。


 死ぬ。死ぬ。死ぬ。


 死への恐怖心が収まる事がなかった。

 身体はどんどんと寒くなっていくのに身体から流れる血がこんなに温かい。


 「あぐ……あ……ゴホォ……ゲボォ……」


 「ふう……やはり血はいい。私落ち着きましたがお前はいかがかな」


 力が入らない、立つ事も目を開けているのも億劫になる程に体が重い。

 死という感覚がゆっくりとじっくりと圧し掛かる。


「ああ、もう終わりか。少し残念だがフィナーレの時間だ。またこの豊潤な時を結び今度は言霊を以て語り合おう。今度はこの世界の答え合わせをしようではないか」


 そう言い残すと目の前は真っ白になって身体は溶けて消滅していく。


 この光はメサイアのホーリーレインだろうか。強大なその力を前にして絶望の光はテレビのチャンネルを変えるかのように暗闇へと変わり、コナミは死んだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 コナミは静かに目を開けた。

 アイリはいないがふかふかのベッドに客間の天井。まだ生きている。


 途端にカチカチと歯が鳴り身体は震えだす。圧倒的な力と死の恐怖を味わったコナミは絶望の余り、先程までアイリに強く放った言葉を全て無かった事にしたいと思う程に、決意を崩壊させるには十分だった。


 「あれが……闇の使者か。は、ははは、勝てるわけねぇな」


 速さ、力、狂気。何もかもが今のコナミでは勝てる相手ではなかった。マエストロや雑魚モンスター等とは格が違う。もし夢の中で無ければ確実に殺されてしまっただろう。


 「今はまだ闇の使者には会いたくはないな……。死にたくねぇよ……」


 死に対する恐怖と生に対する執着はどれ程までに人を足踏みさせるだろう。それでもコナミはアイリの寝顔を見て自らの情けなさと葛藤し続けていた。

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