119. 万物への適合
コナミはディバインズオーダーで多くの戦いをしてきた。それはここに来る前からのシガレットとしての経験もその中に含まれている。
ダンジョン攻略やギルド依頼でのモンスターとの戦闘やPvPとして人間とも多く戦ってきた。こっちに身体が移動してからも命を懸けた戦いに何度も挑んできた。その中でどの相手も戦い方やマナの動き癖がある。タイミングを見極めたりマナの種類で防御するマナを変えるのは戦闘に置いて至極当然な事だ。
だが、このデストレイズには一切それが見えない。双方の手に持った鎌なのか、それとももう一方の双方に構えた光と闇のマナなのか。そもそも余りある邪悪や慈愛が混ざり合い過ぎてどういった感情を持ち合わせているのかすらも分からない。
「どうした。先程の威勢がないぞコナミィ」
真正面から挑んでも双方の鎌を潜り抜けるのは至難の業。瞬間移動で裏を取っても手に込めたマナが範囲攻撃かつ即時発動なら一瞬で殺される可能性も十分にある。ならば―――。
コナミは集中して未来視を使った。攻撃の予兆、それから分かる予測で攻撃を避ける事が可能だが全くその様子が見えない。いつ攻撃してくるのか全く分からない。単純に近い未来で攻撃していないだけなのかもしれない。つまりカウンター待ちか?
「うるせーよ!俺のタイミングでやらせてもらう」
一度未来視の能力を解いて雷のマナを十分に身体に溜め込んだコナミは重ねて瞬間移動をして背後を取った。さてどうカウンターしてくる。
「雷光抜刀撃!!!」
動く気配はない。攻撃も確実に首筋に届く。いける!!
「コナミさん!後ろデス!!」
「え?」
振り返ると鎌を振り被るデストレイズの姿があった。だが確かに目の前と背後の両方に存在している。コナミは雷光抜刀撃の向きを変えようと思ったが確実に間に合わない。未来を改変するにも未来視を解いたせいで確定された未来でないと改変出来ない。
「結界!」
透明な四角いキューブ上で自らを空間で囲ったコナミはデストレイズの攻撃を間一髪で受け止めた。更にその上で光と闇のマナがまるで槍状になり結界を突き刺したがそれも全て受け止めた。耐えられる!と思ったコナミの安堵の表情とは裏腹にデストレイズの頬は大きく上がる。
「なるほど。全てを理解した」
手に持っていた鎌やマナが急激に形を変えていき、先程の形状よりもより細身で禍々しい形となる。構えも特殊で指先で摘まむ様に持っている。そして闇のマナが溶け込む様に鎌へと入っていった。
何か、何かがヤバい―――!!
「コナミ……逃げて……!」
「終わりだ」
ガシャアアアア!!!
眼にも止まらぬ速度で振り下ろされた鎌は結界をいとも簡単に破壊した。コナミは一瞬出遅れて避けようとしたが右足に鎌が深く刺さった。
「え、あ、が、痛えええ!!」
更に鎌の先端から闇のマナが急激に流れ込み足先が大きく膨れ上がる。そして風船が破裂したかの様に右足が吹き飛んだ。
「ぎゃあああああああ……!!!ああああ!!!結界が!!どうして!!こ、これはウラノスの能力なのに……」
「テメェの結界の能力を破壊出来る鎌とマナを【創造】したんだ。全ての能力や攻撃は一度味わえば自らの身体すらも創造し直して再構築する事で対応出来る。瞬間移動した先も俺自身を適合可能な存在に創造し直せば簡単だ。お前が俺を倒す術は――――」
目の前が眩んだが視界に映ったのは既に振り下ろされようとしている大鎌。瞬間移動でコナミは逃げるも状況は全く変わっておらず目の前には振り下ろさんとする新たに創造されたデストレイズがいた。無理だ、逃げる方法が無い。時間旅行を使っても解決にはならない。
「無い」
「コナミさぁん!!!」
叫び声をあげるアイリはマナを限界まで溜めた剣で攻撃しようとしていた。だが距離があり過ぎてきっとコナミの首を跳ねた後になってしまう上に、対応可能な身体に創造し直されてしまう。
「やめ、ろ!アイリ!!」
「しゃーないなぁ」
突如聞こえた声の先から強力なマナの反応がした。デストレイズ自身振り下ろした鎌を止める事が出来ず、迫りくる危険に反応した時には既に遅かった。
「華水鬼・陽炎」
むわっと熱気が来たかと思うとデストレイズの4本の腕が消し飛んでいた。斬撃というより消滅にも近い攻撃かつ意識の外からの不意打ちにデストレイズ自身驚いたまま状況の理解が追い付かず身体を創造するのに頭が回っていなかった。1秒にも満たないそんなたったその一瞬。
「【英雄】!!」
好機と思ったコナミは一気に身体を治癒させて瞬間的にマナを込める。雷光抜刀撃はもう適合されている、ならば他のマナで攻撃しかない。流れる水のマナを込めたコナミは一気にマナを放出させた。
「流水月光閃」
螺旋状に切り裂きながら進む攻撃にデストレイズは防ぐ術が無かった。反射的に創造して作り出した腕を前に出して受け止めたが、肉を抉る様に進む攻撃に返り血が止めどなく降りかかる。
「テ、テメェ!殺してやる」
腕を瞬時に創造して更に身体もスイレンとコナミの攻撃に対応可能な身体に作り替えた。そして鎌を創造して作っている最中だった。
「華水鬼・宵闇」
デストレイズの頭部を包み込む様に暗黒の布状のマナが垂れ落ち、それが消えた時にはデストレイズの頭部が文字通り消し飛んでいた。まるでマジックショーを見せられている感覚だ。
「アチキの攻撃は一点集中型や!全部は消し飛ばせへんし、どうせこいつは死んでへんしまた復活する!やで創造が完了するまでの時間をかけさせるんや!」
「分かってる!炎獄―――!!」
炎のマナを込めている最中に違和感があった。頭部が無くぐらついて今にも倒れゆくデストレイズの姿に。
何か、違和感。こんなあっさりなのだろうか。
何かを見落としている様なそんな微かな違和感。
炎のマナを込めていたはずの手を止めてコナミは未来視をした。本来ならこの攻撃を止めるべきではないとも言えるが、戦闘経験からなのか感覚的な部分にも近い形の違和感に頭を支配されていたからだった。
「え?」
信じられない未来が目の前に広がっていた。たった数コンマ先の未来に映し出されたのは目の前にいるはずの頭部のないデストレイズの姿が無かった。どこに行ったのかと周りを見渡すとそこには恐るべき物を見てしまった。
「噓……だろ……」
スイレンの身体が真っ二つになり死んだ事にすら気付かず吹き飛んでいる。そしてその傍らには怒り狂った表情をした無傷のデストレイズの姿があった。




