133. 運命のシナリオ
バルフレアは攻撃を防がれた事に苛立ちを覚え、ミームは怒りを顕わにした顔付きをしていたがエキドナだけは状況を冷静に判断していた。恐らくエキドナがこの場で最も危険な存在だろう。
『バルフレア、ミーム。私が魔力を練り上げて全てを葬ります。少しだけ時間を稼いでください!』
二体は我に返ったかの様に小さく頷くと間合いを広げてきた。そしてエキドナは両手に強大なマナを集め始める。これが戦法の中で一番厄介なパターンだ。
仮にエキドナに一点集中で攻撃したとしても他二体が阻止してくるし、仮にエキドナを討てたとしても後方にいるマイヤとシルエッテを危険に晒してしまう。
本来このパターンの場合メサイアの強大な魔力で対抗していたが今の二人にそれを任せるのは無理だろう。この場の攻撃を全て解決するのであれば能力を全開放してエキドナの首を取り、瞬間移動で戻ってマイヤとシルエッテを守る。だがそんな力を使ってアルテウスに見つかったら全ての計画が終わってしまう。
「今までの運命にいた俺ならどうこれを超えたんだクソッ!」
「エンメイ!」
「エンメイさん」
二人に呼ばれて振り返るとこの絶望的な状況下でも笑顔でいた。おんぶにだっこではあるけどそれでも信じてくれている。応えない訳にはいかないよな。
「俺に任せろ!」
能力についてアルテウスに気付かれるパターンを考えるんだ。
まずデストレイズとレイテの英雄の能力。小出しにすれば問題なく使えるが、全開放している今では調整がかなり難しい。使うなら技を繰り出す一瞬だけがベストだろう。仮に死にかけた場合の復活として使用する場合は能力に制限が利かないから危険が伴う。
次にウラノスの瞬間移動。これなら既に試しているが問題ない。数メートル程度の位置関係の移動なら超高速移動に見えなくもないし秩序が乱れると判断される事はまずないだろう。
そしてクロノスの未来改変は世界の秩序を大きく乱しかねないから使用は絶対に出来ない。だが未来視ならきっと問題はないはず。
『こやつらめ、エキドナを警戒して攻撃をしてこないですゾ!』
『だがあれ程練り上げたマナ総量は魔王様にも匹敵するぜ~。これを突破できる術なんて今の奴らじゃ不可能だ。どの道終わる』
二体はエキドナのあのマナにかなりの自信があるようだ。だったらこっちも対抗出来る技を繰り出すだけだ。
「秘剣……」
光のマナを集めたコナミは秘剣・神龍閃の準備をした。英雄の能力を瞬間的に使用すれば相殺かもしくは三体とも巻き込んでダメージを与えれるはず。だが未来視に映った景色はそう甘い結末を見せてはくれていなかった。
「こ、これは……一体!どうして!!」
神龍閃を放つ前にバルフレアとミームが攻撃を仕掛け、それを庇う様に前に出たマイヤとシルエッテ二人が殺されていた。更に放たれた神龍閃はバルフレアの右腕を奪いながら突き進み、エキドナの魔法と相打ち。
数秒後にはこの未来が確定で来てしまう。未来改変をしなくては――――!!!
『ダメだ、コナミくん!未来改変だけはマズい!!あれは全世界に影響が出てしまう!世界の秩序が確実に乱れる!』
ウラノスの声が遠くで聞こえてくる。だが既にバルフレアとミームはこちらの光のマナに気付いて向かってくる寸前だ。
『今の私には魔物の移動は出来ないけど女の子どちらか一人なら後方へ少しだけ移動が出来る。どちらか一人だ、そんなに大事なら死ぬ気で守りなさい』
「くっそ!!やってやるさ!!」
ウラノスは能力を使うとマイヤが少しだけ背後に下がった。
「え、何が起きたの!?エンメイ、シルエッテ!!危ない!!」
その瞬間コナミは過去のシガレットの事を思い出す。
【魔王軍幹部のバルフレアという炎の様な髪型をオールバックにしながら常に筋トレをして自らを高めている。バルフレアは友好関係には協力的ではなく、ただ戦闘を楽しむタイプだ。エンメイ一行との戦闘で右腕を失ったものの、魔法使いを殺して勇者一向に大きな痛手を与えた唯一の幹部だ。】
ハッ。コナミは気付いた。
【 魔法使いを殺して勇者一向に大きな痛手を与えた唯一の幹部だ。 】
つまりこのまま運命のシナリオが変わらないならバルフレアにシルエッテが殺されてしまう。逆にこれさえ阻止してしまえば運命は大きく変わるんじゃないのか?
エキドナの大魔法、ミームとバルフレアの攻撃、身を挺して庇おうとするシルエッテ。エキドナの魔法に対抗できるのは秘剣・神龍閃のみ。だがミームとバルフレアの攻撃を阻止する為には一度秘剣・神龍閃のマナを解かなくてはいけない。
どうしたら全ての攻撃を止められる。どうしたら!迷ってる時間は――――。
「ない!!!【英雄】!!!」
シルエッテが前に出ようとした道を防ぐ様にシルエッテの前に移動する。未来視で確認した結果はまだシルエッテの死が確定している。このままの状況では何も変わらない。
「シルエッテ!!下がれ!!!」
「エンメイさん!!」
やらせるもんか、やらせるもんか、やらせるもんか!!ここで運命のシナリオを変えなくて魔王パーシヴァルとの戦いで変えるなんて絶対に出来ない!!
「俺が運命を変えてやる!!!秘剣・神龍閃!!」
放った神龍閃はエキドナではなくバルフレアへ向けて放った。だがその殺気の矛先の変化に冷静に気付いていたのはエキドナだった。
「レイテント・アポカリプス」
「なっ、なにぃ!!!」
眩く黒い宇宙の様な暗黒魔法はバルフレアを守る様に神龍閃を相殺させた。既に振り下ろした腕はもうどうしようもなく戻す事は出来なかった。
『今ですゾ!!我が家族の恨みじゃ!!』
『死ね!!!』
先に突撃してきたミームの剣がコナミの左腕を切り裂いた。まだ切り裂かれた腕が床に到達すらしていないのに既にバルフレアが拳を振り上げている。バリストンの攻撃をくらった瞬間、【英雄】を再起動すれば問題ない。そしてそこから反撃して―――――。
「イヤぁぁぁああああああ!!!フレアエンハンス!!」
シルエッテが炎耐性の魔法をコナミに授ける。そしてシルエッテはコナミを前から抱き締めた。
「エンメイさん、生きて―――――」
ドゴオオオオオオオオ!!!
そのままバルフレアの一撃を受けてコナミは吹き飛ばされた。左腕は斬られて出血が止まらず攻撃を受けた腹部は肋骨が何本か折れている様だ。
だがその痛みが到達する前にコナミは見てしまった。
ありとあらゆる全身の肉体が焼かれ、腹部に風穴が開いているのに溢れるはずの血は蒸発していく。シルエッテは燃えたまま見えていないはずのコナミを探して手を伸ばしていた。
運命のシナリオは変わる事無く進み続ける。




