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122. 誰かの平和の為に

 仲間の死体が次々と増えて行く。

 コナミ達の更には体力も魂もドンドン削られていく。


 だがそれはウロボロスも同じだった。


 「実にいいぞコナミ。ハーッ……ハーッ……。先程の一撃は今までで最も重かった……」


 間一髪でウロボロスは交わしていたのか左腕が吹き飛び顔半分が焼け焦げて爛れた皮膚が見えている。肉が抉れたせいか心臓が脈打っているのも肉体から見える程だ。


 「なんで生きてんだよ……ちくしょうゲホゴホッ」


 「ハーッ……お互い限界の戦いだなククク」


 ウロボロスが血をなびかせながら襲い掛かった瞬間、ウロボロスの頭上から大きな光が見える。


 「ホーリーレイン!!!」


 「邪魔をするなあああ!!」


 ウロボロスは光を切り裂きながら自身を防いでいる間にメサイアはこっちこっちと手を招いている。コナミは急いでメサイアの元へと駆け寄った。


 メサイアはぐったりとしたまま動かず、アイリもかなり疲れているのか息のペースが早く、視点すら定まっていない。


 「わたしはもうこれ以上は戦えない……。前の戦いでも……そうだったけど……3種の魔法を同時発動すると……内蔵するマナルテシスを痛めてしまう……。今の足止めも……精一杯……」


 メサイアは大きく息を吸ったり吐いたりして苦しそうにしていた。肺を潰されたかの様にコヒューコヒューと変な音まで鳴っている。


 「アイリちゃんも……かなり限界だけど……わたしの残ったマナを……コナミとアイリちゃんに分けるから……後はお願い、ね……」


 「待て、それで死ぬとかそんなのだったら受け取らないぞ!」


 「死にはしないけど……終わったら動けないから助けに来てね……。足止めももう限界……急いで!!」


 アイリとコナミの手を無理やり取ると光が流れ込み始めた。強くて優しくて気弱なくせに内なる自信が湧いてくる、そんなメサイアらしいマナが魂も安定させた。


 「だったら俺のも持って行ってくれ、少ないかもしれないがな」


 クルサーノは皮膚から貫通した糸を息絶える程にマナで封じ込めて何とか生き延びていた。しかし出血は収まらず既に死にかけだった。


 「俺はあのクソッタレに一撃でも入れられて満足だ……。コナミの役に立てたんだからよ。これで貸し借りは無しだいいな」


 余裕そうに見せながらコナミの手を掴みマナを送り込んだ。その量は死にかけのクルサーノが送れるであろう量を遥かに超えている様に感じた。


 「クルサーノ、まさかお前!やめろ!」


 手を放そうとするもクルサーノの握った手は力強く一切離れなかった。


 「メアリーが死んじまった。俺はアイツにも早く迷惑かけた分返さなくちゃいけない。だから駆け足で会いに行かないとな」


 「ふざけるな!!そんな事望んじゃいねぇよ!!」


 「いいかコナミ。お前を【英雄】と見込んでの俺の全てをお前に賭ける。だから負けるなんて無様な真似は許さないぞ。もし直ぐにこっちに来てみろ。ぶっ飛ばしてやる!」


 クルサーノが握る手の光はゆっくりと命の灯を消していく。その意味を分かっていたコナミも強く握り返した。


 「じゃあなコナミ」


 そう言い残すと穴という穴から血を拭きだしてクルサーノは死んだ。出会った最初から最後まで偉そうでリーダー向きの奴だった。あんな出会い方じゃなくもっと早く知り合っていればと思う。


 「クルサーノ……。勝つよ。約束だ」


 コナミは握っていた手を額に当てて約束を立てた。


 「あ……コナミさん……ワタシ……」


 目が覚めたアイリは寝ぼけている様にコナミにくっ付いた。マナ切れの影響もあって脳の処理が追い付いていないのかもしれない。


 「おい、アイリ!まだ戦いは終わっちゃいない!」


 「ハッ!!そうデス!どうなったデスか!」


 「ここにいる3人とスイレンちゃん以外……全員死んだよ……。わたしももうマナを使えないから……戦力外……。もうすぐ残ったマナで作った……ホーリーレインも切れる。あとは……宜し……く……ね……コヒュー、コヒュー」


 呼吸を大きく吸ったり吐いたりして喋る事すらままならなくなっていた。魔王城での戦いも生死を彷徨っていたのを思い出す。3種の魔法を重ねるのは魔法の限界を超えているのかもしれない。


