13. 魔法図書室
また深い夢だ。世界は暗闇に包まれて宇宙空間の中で身体が彷徨っている。そこにまた人型の黒く蠢く【何か】が目の前にいる。
『気付いているのだろう?お前は、力を欲している。そうだろう?この手を取れ』
何の事か理解が出来ないがその【何か】はコナミに声をかける。ドロドロに溶けたような手をこちらに差し出してきた。
「お前は誰なんだ?」
『俺は世界から拒絶させられた者』
そう言って【何か】はゴボゴボと音を立てながらヘドロのようなものを口から吐き垂らす。臭いこそ無いが釣られて吐いてしまいそうになった。
「お前はもしかしてシガレット……なのか?」
『シガレット……確かにシガレットとは近しい存在だが、俺はシガレットとは異なる存在。ぐっ、今の力では、もう時間が……』
【何か】は苦しみ始めると周りの宇宙空間はヒビが入り、また吸い込まれるように放り出されていく。【何か】は悲しそうに手を顔に当てて泥のように崩れ落ちた。
『お前にしか出来ないんだ。コナミ。お前にしか』
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ハッと目が覚めるとまだ外は暗いままで、アイリは隣でスヤスヤと寝ていた。どうやらご飯と風呂と済ませた後気が付いたら疲れで眠りについていた。
先程の夢がどうしても気になってしまうが、全ての真実は魔法図書室にあるかもしれない。考えれば考える程にシガレットについての答えが近くにある事に居ても立っても居られなくなった。
静かにドアを開けて魔法図書室へ向かう事にした。廊下は静まり返っており夜中でも警備をしている者は誰一人いなかった。今までの知識と経験から場所は見ずとも暗い廊下をスムーズに足を運んでいく。
そして階段を降りた先にある【魔法図書室】と書かれたドアの前に着いた。
心臓が大きく高鳴り今にも飛び出してしまいそうだ。
ゆっくりと扉を開くと魔法図書室は中央のテーブルを中心に円形の本棚がいくつも並んでいるがそのどれもが4メートル以上はある。宙に浮けないコナミは上の方にない事を願うばかりだった。
テーブル真ん中に置いてあるランタンを手に取ると自動で火が点灯したがそれでも周囲は不気味な程に暗かった。夜の静寂も相まって魔法図書室で怪談話をするには打って付けとも言える。
多くの魔法取得に必要な本や数多くの歴史を刻まれた本が数万冊もある中から探すのは大変だが、伝記や歴史書の分野で絞ればそれ程難しい事はない。自分自身の伝記を探しているだなんて小恥ずかしいが、期待と不安を背負いながらコナミは探し続けた。
探している最中コナミは足元にあった散乱した本に気付かず足を取られてしまった。伝記の分野の棚に置いてある本が投げ捨てられたかの様にも見える程だ。
「なんだ?散らかしっぱなしか。ちゃんと片付けとけよ、ん?」
散らかる本の中に1冊の本だけ違和感があった。強い魔力が込められているような感覚。ランタンを手にしてその本を見てみるとそこには【英雄シガレット】と書かれた本だった。
「ビンゴ……!これだ……!!」
ドクンッドクンッ
心臓が大きく鳴る。ランタンを消さないように持ったままその本を開いた。
フッ
――――――急にランタンの火が消える。辺りは静まり返る。
何かヤバイ予感が身体中を這いずり回っている気分だ。
だがこの本は恐らく真実が書かれている。この本だけは読まずに帰るわけにはいかない。コナミは本をしっかり握ったまま魔法図書室を後にしようとした。
『止マレ』
静寂した空気の中その声はハッキリとコナミの耳に聞こえた。
「何か、何かがやばい!早く逃げないと!」
止まりかけた心臓がバクバクと音を立てる。コナミはそのまま魔法図書室の入り口へ真っ直ぐ走った。急いでドアノブを掴んだがその感触から凄まじい違和感を覚える。
「なんだ、これ。手?」
確かにドアノブを掴んだはずの右手は明らかにドアノブではなく、握手しているような手の感覚を覚えた。コナミは驚きのあまり叫び声をあげようと思ったが、その瞬間何らかの魔法がかかったのか唇も歯も閉じたまま離れてくれず声も出せない。
「……なぜその本を……持っている」
手はしっかりと握られたまま壁を貫通してズルズルと音を立てながらそれは現れた。
世界最強の魔法使いにして元仲間の【大魔導士】メサイアだった。




