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15. ハーベスト

 世界の真実を知ったコナミはこのまま倒れ込んで眠りたい所だったが気分が悪くなってきて一旦入城した裏門から外に飛び出した。現実を突きつけられたコナミは吐いた、そして泣いた。


「フィルス……みんな……俺、どうしたらいいんだ……」

「大丈夫か?」


 ふと顔をあげると魔法都市を巡回していたであろう兵士がこちらを見ている。

 鉄仮面に鎧姿なので一般的な傭兵のNPCだろうか。兵士は背中をさすってくれてコナミの気分も落ち着いてきた。


 「おめぇさん、もしかしてリン王女に招かれた客人だな。ほれ、水だ。飲みな」


 兵士は腰に携えた竹でできた水筒をこちらに渡してきた。コナミはそれを一気に飲み干して咳込んだ。


 「おいおい慌てて飲むんじゃない。すまないな今のが最後だ。俺は魔法が苦手でみんなみたいに水を出してやれない」


 「ありがとう……ございます。すみません」


 兵士は鉄仮面を外してニッコリとほほ笑む。兵士は黒髪短髪の爽やかイケメンといった所だろうか。頬に大きな引っかき傷がついている。


 「ああ、この傷か?俺は昔ビルダーズインで冒険者をやっていてその時にメギドドラゴンと戦った時にやられちまってよ」


 「メギドドラゴンってそれ、魔王城付近じゃないか。へぇぇ……意外とすごい冒険者だったんすね」


 魔王城近郊にいる魔物でありメギドドラゴンはかなり手強い相手だった。シガレットだった頃に討伐する事があったがそれでも苦戦を強いられたのが思い出深い。


 「おめぇさんもメギドドラゴンを知っているのか!おめぇさんこそ凄いじゃないか!なぁ、名前はなんて言うんだ?」


【英雄】シガレット


 名乗れるわけが無い。この兵士も当然知っているだろう。

 【英雄】としても、厄災を起こした本人としても、世界の裏切り者だと言うことも全て知っている。


 「あ……いや、そんな話を聞いただけ、です…。俺は駆け出し冒険者のコナミって言います」


 「そうだったか。いや気にしないでくれコナミ。俺はハーベストだ。一般兵士相手に客人様から敬語はいらないぜ!はっはっは!」


 そういうとハーベストは大きく笑ってがっしり握手してきた。愛想もいいし元気で優しく活発的な所から見るに体育会系な対応に陰キャのコナミは少し戸惑っていた。


 「コナミが何に悩んでるかはわからないが誰にだって辛い事もある。クヨクヨ悩むより明日を見るんだ。生きてさえいれば明日が見れる。なら明日楽しい事を探そう。それが冒険者だ。そうだろ?」


 ニカッと笑うハーベストがあまりにも眩しすぎた。コナミの中で何も知らないくせにと振り払いたい気持ちと、落ち着かせようとしてくれている事への感謝の気持ちが入り交じる。心がむず痒くて仕方がなかった。こういう所が社会不適合者としてダメなんだろうかと痛感もした。


 「ハーベストさんはいつから兵士をやってるんですか?」


 メギドドラゴンと対峙した冒険者ならある程度名を馳せていると思ったが、よくよく考えてみればそんな名前を聞いた事もなかった。


 「ん、ああ。実は災厄の後にずっと眠っていて最近目覚めたんだ。それよりコナミ、おめぇさん目が死んでるぞ。今日はばっちり寝るんだぜ」


 きっと厄災の日に戦って意識を失ったのだろうか。

 ハーベストはコナミを立ち上がらせると肩を貸しながら裏門から城の中に二人で入城した。そのままハーベストは肩に背負ったままで客室へ送ってくれた。だがコナミは客室のドア前で立ち止まった。


 「ま、まてまてまて待ってください!俺はここには戻れない」


 客間に戻ればアイリもいる。どんな顔をして会えばいいのかわからない。ブルブルと震えるコナミの肩にそっとハーベストは手を伸ばした。


 「さっきも言ったろ。誰にだって辛い事もある。でも俺も兵士として役目を果たしてる。おめぇさんの役目はなんだコナミ」


 「役目……。俺は、闇の使者を全て倒さなきゃいけない……と思います」


 恐らくそれしかない。さっき魔法図書室に記載されていた話とメサイアやイヴの話から推察するに闇の使者を倒せば世界を滅亡させようとする災厄はもう来ない。それなら闇の使者を倒せばもう誰も辛い想いはしないはずだ。


 しかしハーベストは大きな声で笑い出す。


 「はっはっはっは!!駆け出し冒険者が闇の使者を倒すか!コナミは本当におもしれぇな!ははは!」


 厄災を見たであろうハーベストからすれば駆け出し冒険者が倒すなんて見当違いも甚だしいといった所だろうか。コナミは自分の立場を理解していない発言をしてしまった事に恥ずかしさも感じていたが、心ではもう決めていた。


 「いえ、倒します。絶対に。アイリの為に、仲間の為に、世界の為に今やれる事をしよう。そう決めたんです」


 すると笑っていたハーベストはこちらをしっかりと見た。決意を知ってもらえたのかハーベストの目は凛々しさと強さがあった。コナミも負けずにハーベストを真っ直ぐ見る。


 「強いぞ、闇の使者は。それでもやれるか」

 「はい」


 即決な答えを出すとハーベストはまた笑い出した。そして背中をバシッと叩く。


 「わかった。楽しみにしてる。お前が世界を平和にするその日をな」


 そう話すとハーベストは鉄仮面を被りなおして立ち去って行った。

 シガレットがディバインズオーダー全土を巻き込む災厄を起こした事は事実。それによって多くの人が苦しんで悲しい想いをしただろう。分身として放った闇の使者を倒せばもう二度と起きない。


 きっと無理だと思われていても馬鹿にされていたとしても、もう一度なってみようと決めた。



 ――――この世界の【英雄】に。


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