 「ごめんごめん、遅なった!アチキもだいぶマナ削ったもんでな。さて、えらい状況になったけどこれでホンマに最終決戦や」


 「この後にシャックスとも戦うって考えただけで俺はゾッとするぜ。だからもう誰一人死ぬんじゃねぇぞ」


 「当然デスよ。ま、一番先に死にそうなコナミさんに言われたくないデスけどね」


 2人はぷくくと笑う。ナギアとも3人でこんな旅をしていたんだろうか。こんな平凡で何気ない平和が好きだから守らなきゃいけない。


 死んでいった仲間の為に。誰かの平和の為に。


 最後のホーリーレインを吹き飛ばすとウロボロスはだらだらと血を流しながらこちらを見た。左目も大きく飛び出して落ちそうな状態でギョロギョロと見ている。左手は既に無く身体半分が黒く焼け焦げたままで右手の剣すらマナで制御が利かないせいか蠢く手足や口が生えている。


 「あんなんバケモンやないか……」


 「なんで平然と立ってられるんデスか……」


 ウロボロスは見た目こそ今にも死にそうな状態ではあったがその気迫や闘志、強さを見せる禍々しいオーラ、そして背筋を凍らされる程の殺気。本来有り得ないはずのボロボロの身体からはやる気満々と言わんばかりの闘気を感じる。


 「お前は孤独であり孤高であるべきだコナミ。そうでなくては私の真の理想は達成出来ない。お前は私だ。だからこそ理解しそれを受け入れるはずだ」


 「孤独だなんて無理だな。俺には信じた仲間がいる!ウロボロスと俺の違いはそこだ!だから俺は仲間の未来の為にも負けられねぇんだよ!【英雄】!!!」


 コナミが突進しながら突っ込むのをアイリが上手にカバーしていた。目くばせしながらタイミングを合わせてウロボロスに立ち向かうが腕が1本しかないのにそれでも力も速度も一向に衰えてはいなかった。


 「神によって捻じ曲げられながら創造され、秩序という名目で命を弄んだこの世界が正しいというのか?魔王勇者パーシヴァルもそこから産まれたシガレットも闇の使者である私も、そしてその全てを解決する為に呼ばれたコナミも正しいというのか!」


 「何が言いてぇんだよ!!」


 「全てを無に帰す。それが私の真の理想であり目的だよ」


 「世界中の人を殺すわけデスか!結局アナタは戦闘狂のイカれ野郎なだけデスよ!」


 「何も分かっていないな。この世界こそ作られた偽りの世界だと言う事に」


 アイリの一撃で態勢が崩れるがウロボロスは直ぐに立て直し、コナミとアイリ共々一緒に吹き飛ばした。


 「何てパワーや。華水鬼・炎天!」


 ウロボロスの顔が一瞬燃え上がったと思った瞬間、目にも止まらぬ速度で【次元時空】を発動して魔法を掻き消した。コナミの魂の擦り減りを理解したのか未来視を使わないと解除出来ない様に対策してきたのだった。


 「なんや!?アチキの魔法が消えた!?」


 「まずは鬱陶しい魔法使いのお前を処分する。魔物と人間との和平等と夢を見る愚か者め。最後は闇の使者に滅ぼされるとはな。さっさと先に逝った醜き魔物共に挨拶してくるんだな」


 「あ?なんやわれ。アチキに喧嘩売っとんのか」


 スイレンから溢れる冷たい殺気は刺される様な痛みすら覚える程強く放たれた。これが本来のスイレンの本気なのかもしれない。


 「コナミ、アイリちゃん。手ェ出すなや。アチキがしばいたる」


 「待て!一緒に―――」


 「黙っとれや!アチキの家族を侮辱されたんやぞ!!」


 その目は明らかに本気でこちらにも飛び火する程に鋭く、威圧が凄すぎて恐ろしくなりコナミは身体が竦んでしまった。


 「今度はアチキがあのボケの相手したるさかい、その隙にマナ込めて一撃で粉砕したれ!」


 「ああ、でも無理すんなよ」


 「誰に言うとんねん」


 スイレンについてはそこまで多くは知らないが、戦闘経験もかなり多く積んでいるのは確かだ。アイリも心配している様子も無くむしろ信用している風にも見える。


 「いいのかアイリ」


 「大丈夫デス。スイレンさんならきっと」


 コナミは静かにマナを集め始めて秘剣・神龍閃を放つ準備に取り掛かった。アイリよりも早くこの一撃でウロボロスを倒し、シャックスに乗り替わった時点でアイリの秘剣・聖光斬で止めを刺す。


 僅かな希望を胸にスイレンとウロボロスの戦いが始まった。

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