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134. 勇気は一瞬、後悔は一生

燃え盛るシルエッテの手はゆっくりと地に落ちた。魔物達三体はそれを見ると少し安堵した表情を見せる。


『ナイスカバーだぜ~エキドナ。今のはマジで危なかった。まずは一人だ』

『あれ程のマナを使った後にあの傷では勇者ももう動けないでしょう。ここで終わりです』

『こやつを殺すのは私ですゾ!絶対に許しはせんゾ!』


三体の魔物はじりじりと距離を詰めてきている。


「嫌よ、そんな、シルエッテ。やだ。私を独りにしないで。お願いよ。怖い。嫌……ああ……あああああ!!!」


コナミは燃えたままシルエッテを抱き寄せた。炎耐性の魔法をかけてくれたのに炎はコナミの身体へと燃え移って行く。つまりもうシルエッテは死んでいた。


「何度やらかせば俺は分かるんだよ。何度も何度も!俺は誰一人守れない!!」

『孤高になれコナミ』


「なぜ能力を使わなかった!なぜだ!なぜ!!あの言葉を無視していれば未来を変えられたのになぜ!!」

『孤高になれ』


脳裏に走るウロボロスの声はどうしようもなくコナミの心を落ち着かせていた。初めから誰かに頼ろうとするからこうなってしまう。分かってる。誰も守れない。誰も救えない。


「………もういい。もう、いいや」


『待ってコナミ。それは――――』


「黙れウラノス。―――――【英雄】」


三体が次の攻撃を始めようとした時だった。コナミは【英雄】の能力を完全開放したまま始動。傷はみるみるうちに回復し供給されるマナもあってかその力は今に殺しにかかろうとしていた魔王軍幹部の足を止める。


『なんだ……これは!!この力は一体!!傷が治っちまった!』

『それだけではありませんわ!魔王様に匹敵するこのマナの量、これは一体なんです!?』

『わ、私たちは一体何と相手しておったんですゾ……!?』


狼狽える三体は一歩も前に進む事は出来なかった。それどころかコナミが優しくシルエッテの遺体を置き一歩進むと、それに合わせて魔物達が一歩退いてしまう。


『そこをどけ』


『魔物の言葉を!?こいつ、何者ですか!!』


『関係ねぇ!こんなバケモンを魔王様に合わせるわけにはいかねぇだろ!!ウオオオオ!!!』


バルフレアが右腕に炎を込めて殴りかかるが、目にも見えない速度で振り上げた剣が右腕を切り裂く。斬られた事にすら直ぐに気付けなかったバルフレアはワンテンポ遅れて自らの敗北を悟った。


『馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な。こんな、こんな事が!!』


『もう一度言う。そこをどけ』


バルフレアは見っとも無く蹲ったまま静止した。エキドナやミームも酷く冷や汗をかいたままゆっくりと離れるが、忠誠心もあってなのかマナを込め始める。


『やめろ!幹部たちよ、そこを動くな。ここまで通せ』


奥の部屋より魔王パーシヴァルの声が聞こえてきた。するとエキドナは自らのマナを掻き消し、ミームは悔し泣きをしながら剣を落とした。


『そのままこちらへ来い勇者よ』


魔王の言葉に操られるかのようにコナミは歩き始めた。だが背後にいたマイヤが震えた声で言い放つ。


「殺して」


マイヤは燃え尽きたシルエッテを抱き締めたまま泣き顔よりも怯えた表情に近い顔をしていた。


「シルエッテが死んじゃったよ。ねぇ、殺して。ねぇ。私、私は、どうすればいいの。エンメイ。殺して。お願い」


『そいつに手を出せば確実に殺す。エキドナは遺体と一緒に外に連れていけ。いいな』


エキドナは反抗的な目を出そうとするが、コナミの目を見て怯え切った顔をした後マイヤと遺体を連れて行った。


「初めからその力を使ってればシルエッテは死ななかった。貴方が殺したんだ。シルエッテを返して!返せ!!エンメイ、エンメェェェェエエエエイ!!」


エキドナに捕まえられながらバタンと扉が閉まると途端に静寂となった。バルフレアもミームも戦意はなくその場で俯いたまま微動だにすらしていない。


これで本当に独りだ。

初めからこうしていればよかった。

そんな後悔ももう必要ない。

初めから孤独の旅なのだから。


「行こうウラノス」


『……そうだね』


ウラノスは本当に小さな声で答えた。

コナミとウラノスはあくまで互いが互いで孤高であり、協力関係というよりただの運命共同体。お互いの理想の為だけの関係。これを仲間と呼ぶには余りにも無理がある。そんな関係


だからこそコナミはウラノスに声をかけたのだった。最後の決着の為に。


扉の前に立つと勝手に開いていく。そこは以前来た時とは違った玉座の間で、柱が連なりレッドカーペットを敷いたその先に大きな椅子がありそこに魔王は座っていた。


『魔王パーシヴァル……』


その姿こそ初めてお目にかかる本物の魔王パーシヴァル。体格は3m近くはあるだろうか。黒い甲冑に黒いマント。そして黒く長いセンターパートの髪の毛の隙間から額にも閉じたままの目が見える。肌は赤く筋肉も十分にあり鍛え上げられている様だ。


何よりも見ただけで分かる何者をも超えたその圧倒的な強さ。闇のオーラが溢れんばかりに解き放たれている。


『貴様が勇者か。なんだその顔は。勇者と呼ぶより魔王と言った方がずっとお似合いだ。この俺ですらその殺気は出せまい。何の恨みがあって俺を狙う』


『そんな事、お前には関係ない』


『それもそうだがお前の目はよくない。一体何があればそんな――――』


ズギャアアア!!!


コナミが剣を振るうとパーシヴァルは避けて魔王の椅子が真っ二つになった。立ち上がったパーシヴァルはマントを跳ね除けると腰に下げた剣を握る。グリップが杖で剣心が黒く鋭い剣が一体化した武器を手にした。これが本来の魔王パーシヴァルの剣。


『どうやらお前は"手遅れ"の様だな勇者よ。お前の魂を破壊せねば救われない様だ』


『こっちは時間がねぇんだ。もう何もしてなくても消される可能性がある。俺が全てを終わらせてやる』


『……わかった。もう何も言わないさ』


凄まじいマナがパーシヴァルから流れ出ると地響きすら起こる程に大気が震えていた。見えるだけのマナの総量だけで言えば魔王勇者の頃よりも遥かに上かもしれない。


『行くぞ!!勇者!!』


『ずああああ!!!』


勇者エンメイを名乗るコナミと魔王パーシヴァルの世界を救う最後の戦いが始まった。

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